日本IBM科学賞 第16回(2002年)受賞者
受賞者紹介
冨田 勝(とみた まさる)
昭和32年12月28日生まれ
慶應義塾大学先端生命科学研究所 所長/環境情報学部 教授

昭和56年
慶應義塾大学工学部数理工学科卒業
昭和58年
カーネギーメロン大学コンピューター科学部 修士課程修了
昭和60年
カーネギーメロン大学コンピューター科学部 Ph.D.
昭和60年
カーネギーメロン大学コンピューター科学部 助手
昭和62年
カーネギーメロン大学コンピューター科学部 助教授
平成2年
慶應義塾大学環境情報学部・助教授
平成3年
カーネギーメロン大学コンピューター科学部 準教授(兼任)
平成6年
工学博士(京都大学工学部電気工学科)
平成9年
慶應義塾大学環境情報学部・教授
平成10年
医学博士(分子生物学・慶應義塾大学)
平成13年
慶應義塾大学先端生命科学研究所 所長
平成13年
慶應義塾大学政策メディア研究科
バイオインフォマティクスプログラム チェアパーソン(兼任)【専門】
生命情報科学、分子生物学、人工知能
贈賞の理由
細胞シミュレーションのパイオニア的研究
冨田氏は1996年から細胞内の複雑な代謝系のシミュレーションをコンピュータを用いて行う研究を世界に先駆けて行ってきた。当時、細胞シミュレーションは研究分野としてまだ認知されていなかったが、冨田氏は細胞シミュレーションソフトウェアE-CELLを開発し、1997年には、127個の遺伝子、495個の化学反応、4268種類の物質から構成されるバーチャル細胞のモデル化を完成させた。この成果はNatureやScienceを始め、種々の雑誌や新聞の記事として紹介された。
細胞シミュレーションは、多種多様な物質を扱うきわめて複雑な系であり、化学反応もナノ秒オーダーの反応から分あるいは時間オーダーの反応が混在している。このような系を連立方程式によるモデリングと解法で解くことは非現実的であり、計算科学の観点からもチャレンジングな課題を提供している。冨田氏は知識工学的な手法の導入によって、この問題を解決した。これにより、化学反応ごとにルール化することが可能になり、ルールの記述には微分方程式のほかに、プログラムを組み込むことも可能にし、確率を持たせた式の記述や、浸透圧や細胞体積の変化などの表現も可能になった。細胞の各部分やコンパートメントなどの場所情報にも階層を持たせ、オブジェクト指向のソフトウェア工学技術を活用した。
その後、実験生物学のグループとの共同研究を通じて、赤血球細胞、大腸菌、心筋細胞、イネ、糖尿病などのモデリングとシミュレーションを行い、欧米からも注目を浴びている。最近は、米国のエネルギー省や国防省主催のワークショップをはじめ、産官学に渡る種々のグループが主催する各国のワークショップにて、招待講演を数多く行っている。また、E-CELLの発表は、システムバイオロジーの流れをつくる大きな要因の役割を果たし、近年、欧米諸国において、細胞モデリングに関する大型プロジェクトがいくつか発足した。冨田氏は、このような動向の中で、この分野の世界的リーダとして認められている。
冨田氏は、現在、急速に発展しつつある、バイオインフォマティクスの分野で、IT主導のバイオサイエンスをスローガンに細胞シミュレーションを目標とした研究を精力的に遂行しており、この分野において国内はもとより、世界を先導して研究を進めている。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
