掲載月:2006年12月
保険事業を取り巻く金融サービス市場は急激に多様化しながら活性化していくと予想されます。この変化への対応を、現行業務の最適化や、現状の延長線上の業績予測といった短期的な視点だけで考えてよいのでしょうか。世界的な動向調査などに基づいたIBMビジネスコンサルティングサービスのコンサルタントによる考察や提言を発信している「IBM Institute for Business Value」では、15年という長期的な視野での検討が重要であると考え、保険業界の将来像について世界中の業界エグゼクティブに対してインタビュー調査を実施しました。ここにその考察の概要をご紹介します。
予測される4つのメガ・トレンド
図1 概要図
IBMによるインタビュー調査の結果、世界中の保険事業者が変革に関心を持っているという事実が明らかになりました(図1)。同時に、市場や消費者の大きな変化と、テクノロジーがもたらす未知の潜在力が2020年の保険業界にもたらすと思われる4つのメガ・トレンドが浮かび上がりました。
1. 世代・グループを超えて、積極的かつ情報通の消費者が、「非従来型」の保険事業者を選ぶようになる
2020年の保険業界は、「世代」というような一面的な切り口ではなく、バラエティーに富んだ顧客セグメントが要求する多様なニーズへの対応を求められることになるでしょう。ネットワーク化のさらなる進展の中で自立的に保険サービスを選ぶ2020年の消費者に対して、現在の「CRM」という概念で対応することはできず、ビジネス・チャンスは、真の意味で顧客を優先する「非従来型」の保険事業者にもたらされることになるでしょう。
2. 情報技術の向上により、バリュー・チェーンの仮想化が可能となり、参入障壁が低下する
図2 概要図
Webサービスなど柔軟で拡張性に富んだオープンな業界標準をはじめとする最新テクノロジーにより、従来の業界バリュー・チェーンにとどまらない多くのニッチ・サービスを提供するプレイヤーが参入するようになるでしょう。2020年までには、部分的に外部のサービスを仮想的に組み込んだ保険事業者や、全面的に仮想的なサービスを組み合わせた完全にバーチャルな保険事業者が、多様な市場ニーズを満たすために多数登場するものと予想されます。調査対象者の多くが、パートナーシップと、コラボレーションが将来の保険業界にとって不可欠である、と回答しています(図2)。
3. オンデマンド型の動的な商品の開発が重要視され、収益性の高い商品が主流となる
コミュニケーションとパーソナライゼーションが急速に進展する2020年には、リスクをダイナミックにとらえて対応する商品の開発が可能となるでしょう。たとえば「ジャストインタイム(JIT)保険」。自動車から列車の駅へ、駅からオフィスへといった旅の一歩ずつが、異なるリスクを表す保険商品の仕組みや、ライフスタイル/生き方に合わせて保険料を支払う「pay-as-you-live」という保険の考え方など、居場所と時刻というプライバシーに関わる情報と引き換えに、全体として保険料を減額する方式が実現するでしょう。
4. 規制への対応と、広く支持を得た業界標準の採用が、世界規模で拡大する
保険業は、他業種に比べて非常に厳格に規制されている業種の1つですが、ビジネスのグローバル化に伴って規制対応も、ITを含めた業界としての標準化も、世界規模で同じ枠組みを持つ傾向が拡大しています。保険業界のエグゼクティブは、イノベーションのための重要なサポート要因として採用を加速させるために、標準化組織の中で積極的に活動する必要があります。
2020年の成功への必須条件
必要なのは、長期的な視点に立ったイノベーション
このトレンド予測は2020年の保険業界で価値を創造し成功を達成するには、単に今日の「通常のビジネス」を最適化するだけでは不十分であることを示しています。変化にダイナミックに即応して成功を収めるには、既存のメカニズムとビジネス・モデル以上の「新しい考え方」が必要です。このトレンドは、実現間近になっているテクノロジーと社会変革に、保険事業者はどう対応できるかという課題を提示するものであり、それをさらに検討・分析すると、次のような方向性が見えてきます。
- 4つのメガ・トレンドが保険業界のイノベーションを促進
- 古い考え方は業界のイノベーションの促進を抑制
- 外部からの参入者が伝統的な保険事業モデルを革新
- 業界をリードするには、事業モデル、プロセス、商品、お客様との関係に関して、さまざまな実験・検証が必要
- 現時点でイノベーションに戦略的投資を実施しておくことは、2020年の成功にとって非常に重要
これらの研究成果は、将来への移行に、努力と意思が必要になるということを提示しています。
この4つのメガ・トレンドを拒むことはできません。保険業界は変化とイノベーションを余儀なくされるでしょう。たとえある保険事業者が顧客ニーズの多様化を無視したり、従来のバリュー・チェーンに固執したとしても、市場には変化に即応して、革新的なサービスを生み出すことによって利益を上げる業者が続々と登場することでしょう。新しい試みに挑戦し、それが機能するように投資することには、本質的な価値があると考えられます。2020年までという長期的な時間枠の中で首尾一貫した態度で革新的になることは、それ自体が大きな目標であると言えるでしょう。
変革へのアプローチ
今日の知識と経験の価値を生かしながら、新たなビジネス・モデルとオペレーションのモデルに備えた変革が必要になるでしょう。
この取り組みは、組織管理構造の変革というトップからの視点と、ITインフラストラクチャーの変革というボトムからの両面から、開始しなければならないと考えられます。
トップダウン方式の変革は、費用よりも、その実現に要する時間が長くかかることが課題となるでしょうが、重要なのは、変化とイノベーションの文化を根付かせることにあります。新しくビジネスとオペレーションのモデルを開発するため、企業はイノベーションに対して実験・検証を奨励する必要があります。厳格過ぎず、かつ、しっかりしたプロセスを確立していく必要があります。
柔軟で適合性に富んだインフラストラクチャーを構築するというボトムアップ・プロセスでは、2020年における4つ目のメガ・トレンドがそのまま重要なポイントになります。新たなインフラストラクチャー・モデルは、IT開発のためのオープン標準を利用し、サービス指向アーキテクチャーなどの共通のアーキテクチャーの開発に投資することで柔軟性を確保できます。
保険業界にとって、もうひとつ、なくてはならないものとして、商品中心主義から顧客中心主義への転換があります。2020年の世界では情報への接続性が飛躍的に進んでいるので、保険契約者は商品に対してはるかに向上したアクセスと、自己決定能力を持つものと考えられます。代理店という概念は、いずれ専門的アドバイス(Advocacy)に取って代わられ、保険・金融サービス市場でサービスを探す個人は、金融サービスの専門アドバイザー(Advocate)が提供する助言に耳を傾けるようになるでしょう。
従来の代理店チャネルが2020年までに消滅することはないものの、高性能なソフトウェアと有料の専門アドバイザー・モデル(Advocate model) によって減少すると予想されます。
柔軟で適合性に富んだIT基盤がイノベーションの鍵に
イノベーションは、保険業界内のあらゆるビジネスとオペレーションのモデルに組み込まれる必要があります。新しいモデルのオペレーションを生み出すには、企業のインフラストラクチャーを改善し、柔軟で適合性の高いITの新たな基礎をサポートするという変革が鍵となります。このボトムアップ手法は、過去にレガシー・システムの問題を発生させた、柔軟性に乏しく制約の多いアプローチを繰り返さないようにするために重要です。
アーキテクチャーを最新にする変革が完了し、イノベーションがこの業界の共通の考え方として定着するならば、保険事業者が数十年にわたって追い求めてきたような競争優位が手に入ることでしょう。
最後に、記憶にとどめていただきたいことがあります。保険業界の未来を左右するのはテクノロジーではなく、むしろ戦略的事業目標の追求において革新的であろうとする意思なのだということです。
本事例は特定のお客様での事例であり、すべてのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
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