IBMは製造業のお客様に向けて「統合化部品表ソリューション」をご提供しています。本連載では、日本企業のお家芸でもある生産管理および生産管理システムについて、その歴史・考え方をひもときながら6回にわたってご紹介していく予定です。
筆者紹介
株式会社クラステクノロジー
代表取締役 四倉 幹夫 氏
これからの生産管理システム
これまで生産管理システムの歴史をたどって代表的なものを紹介してきました。これらはコンピューター時代の草創期1960年代から大型汎用コンピューター全盛の1980年代までの主流でした。
この頃のシステムはデータベースも現在のようなリレーショナル・データベースではなく、CODASYL(コダシル:Conference on Data Systems Languages)型のネットワーク型データベースや、IBMのIMS(アイエムエス:Information Management System)に代表されるような階層型データ・モデルのデータベース上で動くシステムでした。その後1980年代にインテル8080から誕生したマイクロ・コンピューターが1990年代にWindows ©の登場と共にコンピューターに革命をもたらしました。
また、エドガー・F・コッドのリレーショナル・データベースの登場によって、一部の専門家のスキルであったデータベースの技術が一般のSEに開放されました。1990年代後半に“ネオダマ”というキーワードがあって、ネットワーク、オープン・システム、ダウンサイジング、マルチメディアという今日では常識となったインフラが登場したのです。このオープン化の波とインターネットの普及が、端末の役割しか果たせなかったパーソナル・コンピューター(PC)に飛躍的な機能向上をもたらし、今日では10万円そこそこの価格でメモリー2GB、ハードディスク120GBという、当時の大型メインフレーム並の性能に近いスペックを持つようになり、当然価格も飛躍的に安くなりました。
1990年代初め、1MBのパック(リムーバブル・ディスク)は汎用機では約1000万円でした。メモリーもディスクもとても高価だったので、昔の汎用機でメモリーやディスク容量を湯水のごとく蕩尽するようなソリューションやアプリケーションは考えられなかったのです。ところが最近はメモリーもディスクも飛躍的に安くなり、使い放題でしかもネットワークが高速(100MB)のインターネット回線ですから通信のボトルネックも解消されました。
これだけネットワークやコンピューターのリソースが増大して高速かつ安価になると、その利用形態も進化してきます。
第4回以降ではこうしたインフラの発達を背景とした新しい生産管理システムの様々なパターンを説明していきたいと思います。
ハイブリッド型生産(半見込半受注生産)誕生の背景
第3回でMRPは大量生産・大量購買を行ってコストダウンをする仕組みであると説明しましたが、1990年代後半になって中国などの新興国が台頭し安価な労働力を駆使して生産を拡大し世界中がデフレに陥りました。
また情報がグローバルなレベルで共有できるようになり製品のライフサイクルもどんどん短くなっています。
昔は3~5年のサイクルであった商品が3ヶ月のサイクルにまで短縮されてきています。これら2つの要因はMRPのデメリットを露呈させました。
製品のライフサイクルが短く、ユーザーのニーズが激変する時代には大量に生産するメリットがない(というよりはリスクがとても大きい)し、デフレの時代に大量に購買するメリットもなくなったからです。また、ユーザーの好みも多様化し付加価値の高い製品ほどユーザーのニーズを反映したカスタマイゼーションが必要となるのです。
従来、顧客の個別の要求を見込大量生産で付加することはMRPシステムの下では不可能なことでした。しかし、共通度の高いモジュールをMRPで見込生産しておき顧客毎の受注仕様に基づいて残りの部分を個別受注でカスタマイズすれば高付加価値の生産が可能になるという考えが出てきました。
また、従来は個別受注生産で一品一品を図面から起こして作ってきた製品もコストダウンや製造リードタイムを短くするために作り置きのユニットや半製品を仕込んでおいて全体の8~9割をそれらのユニットのアセンブリで完成し、残りの1~2割をフル・オプションのカスタマイズで対応するという流れも台頭してきました。
この方法は個別受注生産にユニット化によるリードタイムの削減とコストの削減とカスタマイズ率を低くすることによる品質の向上をもたらすことができました。
この両方のアプローチを達成する生産管理システムが半見込半受注生産、ハイブリッド生産なのです。ですから、ハイブリッド生産はMRPから進化したパターンと、製番個別受注生産から進化したパターンと2通りありますが、仕組みは本質的には同一です。
ハイブリッド生産のための部品表
一般的にはMRPシステムと製番システムの混在は不可能と思われていました。MRPベースのERPに製番の機能をアドオンしたパッケージもありますが、実際にはあまりうまく行かないか不完全な変則的な形での仕組みに留まります。その真の原因は実は部品表にあります。部品表がMRPと製番のデータをハイブリッドに保持できないとその下にぶら下がる生産管理システムは混在できません。このことは実はあまり知られていない盲点でもあります。では、ハイブリッド生産における部品表とはどのようなものなのか説明してみましょう。
【図1】

上の図はMRPで運用される時の部品表です。品目マスタと工程マスタで表現すると以下のようになります。
【図2】

通常のMRPによる見込生産は上記のような部品表を用いて運用されます。
それではこれと同じものを作る部品表を製番ひも付きの製番生産(個別受注生産)の部品表にしたらどうなるでしょうか。
仮にα社から注文を受けた製番をα001として部品表を作ると下図のようになります。
【図3】

統合化部品表では、図1と図3の部品表は異なったデータ、異なった部品表として扱われます。
α001の製番のついた車軸やタイヤなどの部品はそれ自体が在庫もα001のひも付きで個別に管理され、他の製品に転用することが不可能であることを意味しています。
これを品目マスタ、構成マスタのレコードで表現すると以下のようになります。
【図4】

これからこの部品表のモデルを使って標準生産(見込生産)に仕込んでおいたユニット(半製品)をユーザーのオーダー(注文)に基づいてカスタマイズすると部品表がどう変化するか説明してみましょう。
【図5】

図5の左の部品表は標準的なユニット(半製品)をMRPで見込生産して仕込んでおいたことを表しています。在庫は4個あります。顧客から受注した内容に基づいてこの仕込んでおいたユニットを製番α001に割当てます。この段階で汎用的に使える在庫は3個となり、α001でひも付けした在庫はα001専用になり他のプロダクトから転用されることはありません。この時に部品表もデータとして完全に分離されます。従来の部品表では製番ひも付けとひもなしの部品表を同一のDBで混在させることができませんでしたが、統合化部品表ではこれが可能となっています。
最後にα001にひも付けした部品を個別にカスタマイズして顧客の要求仕様に合わせます。
半見込半受注生産(ハイブリッド生産)の特徴
【図6】

半見込半受注生産の特徴は、見込生産のPUSH型の生産と、受注生産のPULL型の生産が非同期にカップリング・ポイントと呼ばれる中間倉庫で結ばれている点です。この中間倉庫にはユニット、モジュール、半製品と呼ばれる仕掛品または仕込み品がストックされ、それらのアセンブリにより製品の70~90%をカバーすることができるようになっています。このカバー率が低いとこの生産を実行する効果は表れません。
【図7】

中間倉庫にストックされた半製品は一般在庫(製番にひも付かない在庫)となり、いろいろな製品に転用されます。受注生産で受注したのち、これら一般在庫の半製品は製番ひも付きの在庫として在庫振替されます。このとき部品表上ではどう見えるかというのを説明したのが図7ですが、この図で説明すると、見込生産でユニットBを仕込むときに展開されていた部品Cと部品Dは受注生産の部品表では非表示となります。ユニットBは既にモジュールとしてアセンブリが終っているので下の構成は不要なのです。すなわち同じ品目でもMRPで使う形と受注生産で使う形が異なることが特徴となります。この非表示のコントロールを統合化部品表ではViewを駆使してフィルタリングします。
マス・プロダクションからマス・カスタマイゼーションへの改革は大きな市場を創造する可能性があります。例えば、現在の自動車の生産はフォード以来、大量生産の典型となっています。ですから、完全にユーザーのニーズを反映することはできません。内装やオプションを自分で選んで自由にオーダーしたり、自分仕様にカスタマイズすることはできませんでした。半見込半受注生産(ハイブリッド生産)では、いろいろな装備をユーザーのニーズでフル・カスタマイズしたり、フル・オプションでユーザーの個別のニーズを最大限に取り込むことができるのと同時に、大量生産と変わらないリードタイム(ユーザーからの注文から2週間納車など)を実現します。また顧客の部品表の一部を製番ひも付けで管理するので、ダイレクトメールを出したり、修理記録や保守履歴を管理したりすることもできます。
このためにMRPからこのハイブリッド生産に移行することが必要となります。ハイブリッド生産によってマス・カスタマイゼーションの生産が可能になり、製品の付加価値が高まって価格競争力が飛躍的に向上します。
また、ハイブリッド生産は最終製品の部品表をすべて顧客毎の製番でひも付けできるので、部品の交換時期(耐用年数)を計算して通知するようなダイレクトメールを発行したり、カーナビやオーディオ等の新製品の案内を出したり、顧客毎のデータベースを管理することによってはじめて実現されるカスタマー・サービスが提供できるようになります。これは付加価値を高め大きな差別化になります。
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