IBMは製造業のお客様に向けて「統合化部品表ソリューション」をご提供しています。本連載では、日本企業のお家芸でもある生産管理および生産管理システムについて、その歴史・考え方をひもときながら6回にわたってご紹介していく予定です。
筆者紹介
株式会社クラステクノロジー
代表取締役 四倉 幹夫 氏
フォード型大量生産とMRPの結婚
コンピューターを駆使した代表的な生産管理システムのMRP(資材所要量計算:Material Requirements Planning)は、見込み大量生産を管理する強力なソリューションとして大型汎用機の普及と歩調を合わせて世界中に広まりました。現在では、見込み大量生産=MRPと考えられていますが、大量生産自体はコンピューターが誕生する50年以上も前にヘンリー・フォードによって実現された生産管理システムです。
では、このフォード型の大量生産とは一体どのようなものだったのでしょうか?
フォード以前にも自動車の生産は欧米で行われており、19世紀までの自動車は熟練した職人が部品1つ1つを手作りで作り上げるオーダーメードに近い製品でした。馬車をかじ屋に特注するようなものだったのです(実際にそのころの自動車メーカーはかじ屋が転業したものですが)。
一般的には、ヘンリー・フォードの大量生産はベルトコンベヤーの導入による流れ生産によって実現されたと考えられています。イメージとしてはチャプリンの『モダン・タイムス』(Modern Times)※1という映画で揶揄(やゆ)されたベルトコンベヤーを導入した流れ生産の工場が当時の米国人がイメージするフォード型大量生産の工場でした。一般的にフォード型大量生産はベルトコンベヤーを導入しその速度に合わせて人間を機械の様に扱って非人間的な単純作業を強いる生産のように映画では表現されていますが、『全米自動車産業史』や、『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える。』※2等を読むとそんな単純なものではなくフォードはベルトコンベヤーを導入する前提条件として2つの重要な改革を行っていました。
1つめの改革は部品の標準化です。今でこそボルトやナットのような部品は例えば日本ではJIS規格によって寸法や形状が標準化されていますが、フォード以前ではインチやミリ寸法が混在したり、かじ職人が一台一台適当にオーダーメードの部品を作ったり、治工具や工作機械の精度が悪かったために規格がバラバラであったりして、まったく共用化できていない部品を、ネジ1本から職人がハンドメードで作らなければなりませんでした。フォードはまず部品の規格を統一して標準化することから着手し、これにより部品を汎用的に使えるようにしたのです。今では当たり前のことですが20世紀初頭ではこれは画期的な改革だったのです。
2つめの改革は工程や作業の細分化です。フォード以前の自動車の生産は職人という多能工による一貫生産でした。フォードはこれらの熟練を要する属人性の高い仕事を“ネジをまわす"、“板を組み付ける"のような単純な仕事に分解し、その単純な仕事を労働者に分担させ、単能工化したのです。チャプリンの『モダン・タイムス』では主人公の工員がねじを回す作業を一日中やっていて、工場の外に出てもねじを回す動作が直らない様子を皮肉っていますが、この単能工化によって自動車生産に多くのスキルの低い従業員を採用できるようになり雇用面でも大きな成果がありました。
またその一方で、車の設計をシンプルにし、誰もが組立や修理ができるような構造に設計しました。A型から始まって何度も改良を加えて完成したベストセラーが、1908年に発表され、ハイランドパーク工場やリバールージュ工場で1500万台量産されたT型フォードでした。
これらの改革を行った上でフォードは工場に流れ生産のためのベルトコンベヤーを導入したのです。
これがコンピューター以前の大量生産のシステムですが、この生産方式では設計変更やモデルチェンジに耐えられず、多品種にも追随することができませんでした。フォードはこの大量生産であまりにも成功したために、この方式を変えることができず会社は一時期倒産の寸前まで行きました。現在の大量生産を実現するためにはコンピューターの出現が必要不可欠だったのです。
※1:1936年アメリカ、監督・主演・音楽・脚本ほか チャールズ・チャプリン
※2:ジェームズ・P・ウォマック他著、1990年、経済界出版
MRP誕生
MRPとはMaterial Requirements Planningの略で日本語では資材所要量計算と訳されます。
1970年代の米国のジョージ・W・プロスル(George W. Plossl)やオリバー・W・ワイト(Oliver W. Wight)を中心に研究され、1972年のIBM社のSystem/360向けのマニュアルCOPICSによって爆発的に世界に普及したシステムでした。
日本の研究者であった早稲田大学のシステム化学研究所(当時)の吉谷龍一教授や中根甚一郎教授の著作を引用すると以下のような説明になります。
(以下引用)
"親製品の生産計画に合わせて、それを組み立てるのに必要なコンポネントや部品などの所要量を計算し、手配することである。そのためには、まず、親製品の生産日程を作っておき、これを部品構成表を使って必要部品に展開し、各部品ごとにその製造、購買の日程を作り、間に合うように手配していくのである"
(以上、「MRPシステム」25頁より一部引用、昭和61年、日刊工業新聞社)
この説明だけではわからないので、MRPとはどのような生産管理システムなのか、具体的な例を示しながら以下に説明してみます。
1.部品表(BOM:Bill of Materials)
仮に自転車Aという製品を作るということを考えてMRPを説明してみます。下図は部品表というMRPをまわす時に必ず必要となるマスタ・データで、自転車Aがどのような部品で組み立てられているかを示したデータベースです。タイヤ+フレームからシャーシができて、ハンドル+シャーシから自転車Aが組み立てられるということを示しています。これにより、部品表はある製品の部材・部品の全てとその組立順序を示すデータとなっています。
2.(基準)生産計画(MPS:Master Production Schedule)
次にものを生産するためには、いつ、どのくらい生産するのかという計画が必要となります。この生産計画をMRPではMPSと呼びます。
上記1の自転車を例に、第3週に500台、第5週に400台、第8週に600台出荷するという計画を立てて説明してみましょう。
上記MPSで自転車Aを作るよう工場に号令をかけると、自転車Aが3週目に500台、5週目に400台、8週目に600台きちんと生産できると考えられるでしょうか?もちろん答えはNoです。このまま徒手空拳(としゅくうけん)で作業を始めても材料がないので1個も作れません。では、500+400+600台生産するので、計1500台分の材料を買えばよいかというと、
- 製品在庫(自転車A)分は作らなくてよい
- 現部品在庫が存在する分は買わなくてよい
- 不良品、計画変更、保留が発生した時にどのように生産の変動を吸収するか(過不足がないように)問題だ
- 部材を1500台分一度に購入すると保管場所に困り保管料もかかるので無駄な経費がかかる
以上1.~4.の要素を考えると、単純に1500台分の部品を発注して生産指示をかければ済むという問題ではないことがよく判ります。また、明日1500台分欲しいので今日から作るように指示しても、ものを作るにはそれなりの段取りや時間(加工時間・組立時間等)が必要であり1台作るのに一定の時間を要します(これは目玉焼きを焼くのに10分かかるというようなことです)。
この"必要な時間"のことを、"リードタイム"と呼びます。仮に自転車Aのリードタイムを2週間とし、前月までに売れ残った在庫(完成品の手持ち在庫)が600台倉庫にあったとします。これらのデータを使って正味所要量(この場合は製品レベルであって部品レベルではないので"独立需要"という)をためしに計算してみましょう。
これにより、現在の生産計画を在庫600台、リードタイム2週間で実験すると、3週目で300台、6週目で600台を手配しないといけないということが判ります。
さて、自転車Aのオーダー量はこれにより明らかになりましたが、それではハンドルやタイヤのオーダーはどのように計算すればよいのでしょうか?
ハンドルやタイヤはMPSから計算した正味所要量(この場合は独立需要)に従って算出されるので、"従属需要"と呼ばれます。即ち、製品の生産計画に従属して下位の品目の計画を立てるという計算です。
ではハンドルの従属需要を計算してみましょう。ハンドルの在庫(手持ち在庫)は300個あり、ハンドルそのものは下請け会社Bから購入する品目であるとします。
下請け会社Bにハンドルを注文すると納期は3週間かかります。この納期のことを"発注リードタイム"と呼びます。以下に計算してみましょう。
そうすると、ハンドルは下請け会社Bに3週目に注文書を出さないと欠品になってしまうことが判ります。
MRPという計算はこのように部品表にしたがって各部品の在庫推移を計算し、それに基づいて自動的に発注オーダーを出したり、出庫オーダーを出したり、製造オーダーを出したりする仕組みになります。 その際に各部品の員数(自転車の車輪のように一台完成させるのに2個必要である等の必要数)を生産予定数で掛けて部品の必要数を出したり、購入単位(これを"購入ロット"と呼びます)に丸めたり、負荷計算(製造能力を加味した計画の平準化:"山崩し"とも言います)を行って実際の生産ラインの能力に沿ったオーダーを出したりします。
MRPは後にそれらの要素を包含して発展していき、現在のMRPⅡと呼ばれるものはCRP(能力負荷計算:Capacity Requirements Planning)の計算も内包しています。このMRP計算も万能ではなく、リードタイムや在庫の情報が正確であれば正しいオーダーを生成しますが、それが正しくメンテナンスされていないと正しい結果がでませんし、前回計算したオーダーが正しく実行されないと正しい運用になりません。
また、MPSの計画が変更されるとすべての計算をやり直さないといけません(簡単に言うと100製品の生産をMRPで運用していて、その中の一製品でも生産計画に変動が発生したら、すべての計算をやり直してオーダーもすべて一から生成し直さなければなりません。この再計算のことを"リジェネレーション":略称"リジェン"といいます)。
一部を再計算する運用のことを"ネットチェンジ"と言いますがこれは運用が複雑で現在ではあまり行われません。ですからMRP計算で現場の生産の一挙手一投足まで管理するには無理があります。
パラメーターが正しくなければ正確な答えは出ないのです。
MRPは一見完全なシステムのように見えますがバッチ型のフレキシビリティーに乏しい(ということは変化に弱い)仕組みであるという側面を持っています。この生産管理システムが効果を発揮するのは大量生産大量購買を行ってコストをダウンさせたい工場や製品に向いており、その面では現在でも有効なシステムのひとつであると言えます。
※COPICS(コピックス):生産情報システムCOPICS(IBM 社)(米)
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