日本IBM科学賞 第16回(2002年)受賞者
受賞者紹介
寺嶋 正秀(てらじま まさひで)
昭和34年7月7日生まれ
京都大学大学院理学研究科化学 教授

昭和57年
京都大学理学部卒業
昭和59年
京都大学大学院理学研究科修士課程 化学専攻修了
昭和60年~
昭和61年米国ウェイン州立大学留学
昭和61年
京都大学大学院理学研究科博士課程 化学専攻退学
昭和61年
東北大学理学部・助手
昭和62年
京都大学理学博士取得
平成2年
京都大学理学部・講師
平成3年~
平成4年米国スタンフォード大学・客員研究員
平成5年
京都大学理学部・助教授
平成7年
京都大学大学院理学研究科に配置替え
平成13年
京都大学大学院理学研究科・教授
【専門】
分子科学、蛋白質科学
贈賞の理由
新規時間分解熱力学量及び輸送現象分光法の開発と展開
「科学」において、物質の性質と反応は基本的な根幹である。18世紀より熱力学量の測定法と理論体系が作られ、物質の理解に大きな役割を果たしてきた。一方で反応を理解するため、速度論は広範に用いられ、科学における非常に大きな分野となっている。このように反応中間体の解明と熱力学量測定は、両輪の役目を果たし、基本的で重要な分野であることは疑いない。ところがこれまで、熱力学研究は(準)安定状態や平衡状態にある物質にのみ適用されており、反応のダイナミクス研究と言う視点で考察されたことはほとんどなかった。寺嶋教授は、従来は時間発展と言う観点で考えられたことのなかった物理量、特に熱力学量や拡散運動をナノ秒の時間から時間分解することを可能にする手法を開発し、長い科学の歴史上初めて非平衡過程の熱力学量のダイナミクスを測定することに成功した。
寺嶋教授は、開発した手法を、生体蛋白質の関与する反応について応用し、各中間体のエンタルピー変化と体積変化を、温度や圧力一定の反応が起こる条件下で時間分解で観測した。これは、従来は理論計算でしかできなかった、室温で実際に反応している最中に蛋白質がどのようなエネルギー曲面の上を動いているかという情報を明らかにしたものである。こうした蛋白質ダイナミクスへの貢献は、化学のみならず、生物化学や生物物理学者にも大きな興味を持たれている。また、エネルギー変換過程の素過程を詳細に調べるため、エンタルピーを更に高速で検出できるいくつかの温度検出法を開発し、光励起後の0.001度の温度上昇をピコ秒の時間分解能で捉えることにも成功している。これは、熱検出として現在世界最高の時間分解能である。また、化学的に活性な過渡分子の拡散係数を測定するという、これまで考えられなかった研究を行い、光誘起水素引き抜き反応で生成した過渡ラジカルなどの拡散は、大きさや形のほぼ等しい安定分子に比べて、31.5倍も遅く動く事を発見した。また、拡散係数からみるダイナミクスと言う概念を生み出した。
以上のように、寺嶋教授の開発した手法により、これまで独立であった熱力学と速度論の2つの分野の融合がはじめて実現された。これらの研究成果は極めて独創的であり、次世代の基礎分子科学および蛋白質科学の発展に大きく貢献するものと高く評価されており、本賞を贈るにふさわしいものである。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
