本文へジャンプ

日本IBM科学賞 > サイエンス・シアター > 

科学者が語る、サイエンスの現在

第2回 山本 尚教授


 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  プロフィール



山本尚氏の顔写真ロケットをつくって、空高く飛ばした。あれはどこへいったんでしょうねぇ。


1.ヘルマン・ヘッセと、ドストエフスキー

ヘルマン・ヘッセ、ドストエフスキー、司馬遼太郎、山本周五郎。昔、全部読んだはずです。

  いきなりですが、山本先生が少年の頃に憧れたものについて聞かせてください。

山本 : 高憧れたものと言うよりは、少年時代は小学校の時に自分でいろんな試薬とかフラスコを買って自分で混ぜたり、いたずらしたり、よくしてました。それから中学校に入ってすぐに科学クラブ、いわゆる化学クラブですね。そこに入って、6年間ずっと、高校卒業するまで、そこで自分で実験をしたり、実験室内をウロウロしたりしていました。ですからそういう点から言うとね、初めからそういうような素地というか、雰囲気があったから。あまり憧れたものと聞かれても困っちゃうんですよね(笑)

  科学へ進むきっかけというか、陳腐かも知れませんが、たとえばファーブルの昆虫記を読んで昆虫学者になろうと思ったというようなきっかけ。化学分野の山本先生には何かありますか。

山本 : ああ、なるほどね。そういうことはあまりなかったです。むしろ私は本が大好きだったので、いろんな人の本をたくさん読みましたね。だから小説ばっかり読んでた。自分の好きな小説というのは、ある特定の人を決めて、その人の小説ばかりを読み続けていく。そんなことをよくやっていました。

  たとえばどんな作家の小説でしょう?

山本 : いろんな人。いろんな本を読むのではなく、ひとりの人の本をとことん読んでいくのが好きだったもんですから。日本ですと、たとえば司馬遼太郎の本は、昔全部読んだはずだし。それから山本周五郎の本も全部読んだはずですね。

  いわゆる歴史ジャンルの作家ですね。

山本 : そうですね。それから、外国ですと、ヒルティ。スイスの哲学者の本を、大学のときの平澤総長という方の影響で、凄く好きになって全部読んだり。それから、ヘルマン・ヘッセ(翻訳)は全部読んだ。ドストエフスキー(翻訳)も全部読んだ。そういう風に、ポチポチと読むのではなく、作家を決めてその人の本を全部読むことが凄く好きでしたね。いまでも好きですけれど。そういう風に読むと、その作家の考える裏側までたどれるような気がしていた。

  化学ジャンルとは全然関係ない作家ばかりですね。

山本 : 全然違いますよね(笑)。

  山本周五郎さんですと、有名な『ながい坂』とかですか?

山本 : そう、そう、そう、あのへんからもっとちいさな短編小説とかも含めてですね。凝り性の方なんでしょうね。

  山本さんの本を読破したのは、高校生の頃ですか?

山本 : ええ。そうですね。だから、自分が理科系に向いているとか、文科系に向いているとか、そんなことはほとんど考えたことがなかった。ただ、実験は好きだったし。中学高校のときに、かなりたくさん実験をやったという記憶があるんです。たぶん、大学の学生実験よりはたくさんやったと思いますね。その頃、フィーザーの有機化学の入門書とか、高校のときはもう読んでいましたから。ですから、自分の道がこう行くとかですね。自分の道をこう決めるというような記憶が全然ないんですよ。最初からそうするつもりで。有機化学やりたいと。

  山本周五郎さんなどの歴史小説を読みながら、リアルタイムで有機化学について考えていた…。

山本 : ええ、そうですね。なんの矛盾もなかったですね。


上に戻る

2.現実の世界を設計する

分子を設計する。それは現実の世界を設計すること。

  親族の中に化学方面で活躍なさっていた方はいましたか?

山本 : 全然、いないです。父親は銀行家でしたしね。ただ兄弟は、男3人、女1人で、男3人は理科系で、わたしは末っ子なもんですから、上から言いますと電気、機械、それからわたくしと、全員工学系の方へ進んでいますね。だから、へそ曲がりで電気とか機械はやりたくなかったのかも知れない(笑)。人と違うことだけをやりたかった。

  このインタビューを始める準備としてこんな本を買って読んでみました。現代物理学小辞典。ただ、正直に告白すると、一冊本を用意したからと言って、山本先生がIBM科学賞を受賞した有機アルミニウム化合物の話が理解できるわけありません。ただ、このインタビューの主旨は科学者の人物そのもの、パーソナリティに光をあてたいというものです。ですから、トンチンカンな質問などあったらご勘弁してください。

山本 : いやいや、むしろその方が面白いと思う。だけど、その現代物理学小辞典に書かれている世界と、われわれの化学の世界とはちょっと違う。わたしのイメージからすると化学というのは、分子模型みたいに自分で三次元の分子を組み立てていくとかですね、そういうとこが一番楽しいところです。だから、分子は目に見えないですよ。自分でデザインするというのだったら、建物なんかをデザインする建築家さんがいますよね。あれ、わかりやすいですよね。自分でつくって、こういう建物にして、扉や窓をここにつけてとか。今回はこういう色にしようとか。こういう機能を付与するために、こういう建物にすると考えるでしょう。分子の設計もほぼ同じなんですね。こういう機能が欲しければ、こういうものがこの場所に欲しいとか。そうするためには、どういうことを考えればいいのか。それと建築とどこが違うかと言うと、サイズが違うだけなんですよ(笑)。片っぽは目に見えない。片っぽは目に見える。その違いだけなんですね。だけどデザインという面ではまったく同じで、そういう点から言うと、いま言われているデザイン、たとえばこの『科学の扉』の表紙をデザインするのと、実際、ほとんど同じ。ただ目に見えない方が、人に見えない方が面白いやというようなね(笑)、すごいへそ曲がりですよね。

わたしがやっているアルミニウムの反応剤というのもそういう意味から言うと、ひとつのデザインなんです。デザインを付与したときに、いままでなかった新しい反応性とか、選択性とか、人がこう感動するようなね、状況が生まれて来るんじゃないかと。確かに生まれて来る。生まれて来たものが、どうわかるのか。建物だったらもう目の前にありますから。扉を開けて入ればすぐにわかりますよ。分子だと、実際につくってみて、なんか反応があると、結果が全然違う。結果が違うことも目に見えないのだけど、これはある分析手段をとればやはり違っていることがわかる。できたものの物性、物質の性質が全然違う。ですから、化合物をつくる、化合物を設計するというのは、現実には世界を設計することなんですよ。全部の世界は、化合物からできている。基本的なところは全部、設計できるんです。深く考えると、その方が楽しいかも知れないですよね。


上に戻る

3.もう看板はどうでもいいです

もう看板はどうでもいいです。でも、医学とか、薬学とか、工学とか、理学とか、いままでの分類とは違う感じで捉えていきたい。

  アルミニウムというのは鉄に代わる物質だと注目されていますよね。

山本 : いや、そうじゃなくて、鉄に代わる繊維っていうのはいっぱいありますよね。鉄より細くて鉄より強い繊維はいっぱいありますよ。ケブラー繊維の手袋なら釘を刺そうとしても刺さらない。ピストルで撃っても通らない。そのくせ、凄く軽いわけですよ。なぜそうなのか。なぜ強いのか。鉄よりも強いというのはどういうことなのか。そういうことをずっと突き進めると、先ほど言っていた構造の話になるんです。こんな形になるから強いんですよ。じゃあこの形のここをこう変えて、ここに窓をつけた方がもっと建物が明るくなる。それと同じように、ここにもっと出っ張りをつくった方が強くなりますよと。そういうことあるでしょう?自分で色々考えて設計してつくりあげる。そういうプロセスなんです。だから、ある意味で、すべてのサイエンスの基本になっていると言っても、そう大きな間違いではないと思いますね。

  山本先生の研究を続けていくと、具体的にどんなことができるようになるのでしょう。もちろん、すべてのサイエンスの基本部分をつくっているのなら、説明するのが難しいとは思います。

山本 : ですから、そういう話をすると、捉えどころがないから。非常に具体性が乏しくなってしまう。それが辛いんですよね。わたしの研究室でやっていることは、たとえばいま研究室の名前は生物機能工学です。つい最近までは物質化学という名前で、その前は応用化学だった。講座は変わったりしてますけれど。実際やっていることは全部同じ。反応設計し、化合物をつくる。その反応設計の目的として、ひとつは医薬品とか、農薬のような生物に活性のある化合物をデザインする。高分子のような素材として役に立つとか。夢のなんとかのようないろいろありますよね。そういうようなものをつくりあげていく。ですが基本は、それをつくりあげるプロセスを、自分の研究室でつくりあげようと。ですから、もう看板はどうでもいいんですよ。はっきり言って。ただ、分子の設計をやるんですということだけ。医学でも薬学でも工学でも理学でも、そういういままでの分類分けとは違う感じで捉えたいなと思っています。

  サイエンスのベーシックな部分を研究している。そういうことですか。

山本 : そうですね。


上に戻る

4.目に見えないから、美しい

分子はね、目に見えないから、美しいんです。

  サイエンスのベーシックな部分のどこに魅力を感じますか。

山本 : 建物、建築の話をしましたね。設計するのはすごく楽しい。絵を描いてどこが楽しいか。こういうのを(科学の扉を)デザインしてどこが楽しいか。楽しいですよね(笑)。それと同じなんだ。

  失礼しました。

山本 : (笑)面白いからやるわけなんです。たぶん、目に見えるより、もっと楽しいですよね。目に見えない方が。

  神秘的ってことでしょうか。

山本 : うーんとね、(目に見えないものは)もっと幅があって、もっと色んなことができるから。壁の上に色を塗って絵を描く。それは色や壁に左右されますね。それから二次元という次元に左右されますね。(分子デザイン)はそれらすべてから解放されているわけですね。それに美しいし。美しいと思うかどうかって言うのはね、なかなかのものなんですけどね(笑)。美しさをわかるには、結構勉強しないとわからないけれど。でもやっぱり美しいですよ。

  制約が比較的少ない研究テーマと言えるのでしょうか。

山本 : いや、そんなことはないですよ。制約も非常に大きい。薬をつくるのも薬をデザインしなければいけない。デザインしてつくるというプロセスが絶対に必要になる。われわれは、そのプロセスを担当しているんです。

  ところで、科学技術基本法が成立されました。いまなぜ、日本の科学の周辺がにぎやかなのでしょう。

山本 : 新聞とか雑誌とかでいろいろ書かれていますよね。われわれとしては、歓迎すべき変化だという気はします。確かに研究費の重点配分というのはこれからダイナミックに行われるでしょうから。わたくしは、大学に対する国の投資というのは、日本は必ずしもそう小さくなかったと思うんですよ。世間一般で言われているほど、小さくはなかった。問題は、重点投資が全然できていない。特定の研究に対して重点的に投資するというのがなくて、すべてばらまかれてきたわけです。終戦直後、たった10もなかったような国立大学がいま、100前後ありますよね。で、大学の数は10倍になった。それぞれの大学のサイズが随分大きくなった。ですから、終戦直後から言いますと、大学の数というのは、あるいは教官の数というのは物凄い数になっていると思う。大学生とか、大学院生の数が増えていることも反映しているのですが。それに対していままでのやり方ですと、ほとんど一様な形で援助が行われてきた。どの研究にも生きる権利はあるわけですよ。そういう形でサポートされてきた。

それはそれで非常にいいことなんですけれど、逆に場合によると悪行になる可能性もあるんです。それは日本の社会の成り立ちの問題と、どう兼ね合いをつけていくかということだと思うんです。どれだけ、どのへんまで、不平等を容認できるかという問題。このへんまでは我慢しましょうと、これ以上の不平等は嫌だというのは、きっとひとりひとりイメージがあると思うんです。今度の科学技術法というのは、そういう意味からすると、いままで以上に不平等を導入しようとしているのではないかと思いますね。だからわたし自身の研究がいいとか悪いとか、そういう気持ちは毛頭ないんですが、もっと批判を受けて、いいと思われたらもっと研究をやりやすい体制にしていただきたいし、悪いと思ったら、もっと反省をしてね、自分で研究方針その他については考え直しをしていきたいと。そういう気がしますね。

  科学者のみなさんにとっては嬉しい法律ですよね。

山本 : (笑)。そうとも言えないでしょう。


上に戻る

5.サイエンスはどこが無駄遣いなのか、一概に言えない

サイエンスは、どこが無駄遣いなのか、一概に言えない。

  諸刃の刃のところもある。

山本 : それは当り前のことかも知れないですよね。少額であれ、高額であれ、お金をいただいて研究を進めて、その成果を一応世の中にだそうとするわけですから。責任はやっぱりあるわけです。ただ、それがどんどん高額になって、自分の想像の範囲を越えてしまいますと、今度はそれに対して妙な責任感を感じ始めるのが当然だと思います。サイエンスというのはある意味で、どこが無駄遣いで、どこが無駄遣いじゃないかというのが一概には言えないところがある。一見、無駄遣いに見えているのが、本当の無駄遣いではないかも知れないし、逆に壮大な無駄遣いをしているのかも知れない(笑)。

  ここにあるプラスチック製の分子模型だけで研究はできないってことは、素人のわたしでもわかります。では、具体的にどんなところでお金がかかるのでしょう。

山本 : われわれのところですと、実験室で実際に学生さんが毎日実験をするから、試薬、溶媒、装置がいる。できたものが何かを分析する別の機械がいる。試薬ひとつにしてみても場合によっては10ミリグラムで10万円かも知れない。1日で10万円パッと飛んでなくなっちゃう。その学生さんが失敗したら、なんにもなくなるんですよね。無駄使いすれば、あっという間にお金がどんどん消えてゆく。ましてそのアイディアが悪ければ、もっとひどいですよね(笑)。ですからお金なんていうのは、われわれの研究分野ではいくらでもいるって言っても間違いではないと思いますね。


上に戻る

6.実験はまるで探偵小説

実験とは、 毎日先のわからない探偵小説を読んでいるようなものです。

  最近、理科系の授業に人気がないそうです。

山本 : わたしが有機化学を好きになったのは、やっぱり実験が好きだったからね。もっと実験ができるようになればいいなとは思いますね。それと化合物を、自分がつくった化合物を自分の手の中に持つことができる。これはひとつの感動なわけです。たとえばですね、中学校2年位のときにサッカリンの合成を自分でやったことがあるんです。クロロスルホン酸というのを混ぜて、そこからいくつかのステップをつんで、最終的に白いサッカリンの結晶をつくるわけですよ。

  目に見えるわけですね。

山本 : 目に見えますね、結晶はね。これは自分がつくったものだと。ひとつの流れでつくった。凄く楽しいですよね。

  学校の理科室というのは、どこか人をドキドキさせる匂いというか、雰囲気がありますよね。理科の出来が悪かった子供たちも実験はきっと好きだったと思うんです。

山本 : そうなんです。毎日ドキドキするようなことが続く。それが本来の実験室だと思いますね。毎日、混ぜて毎日実験をして、毎日結果がわかると。それは毎日先のわからない探偵小説を読んでいるようなものですよね。

  実験は理科の人気回復には不可欠な要素かも知れません。

山本 : (実験があれば人気は)落ちないと思いますし、あまり理論理論で追い詰めていくと、楽しくないですよ。だから、わたしはあまり理屈ばかりが先行すると、よくないんじゃないかなと、個人的な考えは持っていますね。いまの中学校とか高校の化学の教科書は、わたしが見てもあんまり面白くないと思いますから (笑)。感動がないですよ。だってナントカの法則とかいっぱいあって、その数式があってもそれは感動には結びつかないですよね。


上に戻る

7.切れる人と、賢い人は違います

IQだけで選ばれたんじゃ困っちゃう。切れる人と、賢い人は違いますよね。

  高校の教科書は確かにとてもつまらなかった記憶があります。でも、ダーウィンの『種の起源』やファーブルの『昆虫記』なんかはとても面白く読めました。

山本 : ええ。たぶん、われわれは大学の入学試験でふるいわけをしているわけです。本当にいい人たちが、本当に科学が好きとか、実験が好きだという人が、(大学に)来てるのかというと、そうでもない気がします。いまの大学入学試験というのは、ある意味で決まりきったことを、素早く的確に答えられるかどうかだけですよね。人の考えに沿った考えができる人の方が、実際上はいい答えがでるし、点数もいいでしょう。だけど、本来はそうであってはいけないんで、人と違う考えが楽しめる人とかね。それから、何か目標を与えられたらあまり周りのことを考えずに、それに向かって走っていける人とかね。そういう人の方が向いているのかも知れない。もしかしたらそういう部分を逃しちゃってる可能性がありますね。これはこれからの人間の選別方法の問題だと思う。IQよりもEQだとかいう本がありますね。

  はい。ベストセラーになりましたね。

山本 : IQだけで選ばれたんじゃ困っちゃうんですよね(笑)。EQについて書いている本のこれがEQだっていうようなシリーズを読んでいると、(EQに優れた人たちの)半分位が実験室に本当に入ってきたらどうかと。化学やサイエンスをやる上ではね、あれは大変重要な指数ではないかなという気がしましたね。ただ単に賢いというのではなくてね。よくね、頭が切れるという言葉があるでしょう。あの人切れる人だと。切れる人と賢い人は違いますよね。

  賢いっていうのは、知識の蓄積の結果ですか。

山本 : そうそう、知識の蓄積が非常にあること。切れる人って言うのはまた違うし、周りの雰囲気を瞬時につかんでね、考えることができる人とかね。それは違うはずだと思うんです。5分で答えをだせと言われてだせなくても、1週間経ってどうだ?と聞かれたらだせる人がいるはずです。わたしは学生によく言うのですが、自分がいま、凄く不思議だと思っていることがある。その不思議だと思っている自分の疑問をね、5分後に、あるいは10分後、1時間後にね、答えをだしてしまっては面白くない。その疑問を何年間持ち続けることができるかで決まるんだって。1年持ち続けるか、10年持ち続けるかによって、その疑問自身が育っていって、大きくなるんです。で、大きくなってそれに対していろんな答えを自分自身の中で考えて広げて、構築する上でひとつの大きな分野ができあがっていく。パッと答えをだしてしまったら一瞬で終ってしまう。せっかくの種が消えてしまうわけ。それは非常に残念じゃないかと思いますね。

  いわゆる受験勉強とか、英語の検定試験とは対局的な考え方ですね。

山本 : そうですね。瞬時に答えをだすんじゃあまり面白くないなと思いますね。


上に戻る

8.盗め、殺せ、火をつけろ

若い人へのメッセージ?『盗め、殺せ、火をつけろ』です(笑)。

  科学の成果というのは人類共通の財産になります。その財産をつくりだしているひとりとして、若い人へ何かメッセージをお願いします。

山本 : 若い人たちに、15とか20くらいの人たちによく言う言葉としては、大昔に読んだ本でなだいなだという人の本があるんですけれど。あの人がねえ、『盗め、殺せ、火をつけろ』という言葉をね、書いているんです。それはもうわたしは一番好きで、なんか学問をやろう、なんか実験科学とかサイエンスをやっていこうと思ったら、盗め、殺せ、火をつけろ。これくらい強烈な言葉ないですよね。新しい学問を創造していく上では絶対に必要な言葉ですよ。いままでの学問を踏襲していくだけではダメなんですね。盗んで、しかもその盗んだものを殺してしまって、火をつけて燃やして新たに創りあげるというね、いかにも激しいですけどね(笑)。これだけの激しさをもってやっていけば凄く面白いと。そういうことでないとダメなんですよね。

  既にある価値観を全部受け入れてはダメだということですね。

山本 : もう、そういうことですね。新しいものを創造するっていうのはそういうことなんじゃないかと思いますね。

  「盗め、殺せ、火をつけろ」といういわばKEY WORDに出会ったのはいつ頃のことでしょう。

山本 : もう・・・。30年位前ですかねえ。ずいぶん前の話ですね。まだ、なだいなださんがそれほど有名じゃないときですからね。

  山本先生は20代だった・・・。

山本 : そうですね。

  科学者の方から文学作品の話を聞くというのはとても意外な気がします。先入観があったのかも知れませんが(笑)。

山本 : 好きな本の好きなフレーズなんて、いまでも覚えているところが山ほどありますからね。だから下手な理科なんか勉強するより、本読んだ方がわたしはいいと思いますけどね(大笑)。・・・.とにかく、若さっていうのは、まったく保証がなくても誇り高くないといけない。保証があって誇り高くはいくらでもできるんですよね。保証がないくせに誇り高くしている。これはなかなかできない。これは自分の将来を賭けて、自分の将来を保証に考えているから誇り高いわけです。自分を安売りしない。自分のやりたいことをやっていく。たとえどんな地位にあったとしても自分は将来凄く大きな仕事をするんだと。そういう気持ちを持ち続けることが大切なんじゃないかと思いますけどね。

  根拠のない自信が大切だと。

山本 : そうですね。根拠のない自信。だけど、鼻もちならないのはいかんのですよ。だからね、結局そこが難しいところで、自分の将来に対して絶大な根拠をもっていることなんですね。鼻もちならないぐらいがいいんだという歌謡曲のね、フレーズとはちょっと相反するんだけど(笑)。自分を安売りしないで、大切にする。そういう気持ちがいい勉強とか、オリジナルな仕事に結びついていくような気がするんですね。かと言って、わたしはやっぱり(若い人は)紳士であって欲しいし、淑女であって欲しい。人を傷つけるのは困る。だから鼻もちならないのはイヤだというのは、そういう意味なんです。人は傷つけない。それで確固とした自信をもって、保証はないのに胸をはって生きていって欲しいなと。

  後楯を意識するなと。

山本 : ええ。飢え死にする人はいないでしょう。ほとんど(笑)。守りに入っちゃったらもう面白い仕事なんかできっこないですからね。さっき言ったような盗め、殺せ、火をつけろの世界に入れないでしょう。


上に戻る

9.日本民族がよくならなくても人類全部がよくなればいい

別に日本民族がよくならなくても人類全部がよくなればいい。叱られるかも知れないけれど。

  90年代はさまざまな意味で非常に変化の多い時代です。環境破壊や各地での紛争、人口爆発、エイズなどたくさんの問題、ネガティブな要素を抱えています。生物が飛躍的進化をするときはいつでも危機であるという説もありますが、ヒトという生物は現在の危機的状況をバネにして、次の次元に入っていけるのでしょうか。山本先生の研究テーマである「有機化合物」がこれからの21世紀の世界に与える影響、そして人間に何をもたらすのか。かなり抽象的な質問なのですが、聞かせてください。

山本 : わたくしはサイエンスの将来に対して、あるいは人類の将来も含めてですが、非常に楽観的ですね。そんなに悲観的なものの考え方をする必要はないんじゃないか。昔から悲観的なことを言う人はいつの時代にもいた。20年前も60年前も100年前もいつだっていたと思います。いつだって世紀末だと、それに近い議論はいつだってあったけれどもいつもそれは嘘だった。わたしはそう思うんです。本来、人類が壁にぶちあたって、どんどんしょげかえっていくようなことはわたしはないと思います。ただしね、民族という話になりますとこれは別で、日本民族がじゃあどうかと言われると、ますますよくなるのかなということに対して、わたしはあまり自信がなくて、でも別に日本民族がそんなによくならなくても人類全部がよくなればそれはそれでいいんじゃないかと言うと叱られるかも知れないけど(笑)。もう少し大きな目で見ていってもいいんじゃないかなと思いますね。

たとえば、さきほどの若い人の理科離れの話。確かに理科離れがあって、理科だけではなく、根気をもって何かをやるという人が減ってくる。それはきっとその民族自身としてはね、力がだんだんと減ってくると思うんです。だけどそれはね、生物学的には当然のことかも知れない。一度シュリンク(縮少)したものがまた、エキスパンド(発展)する時代もあるだろうし。長い目で見れば、それはしょうがないから、それを止めようとかね、冷たい言い方かも知れないけど (笑)。それに対して歯止めをしようとしてもタカが知れてるんじゃないですかね。毎日毎日、大事にひとりひとりが生きていれば、そんなに悪くなるはずはないと思いますが。


上に戻る

10.あるところまでいくと、本当に感動しちゃうんです

美しいものが、たぶん普通の人より見えるのかも。あるところまでいくと、本当に感動しちゃうんです。

  未来に対しては非常にポジティブに考えていらっしゃるのですね。ところでまた、抽象的な質問なのですが、ある種の研究を突き進めていって未知のエリアに到達する科学者には、いったいどんな景色がみえるのでしょう。ちょっと分野は違いますが、宇宙飛行士のように地球を外側から見た人間の一部には、神の問題を挙げる人もいます。

山本 : えーとね、わたしの分野でも少なくともやれることの1/10000もやれない。そんな程度だと。科学技術の進歩とかそんなことを言っているけれどもね。まだまだ、ダメなんですよ(笑)。要するにわれわれが知っていることなんて本当に少ないですよ。だから楽しいんです。だから毎日ワクワクしながら実験もできるし。・・・.何が起こるかわからない。何が起こるか全部わかっていたらちっとも面白くないわけです。それと同じで、すべてを知っているものに対してどうなのかと言うと、それはやはり、崇高な気持ちを持ちますよね。それを持たないと、美しさに対して感動できないんじゃないですか。

  なんか物凄い言い方ですが、全宇宙を司るような存在(笑)、またはすべての生命体の素をつくった大王とか女王(笑)が存在するなら、それに対しては崇高な気持ちを抱いていると。

山本 : (笑)少なくともあったほうが楽しい。だから世の中には正しいことと、正しくないことがあるけれども、もっと大事なことは楽しいことか、楽しくないこと。その判断の方が大事ですよね。

  第一線で活躍する科学者の方に、難解な問題、たとえば全宇宙を司る存在(笑)について質問したかったんです。

山本 : まったく同じですよ。科学者でも何でも(笑)。ただ、美しいものが、たぶん普通の人より見えるんじゃないですか。たとえばね、人間の体ってよくできてるねって言いますよね。じゃあ、どこがよくできてるかってことを説明できる人って言うのは割と少ないですよね。それをもっともっと詳しく知れば知るほど、もっとよくできていると思うんですよね。で、あるところまで行くと、もう本当に感動しちゃうんですよね(笑)。たとえば、人間の体の中のある酵素の働き、電子の動き方、メカニズムなんかを知れば知るほど、凄いなって思いますよね。たぶん、それを知って、その次に何かをわかるときっともっと感動する。


上に戻る

11.マリリン・モンローと、アメリカへの憧憬

マリリン・モンローとかの映画が契機になって、心のどこかにアメリカへの憧憬が生まれた気がします。

  好きな映画について聞かせてください。

山本 : そうですね。母親に連れられて映画を見に行った。なんであんな映画を見に行ったのかなと思う映画がたくさんありますけど(笑)。マリリン・モンローの当初の映画なんてよく知っているしね。『帰らざる河』とかいろいろあるでしょう?ああいうの好きですよ、割合。

  『荒馬と女』とか・・・。

山本 : そうそうそう。それから当時、アメリカの世界を映していた映画っていうのは、たくさん紹介されていた気がします。印象に残っていますね。それがひとつの契機となってアメリカに行きたいなって、心の中のどっかに芽生えていた気がします。アメリカの広さと、おおらかさが素敵だなと思った。もうひとつは、SF。いまは氾濫していますよね。だけどわたしの小学校時代なんていうのは、SF映画なんてほとんどなくて、たまにね、宇宙大作戦とか大戦争とかね、いまから考えると凄く幼稚なSFが、アメリカ製だったと思うのですが、時々あった。結構好きでね。

  『惑星ソラリス』とか、あの時代ですか。

山本 : もっと前。40年以上前ですよ。

  座右の銘はありますか。

山本 : これから創造性をだそうと思うと、父親からは、兄弟があまり仲良くなかったので、『和を以って貴しとなす』を、座右の銘にしろと言われていましたけど。いまからの時代って言うのは、そうではなくて、『和して同ぜず』というのがね、いいんじゃないかなと。日本人的な気持ちから言えば、やっぱり和さないと、日本社会って言うのは、うまく流れていかない。だけど、同じにはしない。同ぜずというのは、同じではないということですよね。これからは凄く大事ではないかと。自分を主張しながら、人を傷つけないというのは、なかなか難しいんですけどね。さっきからずっと、同じことを言ってる気がしますが(笑)。

  凄く理想的な形での個人主義ということですか。

山本 : そうです。そういうことですね。

  和してという部分は、日本社会の構造上仕方がなくて、アメリカのような個人主義には成りえない・・・。

山本 : 成りえないですね。


上に戻る

12.いまでは考えられないユニークな教育を受けた

いまでは考えられないユニークな教育を受けた。3年間、ずっと同じ小説を読まされたり。

  影響を受けた人物、あるいは尊敬する人物はいらっしゃいますか。

山本 : 若い頃読んだ本というのは、全部大好きだったし。その作家たちは大好きですね。それから、京都大学の平澤先生。大学の総長だったんですよね。その先生は素晴しかったですよね。いまから考えてみると。わたくしは中学、高校と灘中、灘高と6年間、一貫教育を受けたんですよ。その頃の灘中灘高というのは、決して受験校ではなかった。ただ、かなり思い切った教育をしてくれたんですね。教育方法としても非常にユニークで、そのときのいろんな先生を尊敬している気持ちをもっていますね。いまでは考えられないほど、ユニークな教育を受けましたからね。たとえばね、中学校の国語の時間に、いまもご存命ですけど橋本先生という人が、中学校1年から3年間、中 勘助という作家の「銀の匙」という非常に薄い本があるのですが、それを1ページ1ページ、詳細に検討していく。中学1 年の初めからずっと3年間ね。これが凄い。1行1行。たとえば、七福神という言葉がでてきたら、七福神とは何かってことをね、とことん調べていく。

  100ページくらいの本ですか。

山本 : そうですね。100ページから150ページくらいのもんですね。なかなか名作ですよ。それから数学の先生も面白くて6年一貫教育だったから、ざーっとやっちゃって、中学終る頃には、大体大学の文系の受験に必要な数学は全部終っているんですよ。でもね、そんなにスピードがあるようにも思わなかったし。面白かったのは、たとえば、中学1年の夏休みの宿題に、ピタゴラスの定理ってあるでしょう。あれの証明を考えて来いって言う。生徒が150人いて、ひとりずつみんな自分で証明を考えてくるんです。そうすると、60、70くらいの証明がでてくるんですね。それを1冊の本にしてね、みんなに配ってくれる。

  いまの管理教育とは性格が違う・・・。

山本 : 全然違いますね。


上に戻る

13.五年後がわかっていたらつまらないよね

陶芸家に、5年後何をつくりますかって聞いて、まともな答えが返ってきますか。わかっていたらつまらないでしょう。

  これから5年後には、何をしているでしょう。

山本 : (笑)それも時々聞かれるんですけど。絵描きさんやね、陶器をつくる人にね、5年後に何を描きますかとか、どんな器をつくりますかって聞いて、まともな答えが返ってきますかっていつもそうやってお答えするんですよ(笑)。5年後がわかっていたら、わたしはつまらないからいまやらないですね。

  失礼しました。愚問でした(笑)。いまのはいわばインタビューの常套質問でした(笑)。それではですね、研究の次に大切なものは何でしょう。

山本 : 研究が楽しいのがなぜかって言うと、楽しいからですね。面白いからやっているだけの話で、面白くなかったらやらない。だから大切なものは何かというと、楽しいもの。気持ちがいいもの。うれしいもの。たべるものとか(笑)。たべるものはなんでも好きですよ。おいしいものがあったらどこまででも飛んでいきますよ(笑)。

  これから達成したいことはありますか。

山本 : そうですね。楽しいことやりたいですよ。


上に戻る

14.まるで海の底みたいな部屋

まるで海の底みたいな教授の部屋で、自分の人生を生きているって気がした。

  いままでの自分の人生を振り返って、一番思い出深かったことを、聞かせてください。

山本 : 大学を卒業してすぐにハーバード大学に行ったんですが、そのときに、もう亡くなられましたけど、アール・ビー・ウッドワードという先生。いまではもう神話の中の先生が、有機化学の巨人がいたわけです。その先生のハーバードの化学の主任教授の部屋に行って、どういう目的でハーバードに来たんだとか、これから大学院生として、何をお前は勉強していくんだというようなお話しをね、10分から15分位インタビューを受けて、ハーバードでの生活でどういうことを勉強するのかとプランニングをたてさせられた。それは感動的な一瞬でしたね。やっぱり憧れてましたし。憧れている先生のところへ行ってね。・・・.またその先生が変わっていて、ブルーが大好きなんですよ。部屋中ブルーなんです。ソファーから家具から全部ブルー。着ている服もネクタイもブルー。車もブルーでね (笑)。その部屋へ入っていくと、自分が海の底に入っていくというかね。そういう雰囲気ですね。少なくとも、わたしがそれまでに見た大学の先生のイメージとは全然違うなと思いましたね。人生を楽しめるというか。凄くね、自分の人生を毎日生きているような気が、若いながらもそういう気がしたんです。

  威厳のある先生のイメージではなく、高圧的でもなかった・・・.。

山本 : お前も人間ならわたしも人間だというね。その先生自身は本当に早死にしてしまいましたけれど。1日に煙草を3箱くらい吸って、ウイスキーを毎日1本飲んでいたような先生です。そのくせ、当時は、いまでもそうかも知れないけれど、右にでる人はいなかったですね。かと言って、決して不親切ではない。なんか、日本的な先生のイメージとは違うんです。研究者とも違って、なんか人間って凄いなって気がしたんです。わたくしはハーバード大学へ大学院の1年生から博士号を取るまでいったわけですけど、何がよかったって、ただひとつ。そういう先生に出会って、そういう先生も結局人間だったってことに気がついた。決して特別なものではない。

  サイエンティスト、特に優秀な方は特別視されがちです。科学雑誌を読んでもあまりサイエンティストの人物そのものにアプローチしたものはありません。この『科学の扉』はインターネットでオンエアされるものです。言うまでもなく、インターネットは誰でも手軽にアクセスできる。科学専門誌みたいに敷居も高くない。

山本 : シリーズとして出来上がったら面白いですね。

  ありがとうございます。きょう、山本先生のお話しを聞いていて、さきほどの作家のお話しですとか、いまさっきのハーバード大学の先生のお話しもそうですが、とても詩的な印象を受けました。そこで最後にもうひとつだけ。インタビューの前半で作家のヘルマン・ヘッセやドストエフスキーの話がありました。あの「車輪の下に」などで非常に高名な作家であるヘッセやドストエフスキーと、現代のサイエンスの最先端でご活躍なさっている山本先生がどう繋がるのか。そのあたり、文学と科学の融合なんて言うと大げさですけど(笑)、もう一度聞かせてください。

山本 : ヘルマン・ヘッセのね、『硝子玉遊戯』という本、素晴しいですよ。随分分厚い本です。これはね、未来小説みたいなもんですね。

  あと、ドストエフスキーのお話しもありました。

山本 : ロシア人っていうのは面白いと思いますよ。凄く面白いと思いますね。エリツィンさんを見てても(ドストエフスキーの)『カラマーゾフの兄弟』と、イメージがところどころで重なったり離れたりして面白いですよね。登場人物なんかのイメージは、僕が知っているロシア人の友達のイメージと凄く重なるんですね。

  アメリカ文学はいかがでした。ヘミングウェイとかスタインベックとか。

山本 : あんまり好きじゃなかったです(笑)。なんで好きじゃないかと言うと、僕は英語が大嫌いだったんです。本当に英語ほど、嫌いなものなかったんでヘミングウェイの小説なんかは、英語で読まされるじゃないですか(笑)。それだけでもう嫌だった。

  他にお好きだった本は?

山本 : 『モンテクリスト伯爵』ってありますよね。僕の覚えてる限りで20回は読みましたね。20回読むと、ページの最初の1行でどの場面が書かれているのかわかるんですよね。

  あのデュマの長い小説をどうしてそんなに読み返したのでしょう。ストーリーですか。

山本 : ストーリーも好きだったし。憧れていたのかも知れないですねえ。物の考え方が、割と合理的で、自由なところがあったような気がするんですね。日本の本を読むと、息がつまって、イヤで。夏目漱石や島崎藤村なんかも非常に綺麗な文章を書くなと感動するんだけれど、考え方が合理的に流れていないですね。凄い軋轢があって、心の変化を書いてあったり。そういうのはあまり好きじゃなかったですね。

  海外の文学作品に憧れた気持ちというのは、化学への憧れと同質のものなのでしょうか。

山本 : だからね、文系と理系をわける方がおかしいんですよ。わたしは、山本周五郎の本がとても好きですし。あの切り口とか文体の流れとかね。

  10代の頃に読んだ本で、1冊あげるとしたら何かありますか?

山本 : 大好きなフレーズを言えっていったら、旧約聖書なんです。『すべての物事には時があって美しい』。このフレーズが、ずっと数ページに渡って続くんです。たとえば、笑いに時があって、悲しみに時がある、喜びに時がある。ずっと時があるって言うわけ。で、一番最後に、『すべての物事には時があって美しい』と終るんです。だから人間生きている上で、なんかこう、本当にその瞬間、その瞬間、凄く美しいんですよ。どんなに悲しんでいてもどんなに苦しんでいてもね。旧約聖書の中でその部分が好きで、自分の心に迷いがあったら、そこをいつも読んだりしますし、大好きですね。すべての基本であるという気持ちと美しさですね。

  有機物、無機物含めての美しさ・・・。

山本 : そうですね。有機物と無機物の差なんて、わたしはないと思いますね。すべて物質なんですね。物質を根源から作り上げて設計していく。こんなに素敵なことはないだろうと思います。楽しいですよ。もっとたくさんね、若い人がこの分野に入ってきてもいいと思うんだけれど。


上に戻る

15.ロケットをつくって、空高く飛ばした あれはどこへいったんでしょうねぇ

ロケットをつくって、空高く飛ばした。あれはどこへいったんでしょうねぇ。

  化学の面白さ深さに、若い頃はなかなか気がつかないのかも知れません。

山本 : 悪戯をもっとしないとね。いろんなことして、叱られて。さっき言った中学校のときだって、もう大きな花火をつくったりね。自分でね(笑)。

  なんか危ないですね(笑)。

山本 : 危ないですよ(笑)。危ないことの方が楽しいんですよ(笑)。怖いものほど、おいしいものはない。毒ほどうまいものはないですからね。それから、アルミの粉末といろいろ粉末を混ぜて、ロケットをつくってね。下にガソリンを撒いて火をつけるとね、目に見えなくなるほど、飛ぶんですよ。たぶん、数百メートルは飛んだでしょうね、あれ。

  空に向けて飛ばすんですか。

山本 : そう、そう、そう。どこにいったんでしょうねぇ、あれは(笑)。

  リアルタイムでドストエフスキーを読みながらロケットを飛ばしてた(笑)。

山本 : そう、そう、そう(笑)。面白いですよ。ひとりでやったり。ふたりでやったりね。比率を調合して、どうしたら一番よく飛ぶかとかね。(空へ飛ばすと)完全に見えなくなります。そういう悪戯を許してもらえる社会だったし、時代だったんですよね。残念ですね、いま50年代、60年代のロマンチックな部分がなくなっちゃって(笑)。

  しかし、そのロケットどこにいったんでしょうね(笑)。本日は楽しいお話しをありがとうございました。

上に戻る

プロフィール
山本尚氏の顔写真

【山本 尚】
1943年7月16日生まれ
京都大学工学部工業化学科卒業
ハーバード大学大学院博士課程修了
現在、名古屋大学工学部・教授
1988年、「有機アルミニウム化合物を用いる精密化学合成反応の開発」の研究により、 第2回IBM科学賞、受賞。

出身地 : 神戸市
職業 : 名古屋大学工学部教授
家族 : 妻、子供4人
趣味・関心 : ゴルフ
好きな音楽 : 三大テノール
好きな言葉 : 和して同ぜず
夢 : 毎日がドリーム


上に戻る

一覧に戻る

お問い合わせはこちら
IBM科学賞に関するご意見・ご質問はこちら
e-メール メールを送る

日本IBM科学賞事務局
03-5563-4835