日本IBM科学賞 第19回(2005年)受賞者
受賞者紹介
平川 一彦(ひらかわ かずひこ)
昭和35年1月19日生まれ
東京大学生産技術研究所 教授
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昭和57年
東京大学工学部電気工学科卒業
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昭和62年
東京大学工学系研究科
電子工学専門課程博士課程修了(工学博士) -
昭和62年
東京大学生産技術研究所・講師
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平成2年
東京大学生産技術研究所・助教授
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平成3年~
平成5年プリンストン大学・客員研究員
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平成13年
東京大学生産技術研究所・教授
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【専門】
量子半導体エレクトロニクス
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贈賞の理由
半導体量子構造とテラヘルツ電磁波との相互作用とその応用に関する研究
固体結晶に直流電界を印加すると、散乱過程がない限り、電子は結晶格子と相互作用し、往復運動を繰り返すことが理論的に予測されている。この「ブロッホ振動」は、頻繁な散乱のために、現実の結晶では起きないが、1969年~70年に江崎玲於奈博士らが提案した超格子構造を用いれば、この振動が実現でき、テラヘルツ帯に及ぶ超高周波の発振器として利用できる可能性が指摘されてきた。しかし、この振動のメカニズムに関する実験は断片的なものに限られ、ブロッホ発振器は未だ実現に至っていない。平川一彦氏は、新しい伝導率測定手法を考案し、テラヘルツ領域の超高速計測技術を駆使することにより、超格子中をブロッホ振動する電子の動きを時々刻々計測し、超格子がテラヘルツ電磁波に対して利得を与えることとその周波数依存性を世界で初めて実験的に明らかにした。さらに同氏は、量子ドット中の電子を赤外光で励起脱出させる新しい赤外線検出器を実現させるなどの成果も達成し、量子構造のテラヘルツ領域・赤外領域での新たな可能性を電子工学・固体物理の両面から切り拓いた。
結晶中の電子は直流電界で加速されると、運動量が増し、量子力学的波長が短くなる。波長が結晶格子と同程度になると、ブラッグ反射を受けるため、固体内で電子が往復運動する可能性がある。このブロッホ振動は、Bloch(1928年)やZener(1934年)の理論に遡るが、現実の結晶では頻繁な散乱に阻まれて、観測されない。結晶格子の数十倍の周期を持つ超格子では、ブラッグ反射が起きやすくなり、ブロッホ振動実現の可能性が高まるものの、その観測は困難を極めた。90年代前半にブロッホ振動に起因する振動が観測されたが、振動は数ピコ秒で減衰し、ブロッホ振動の本質と発振器としての可能性は、明らかにできなかった。これに対し平川氏は、新手法によって電界を加えた超格子中の電子の伝導度を直流からテラヘルツ領域まで計測することに成功し、電子がブロッホ周波数以下のテラヘルツ電磁波に対して利得スペクトルを持つことを初めて明らかにした。
まず、超格子に直流電界を印加した状態で、フェムト秒レーザパルスで光学的に電子を注入すると、電子はブロッホ振動を始める。この状況は、超格子中の電子にフェムト秒で立ち上がるパルス電界を印加したことと等価になる。この時、電子の運動に伴って放射される電磁波の時間波形を計測し、これにフーリエ分析を加えれば、伝導率スペクトルを求めることができる。平川氏は、この新しい伝導率計測手法を考案し、超高速計測の手法を用いて、伝導率の実数部と虚数部をテラヘルツ領域まで定めることに初めて成功した。この結果、超格子がブロッホ周波数以下の広い範囲で利得を持つことを明示するとともに、利得発生に電子散乱が役割を果たすことなども示し、ブロッホ振動の本質解明と発振器応用に向け重要な貢献をなした。
平川氏は、ブロッホ振動の本質解明の研究に加えて、量子ドットを用いた中赤外光検出器に関する先駆的成果など、テラヘルツおよび赤外領域における量子構造の物性解明と素子応用に関する卓越した成果を挙げ、エレクトロニクスの新領域の開拓と発展に重要な貢献をなしており、日本IBM科学賞を授与するに相応しいものである。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
