本文へジャンプ

業種別ソリューション > 教育 / 文教 > 導入事例 > 

足立区教育委員会の学校経営に関する研究事例

小中学校の学校経営にコンサルティングを利用しバランススコアカードを試験導入

足立区教育委員会で小中学校の学校経営にバランススコアカードを試験導入した、コンサルティングの事例をご紹介します。



掲載日 2007年08月8日

導入の背景

足立区役所外観

足立区役所外観

学力向上、いじめ・不登校の問題など、公教育のさまざまな課題が表面化しています。このような環境の中、東京都足立区では、平成16年度に区独自の学力調査を試行し、翌年から本年まで全校で継続的に実施をしてきています。
足立区教育委員会事務局副参事(当時)の金子敬一氏は、「学力調査で、児童・生徒の学力が多面的に調査できるわけではありませんが、学力に課題があることは明確になっています。これまでにも当然、校長先生を中心にして各学校が工夫して学校運営に取り組んできました。しかし昨今の教育改革の流れの中で、学校現場が以前のように自信を持って運営できなくなってきていると感じます」と学校運営の課題を語ります。
質の高い教育には、校長先生のビジョンと教員の教育活動とのベクトルを一致させることが必要です。では校長先生のビジョン、学校運営あるいは学校「経営」の方針をどのようにして全教員に浸透させればいいのでしょうか。日本の教育現場では、これまでに、このような課題に対する具体的な取り組みはほとんどありません。そこで、足立区教育委員会では、民間の経営手法に着目しました。

導入の経緯

足立区教育委員会事務局副参事(当時) 金子敬一氏

足立区教育委員会事務局副参事(当時)
金子敬一氏


平成17年(2005年)8月に国立教育政策研究所の協力を得て、学校支援委員会を立ち上げました。この委員会では、今までどうしても対症療法的にならざるを得なかった学校への支援を、教育課題に対して集結するような、より積極的に支援することを目的としました。
そして平成18年(2006年)4月から様式を定め、各学校ごとの経営計画を作ることでビジョンを明確にし、これを教育活動に結び付けようと推進してきました。
「ビジョンと教育活動を結びつけるというところが、なかなか難しい。学校は当然、学校ごとに教育目標は持っています。ただどうしても抽象的になりがちで、実際の教育活動とギャップがあることが多く、そのギャップを埋めるためのツールが今までまったくありませんでした。どうやって進めようかを議論していた平成18年4月に、『文部科学省が新教育システム開発プログラムを全国から公募する』という話を聞き、『新しいタイプの自律的な学校運営』というテーマの1つとして応募し、取り組みを始めました」と金子氏は導入の経緯を語ってくれました。
文部科学省で採択された提案内容は、「マネジメントサイクルに基づく戦略的な学校経営の調査・研究」となっています。
最初に平成18年7月に研究を開始し、まず小学校2校でモデル校としての取り組みを開始しました。そして平成18年12月にさらに11校をモデル校に指定し、今年度(平成19年度)から計13校が取り組んでいます。IBMビジネス・コンサルティング・サービスでは、プログラム導入当初よりコンサルタントが参画し、さまざまな支援を行ってきました。
具体的には、バランススコアカードを活用した学校経営方針の策定および評価などへの支援が中心となっています。

学校運営の核となる学校経営計画

学校経営方針には以下のような項目が含まれます。
  1. 学校教育目標
  2. めざす学校像、児童・生徒像、教師像
  3. 学校の現状(よさと課題)
  4. 中期目標(3年間)
    • 学校の視点
    • 児童・生徒の視点
    • 教師の視点
    • 保護者・地域の視点
  5. 本年度の重点目標・達成基準・具体的な方策
「各学校で経営方針を定め、目指すべき目標は何か、中期目標はどのようになるか、そしてそのためには今年度はどこまで達成すればいいのか、と明示をしていただきました。さらに、年度末に到達すべき目標は、客観性を持つためになるべく数値目標を掲げてもらっています」と金子氏は説明します。
(前年度末に教育委員会に届け出る)教育課程のほかに、この学校経営方針、校内予算、校内体制の以上4点を合わせて足立区では、「学校経営計画」と位置づけています。
この学校経営計画は、全ての区立小中学校で作成しています。

バランススコアカードの導入

バランススコアカードは、組織の戦略を各部門の目標や業績評価指標に落とし込むための仕組みで、「評価システム」であり「戦略マネジメントシステム」であり、また「コミュニケーションツール」でもあります。
足立区のバランススコアカードは、戦略マップ、取り組み一覧、アクションプランの3種から構成されています。

この中の戦略マップとは、学校の状況や課題をふまえて、目標達成つまり成功するために必要な「成功要因」を図式化し、関連する要因に矢印をつけた図です。言ってみれば成功のための「地図」のことで、学校の教育活動が網羅されています。
教育委員会で基本となる戦略マップを作成しましたが、実際には各学校ごとに、それぞれの分析結果に基づきアレンジしますので、学校の数だけ異なるマップができることになります。
「この戦略マップは、可視化、見える化という点で大きな意味があります。戦略マップを見慣れていれば、課題に対する意識を維持しやすいと思います。『目指す姿を達成するために課題が出てきて、その課題の位置づけはここに該当する。そのためには具体的にこのセクションの取り組みが必要だ』、ということが図になっていますから。トヨタ式の『なぜを5回繰り返せ』というのと似ていると思います。教育現場の活動でも、例えば「学力が低いのはなぜか?」という掘り下げを文章で考えるのはなかなか難しい。成功要因を挙げて図にすることにより、『良くするためにどうすればいいのか?』という掘り下げをしていき、このマップの中に、因果関係の矢印、つまり大きな流れが見えてくるのです」と金子氏は戦略マップの重要性を語ります。
「具体的には、例えば話す力、聞く力が落ちている、という課題があったとします。なぜかと分析をすると児童の関心が低いことが分かる。関心が低いのだったら関心を持たせるような授業に取り組む必要がある。関心を持たせるような授業に取り組むためには・・・と掘り下げていきます。他に考えられる要因として、家庭環境も影響している、では、と同じように「なぜ」を掘り下げていくのです。このように、戦略マップは現状を分析するのに使えます。そして逆に教育活動においては、矢印の逆方向に、下から上がっていけば、『この取り組みが児童・生徒の話す力、聞く力を育てることにつながる』、というストーリーが見えてきます」

戦略マップの例

戦略マップの例(クリックすると拡大します)


「そして普段から戦略マップを見ることによって課題把握の意識が向上すれば、評価をしたり改善をしたりする時点でマップが頭の中に浮かんで来ます。これを基本にしながら、校長先生が経営ツールとしてうまく使っていただければ一番良いと考えています」(金子氏)

そして、戦略マップと同時に、取り組み一覧を作成し、単に目標を決めて終わりではなく、教育活動と連動するようになっています。足立区の場合は、取り組み一覧のさらに詳しいレベルのアクションプランも作成しています。具体的にいつ誰が何をする、という行動を表したもので、これにより、校内体制がより明確になると言います。
「具体的な方策まで落としても、では誰がやるのかが明確になっていないことが多いのです。ここまで明確にしていかないと、学校が校長先生のビジョンの下で、一体として活動できないだろうと考えたのです。ただこれは決して個人を責めるために明確化するのではありません。組織として活動、実行するわけですから、仮にうまくいかなかったときには、組織の風通しが良くなかったとか、体制が良くなかったとか、そういった反省材料にしていただきたいというのが狙いですね」と金子氏は説明します。

取り組み一覧の例

成功要因 適切な生活態度/家庭でのしっかりとした習慣・態度の向上
課題 去年のアンケートの結果、10時までに寝ている児童が、期待値に比べ42Pt低い。
(理由)テレビ見たりやゲームをしたりしているから・習い事から帰ってくるのが遅いから、など。
重点目標 10時以降まで起きている児童を減らす。特に、テレビやゲームを理由に遅くまで起きていないようにする。
達成基準 就寝時間が10時より前の児童の比率が80%。(特にテレビやゲームを理由に遅く起きている児童を減らす)
評価方法 児童アンケート:
あなたはいつも夜何時に寝ますか。
また、その理由は何ですか。
具体的方策 今年度の重点目標"早寝・早起き・朝ごはん"について保護者へ理解と協力を得る。


アクションプランの例

プランの内容(『何を』)
  1. 保護者会・講演会等を活用して、食育や基本的生活習慣の大切さについて理解を深める手だてを行う。
  2. 日々の生活をこどもと保護者が確認し改善を図る手だてとして"生活チェックカード"を作成する。
担当(『誰が』)
  1. 生活指導部
  2. クラス担任
実施時期(『いつ』)
  1. 前期
  2. 4月に作成し、5、9、1月に活用


IBMビジネスコンサルティングサービスの支援

研修会の様子

研修会の様子

以上のような戦略マップや取り組み一覧などのバランススコアカードの作成に、IBMビジネスコンサルティングサービスのコンサルタントが協力しています。
金子氏は、コンサルティングの必要性についてこのように語ります。
「まずこういった考え方、取り組みは日本の学校現場ではあまり例がありませんから、方向性を見出すのが大変でした。諸外国の事例などの情報を提供していただいたり、専門的な経営の視点からのアドバイスが必要で、そういう意味でコンサルティングが必要でした」
「校長先生などに何度も研修を行いましたが、そういった研修をIBMのコンサルタントに依頼したりしました。また、方針等のフォーマットをただ埋めるだけなら簡単ですが、実情とビジョンに基づいた生きた方針を作成するには、かなりの作業が必要で、そのためにツールを使ったり仕組みを作ったりするのに、IBMビジネスコンサルティングサービスの支援を受けています。さらに戦略マップを作る際にも、落とし込むレベルを合わせないと、大雑把すぎたり細かすぎたりして、統一性が取れないことがあります。このようにレベル合わせを行いながら戦略マップやバランススコアカードを作成する際にも支援が必要でした」

バランススコアカードの活用

本格的に年度始めから着手したのは今年からですから、まだPDCA(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Action=改善)サイクルのP、Dが始まったところです。

プロジェクトの提唱する学校改善サイクル概念図

実際に1年間の活動を評価、分析して次年度に活かす取り組みを行うのは、まだ先ですが、この経営方針や戦略マップは、学校の説明責任を全うするのに利用できると金子氏は言います。
「学校は、情報公開に関しては後進的なところがあります。足立区の場合は『開かれた学校づくり協議会』という会議体を全校に設置して、保護者、地域と交流をはかっています。こういった地域の方との協議会の場で、学校方針を説明することになっています。そして、学校の良い面だけでなく、課題点も説明し、地域と一緒に力を合わせて取り組んでいくようにしていきたい。きちんと説明責任を全うすることにより、学校に対する地域の目も変わってくるだろうと思います。同じように家庭に対しても、学校の方針と取り組み等を説明し、学校はここまで努力するから家庭ではここの部分を協力してほしい、ということを粘り強く説明していきます。学校だけがいくら頑張っても、限界があります。家庭、地域の協力を得て、子どもに本当に生きていく力をつけるために、学校は出せる情報は全て公開していくような方向で考えています」
「全ての学校で、ホームページを開設していますので、戦略マップや取り組み一覧は徐々にホームページで公開していくようにしていきます。また、前述の『開かれた学校づくり協議会』の場での説明にも戦略マップを使用するなど、せっかく作ったバランススコアカードを、経営や評価だけでなく、広く有効に活用していただきたいと思います」と金子氏は語っています。
忙しい学校現場で、今回の取り組みを定着させるために、今後はできるところは簡略化してぜい肉を落とし、さらに受け入れられやすいシステムにしていくことを検討中です。文部科学省の研究期間が平成20年度までとなっていますので、平成21年度からは全国のパイオニアとして、区内全校展開・本格実施を目指しています。


上に戻る

お問い合わせはこちら

まずはお気軽にご相談ください。

窓口一覧を見る
メールを送る

情報提供メール
IBM教育・研究機関のお客様向け情報提供メールのご紹介
詳細はこちら