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シリーズ連載「生産管理入門」(2)

第2回 「生産管理とは何か? その2」

タブの始まり

IBMは製造業のお客様に向けて「統合化部品表ソリューション」をご提供しています。本連載では、日本企業のお家芸でもある生産管理および生産管理システムについて、その歴史・考え方をひもときながら6回にわたってご紹介していく予定です。

筆者紹介
株式会社クラステクノロジー
代表取締役 四倉 幹夫 氏

生産管理とは何か? その2

かんばん生産(Toyota Production System)

現在ではTPS(トヨタ生産方式)と呼ばれたりしますが、厳密に言うとかんばん生産はTPSの一部であってイコールではありません。かんばん生産もコンピューターがない時代に多種多様な何万台何十万台もの自動車をどうやったら無在庫に近い形で、しかも1つのネジも欠品することなく連続的に生産できるかということを追求した生産方式です。
その前に、TPSとかんばんの違いを説明しましょう。
TPSの歴史は以下のようになっています。

  1. かんばん方式 1960年~
  2. 繰り返し生産の新生産管理 1960~70年
  3. トータル生産システムとしてのTPS 1970年~
  4. TPSにおけるカイゼン活動(TPSの武器はカイゼン活動) 1980年~
  5. ピープルウェア面からのTPS 1990年~

TPSはトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)元福社長の大野耐一(おおのたいいち)氏が生みの親と言われているかんばん方式から出発して単なる生産管理の手法から大きく姿を変えて発達してきました。 TPSを無理を承知で説明するならば、以下のように説明することができると思います。

そしてそのTPSの具体的な進め方は以下の手順になっています。

  1. 平準化生産
  2. ジャストインタイム
  3. かんばん方式
  4. 自働化
  5. 標準作業
  6. 在庫
  7. 品質

その原点のかんばん方式とは何でしょうか?
ジェームズ・P・ウォマックは『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える。』という本の中でかんばん方式について次のように書いています。

(以下引用)
「最後に大野は、日々の部品供給の流れに新しい方法を取り入れた。それが有名な「ジャスト・イン・タイム」方式、トヨタでいう「かんばん方式」である。大野は膨大な数の部品メーカーを、ヘンリー・フォードのハイランドパーク工場のような一つの大きな機械に仕立てようと考えた。各工程に対し、後工程の要請があってから部品を作るよう指示したのである。このシステムは、後工程に部品を運ぶコンテナによって機能していた。つまり空のコンテナが前工程に戻ってくることが、部品を作れという合図になった。 単純なアイデアだが、いざ実施するとなると非常に難しかった。このシステムでは、在庫がほとんど存在しなくなる。そのため巨大な工程のなかで小さな部品が一つでもなくなると、全工程がストップする。しかし大野にしてみれば、まさにそれがねらい目だった。まさかのための備えを取り払い、巨大な生産工程の作業員全員に問題の芽を早いうちに摘み取る意識を植え付けたかったのである。」
(以上、『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える。』83ページより一部引用、ジェームズ・P・ウォマック他著、1990年、経済界出版)

かんばんの発案者である大野耐一氏の『トヨタ生産方式とKANBAN方式の原点』という1982年の論文を読むと、かんばん方式は大野耐一氏がトヨタ生産方式の中で行った第二次の製造技術革命であると語っています。ちなみに、第一の革命は“自働化”による画期的生産性の向上です。トヨタには佐吉翁の自働織機発明以来、自働化についての伝統的精神が受け継がれていました。この自働化(自動的に動くのではなくて自分で働くと書きます)の精神は、不良品は絶対に後工程へ流さないということに基づくものであり、働くということは不良品を作らないことであり、自働停止装置がついていることが自働化なのです。トヨタの生産ラインには誰でも押せる非常停止ボタンがあり、「あんどん」というパトカーのランプのような信号がまわって、問題が発生してラインが停止したことを告げる仕組みになっています。

マサチューセッツ工科大学がTPSを研究したときに、この仕組みに驚いたことが『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える。』の中に書かれています。なぜなら、当時の米国では、自動車工場の生産ラインを停止させることのできる権限は、副社長以上でないとなかったからです。一介のラインの担当者が、自分の判断で生産ラインを止めることができるなどということは考えもしなかったのです。米国の大量生産のラインはチャップリンのモダンタイムスに代表されるように、不良品が出ても延々と作り続け、その不良品は後でラインアウトしてから修理するという方法をとっていました。要するに“自働化”していなかったのです。このやり方だと、後工程にどんどん不良品が引き渡されてしまうのです。

まず、“後工程はお客様”という自働化の仕組みを定着させ、それをさらに進めたのがかんばん方式でした。コンピューターもPOPもバーコードリーダーもない時代、在庫管理の面では発注時点における在庫量がつかめていませんでした。例えば、翌月の生産量が決まるのは当月中の中旬であり、その時点では月末の在庫量は不明で、たとえ月末に人海戦術で棚卸をして在庫量をなんとか算出したときには既に発注を終えた後なので在庫の調整ができなかったのです。また、不良品等の発生により、その生産計画も計画通り実行されることはありませんでした。そうなるとラインをストップさせないように工程間にはたくさん在庫があったのです。いわばこうした在庫(トヨタ式にいうとムダということになりましょうか)はコンピューターのない時代に生産ラインを止めないための必要悪だったのです。

大野耐一氏はこれを改善するために従来の押し出しの生産とは全く逆の引っ張りの生産を導入したのです。それがかんばん方式でした。
かんばん方式は後工程が前工程へかんばんを送ることによって必要なものを必要なときに必要なだけ取りにいき、前工程は必要最小限の在庫でラインを維持します。昭和45年のトヨタ工務部の本社工場におけるかんばん方式概要の表現を借りれば、「後工程(顧客)がかんばん(お金、または注文書)を持って、いわゆるスーパーのレジ(前工程)へ、必要な部品(欲しいもの)を必要なとき(欲しいとき)に必要な数量(欲しいだけ)取りに(買いに)行く」と考えればいいのです。実際に何が、いつ、どれだけ欲しいかは後工程(顧客)が最もよく知っているはずであり、後工程は必要とするもの以外は引き取らないので、後工程にはストックとなるような余分な在庫はなくなるのです。
前工程は後工程が一定のインターバルで取りに来るので(3回納入、16回納入のようなサイクル)、それまでに必要最小限度の所定の数量(かんばん枚数に応じた生産指令分だけ)を生産して所定の置き場所に確保しておけばよく、必要以上のものを生産しないサイクル(後工程が前工程へ品物を取りに行くという引っ張り生産のサイクル)が工場全体に行き渡るのです。
このかんばん方式は運用が大変難しく、部品メーカーのレベルを上げる施策や生産の平準化などのかんばんに追随するためのウラのしかけが非常に難しい生産方式です。
ざっと、かんばん方式を実施するための必要事項を以下に挙げてみます。

  1. 生産の継続性
  2. 生産の平均化・平準化
  3. 作業工程の合理化;安定化
  4. 品質の安定(品質を工程で作りこむ)

以上、相当にレベルの高い運用が必要になります。それ故、かんばん方式は形だけをまねてもうまくいかない工場が多いのです。
かんばん方式は日本型の性善説に基づく仕組みで、それが画期的な方式を生んだといえます。これが近年発展が目覚しい新興国であったならば多分成り立たちません。なぜならば、何億円もの発注を出したり、受けたりするのに、かんばんという無味乾燥な札が回ってくるだけで、経理処理(売り掛け買い掛け)は事後処理だからです。これは発注者と下請けに歴史と信頼関係がなければできない仕組みなのです。(欧米のコンサルはこういう仕組みの血の流れをまったく理解せず表面だけをみて成功例とか紹介するので、多くの誤解を産みやすいのです。当然です。)
このようなすばらしいかんばん方式も専門家の間からは「下請けいじめ」と呼ばれていました。

というのは“工場内に在庫を持ってはならない”状態で、かんばんでジャストインタイムで納入せよと命令された数多くの部品メーカーはトヨタの近くに倉庫を持って、部品を在庫し、そこから納入したからです。初期のころは工場内に置くべき在庫を下請けメーカーに持たせただけだと揶揄(やゆ)された仕組みでした。現在のDELLモデルの工場はまさにこの状態(近くに部品メーカーを物理的に常駐させ自社は無在庫引取りの状態)なのですが、実際にはトヨタは部品メーカーのために強烈な生産の平準化を行っています。

筆者は湾岸戦争が起きた直後に、あるハーネスメーカーの生産計画を設計していて、ホンダをはじめ国内のほとんどすべてのメーカーの受注が急カーブで落ちたとき、トヨタの受注だけが漸減だったのを見て、下請けメーカーをかんばんに追従させるために影で非常な努力をしているのを知ったのでした。この下請けいじめの評判は1980年代まで語られており、かんばん方式に追随するために部品メーカーのレベルを上げることにトヨタは何十年も費やしているのでした。
この悪評判は、マサチューセッツ工科大学のグループが1990年に出版した 『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える。』が有名になるまで続いたといえます(要するに米国かぶれの日本人が多かったので米国が賞賛しないと自国の価値がわからないということです)。

ただ個人的な見解を述べさせていただければ、トヨタはもうかんばんをやめてもいいのではないか(引っ張りの生産はやめてもいいのではないか)と考えています。
というのはコンピューターがなかったころは膨大なデータの管理や伝票処理が煩雑であったので、こうした仕組みは功を奏したのでしょうが、現在はネットワークもデータベースもコンピューターの処理能力も飛躍的に発達したので、必ずしもかんばんでないと立ち行かないということはないのです。
むしろ商圏がワールドワイドになってグローバル化するたびに巨大な需要の変動が起きるし、ユーザーの顧客満足度を最大限に上げるサービス(例えば2週間納車、フル・オプションのサービスであったり、顧客ごとのデータベースに基づいたサービス)を実現しようと思ったら販社やディーラーからの押し出しの生産が合理的なのです(こういうことを言う日本人は全くいませんが)。この辺で全面的に見直してもいいのではないかと個人的には考えています。
実は最近の「選択」(2009年1月号)にこの考え方に近い趣旨の記事が掲載されましたので、最後にそちらを紹介したいと思います。

(以下引用)
「ムダを省いて利益を出す」として、製造業だけでなく流通サービス業や行政でもお手本となった「トヨタ生産方式」だが、「実は二つ、穴がある」と、トヨタ生産技術に詳しい関係者は指摘する。
「トヨタ生産方式で省けるムダは、部品や仕掛品などの半製品。ところが完成品である自動車は例外。生産現場が詰めに火をともすような努力をしてムダを省いているのに、ディーラーには在庫の山ということも珍しくない」。ホンダは同期生産を完成しており、ディーラーから注文があった車を即日で生産できる。そのため理論上、在庫者はゼロに近い。トヨタはそこまで進んでいない。
(以上、『選択』2009年1月号より一部引用、2009年1月、選択出版)


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