日本IBM科学賞第15回(2001年)受賞者
受賞者紹介
常行 真司(つねゆき・しんじ)
昭和36年5月16日生まれ
東京大学物性研究所/東京大学大学院理学系研究科(併任) 助教授

昭和 59年
東東京大学理学部物理学科卒業
昭和 61年
東京大学大学院理学系研究科
物理学専攻修士課程修了昭和 62年
東京大学理学部物理学科・助手
平成 4年
東京大学物性研究所・助教授
平成 13年
東京大学大学院理学系研究科
助教授を併任専門:
物性理論
贈賞の理由
超高圧下物性の理論研究
物質の結晶構造、つまり原子がどのように配列しているか、という問題は、固体物理学の基本中の基本である。しかし意外にも、結晶構造を基本原理から決めることは、固体物理の長年の見果てぬ夢に留まっていた。常行助教授は、この問題においてパイオニア的な役割を果たした。発端としては、半導体デバイスに使われるだけでなく地球の岩石の主成分としても重要な酸化ケイ素(シリカ)を取り上げ、非経験的な原子間相互作用を用いて原子の動きを追う、という分子動力学法を用いて、温度・圧力を変えた場合に現れる様々な結晶構造を調べた。これにより、石英など既知の構造だけでなく、地球内部に対応する超高圧下の構造、また、天然には知られていない新奇な構造まで予言した。同一の物質が複数の結晶構造をとることは結晶多形として知られているが、かくも多彩な構造が存在し、さらに新規に予言された相が実験により追試されるなどのインパクトは多大であり、Nature誌において編集長に「概念的にエベレスト山初登頂に匹敵する」とコメントされた。
その後、常行助教授は、より一般の物質に目を向け、炭素(フラレン、ヘテロダイアモンドなど)や固体水素を扱い、特に量子効果を取り入れるために、重い原子核は断熱的に動かすという近似は使わずに電子と原子核を同時に動かし、経路積分モンテカルロ法を用いて研究した。特に高圧下の固体水素の電子と陽子の状態を調べ、陽子の量子零点振動が結晶構造を支配している、という固体における量子効果を捉え、これを「量子局在」という新たな概念として提唱した。これは固体物理学の“究極物質”の一つとされ、実験の目標ともなっている金属水素についての重要な示唆を与える。
このように、原子間力の性質や量子効果を理解した上での、未知の結晶構造の予言も含めた研究は、21世紀の物性物理学の柱の一つと思われる「物質開発」の理論面を支えるものであり、常行助教授はその世界的第一人者といえ、本賞を贈るにふさわしい。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
