日本IBM科学賞 第16回(2002年)受賞者
受賞者紹介
前野 悦輝(まえの よしてる)
昭和32年2月20日生まれ
京都大学国際融合創造センター/理学研究科 教授

昭和54年
京都大学理学部物理学科卒業
昭和55年
米国カリフォルニア大学サンディエゴ校
(UCSD)修士課程(物理学専攻)修了昭和59年
米国カリフォルニア大学サンディエゴ校
(UCSD)博士課程(物理学専攻)修了(Ph.D.)昭和59年
米国ロスアラモス国立研究所 補助研究員
昭和59年
広島大学理学部物理学科・助手
昭和63年~
平成元年IBMチューリッヒ研究所・客員研究員
平成元年
広島大学理学部物理学科・助教授
平成8年
京都大学理学研究科物理学
宇宙物理学専攻・助教授平成13年
京都大学国際融合創造センター・教授
【専門】
低温物理学・固体物理学、超伝導
贈賞の理由
ルテニウム酸化物におけるスピン三重項超伝導の発見とその物性解明
1986年に層状銅酸化物において発見された高温超伝導は、超伝導オーダーパラメータが方向によって符号を変えるd波超伝導であることが明かにされ、従来のs波超伝導と異なった超伝導として注目を集め盛んに研究されてきた。しかし、クーパー対を作る電子がスピン一重項を形成している点で、d波超伝導はs波超伝導と同じであり、従来のBCS理論を拡張することによって理解できることが多い。これに対して、前野教授が1994年に発見した層状ルテニウム酸化物Sr2RuO4における超伝導は、クーパー対を作る電子がスピン三重項を形成する、全く新しい超伝導状態である。
前野教授の最大の業績は、Sr2RuO4における超伝導を発見したことに続き、これがスピン三重項超伝導であることを実験的に検証したことにある。スピン三重項超伝導状態の存在が実際の物質で、高い信頼性を持って検証されたのはこれが初めてであった。スピン三重項超伝導の検証のために前野教授は、多くの実験家、理論家と協力し、不純物効果、磁場効果、核磁気共鳴など多方面から系統的な実験をおこなうことによって、Sr2RuO4におけるスピン三重項超伝導を確立した。スピン三重項超伝導状態は液体ヘリウム3の超流動状態に類似しており、クーパー対はスピン角運動量および軌道角運動量の自由度を持つ。そこで、まず超伝導オーダーパラメータの対称性を決定する必要があり、また、異なる対称性のオーダーパラメータへの相転移も期待される。オーダーパラメータの決定や相転移の探索、さらには新しい超伝導物性の研究、超伝導機構の解明を目指して、国内外の多くの実験・理論研究グループがSr2RuO4の研究に参入し、低温物理学、強相関電子系物理学における新しい分野が形成された。現在、低温物理学、強相関電子系物理学の国際会議には、必ずといってよいほどSr2RuO4関連のセッションがプログラムに組まれているが、前野教授の研究は常にこの分野を先導してきた。
以上のように、新物質開発から物性研究を一貫して行なうことによって物性物理学に多大なインパクトを与え、新しい研究分野を形成し先導してきた前野教授の業績は大きく、本賞を贈るに誠にふさわしいものである。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
