掲載月:2006年6月
ソリューション概要
「IBMビジネス・バリュー・インスティテュート」では世界中のIBCS*1コンサルタントとともに調査・提言を行っています。
このたびEIU*2(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)との協力により、世界中の最大手の金融機関および規制機関296組織の運営にあたる400人以上のエグゼクティブを対象としてインタビューを実施し、「2015年の金融市場業務」に向けた考察と提言「The trader is dead, long live thetrader! A financial markets renaissance」を発表しました。ここにその抜粋をご紹介いたします。
「The trader is dead, long live the trader! A financial markets renaissance」全文(英文)は、以下のURLにてご覧いただけます。
投資家へのパワーシフトによる、厳しい選択の時代へ
インタビューを受けたエグゼクティブの圧倒的多数が、市場の透明性が高まるにつれて、投資家に、より多くの利益が流れるようになると確信しています。
投資家とその資産の間に立って仕事をしているトレーダー、アナリスト、ファンド・マネジャーといった人々は皆、2015年までに成果を上げるか、あるいは撤退するかの厳しい選択を迫られることになりそうです。
現在、世界の証券取引所のM&Aによる再編が世間の注目を浴びています。
しかしM&Aよりも、もっと根本的な3つの力—1.市場の徹底的な透明化、2.瞬時につながる一気通貫のグローバル・ネットワーク、3.リスクへの恒常的な責任ある取り組みを求めるニーズの増大—により、グローバルの金融市場構造は2015年までに再編され、世界中の資本を対象とする新しい単一市場を形成するであろうと予想されています。
2015年に向けた金融市場の動向
エグゼクティブへのインタビューから以下のような動向が浮き上がってきました。
動向1
市場の完全な電子化が仲介業を再編する
市場の電子化が拡大すると、顧客が単純な取引に余分な手数料を払うことを拒否する場合が増えてくるでしょう。
顧客は市場の情報に対してほぼ無制限に電子アクセスすることによって、自ら投資調査を行うようになります。
基本的にリスクを負わない中間業者が、かつて提供していた「情報」の価値はもはや無くなり、取引モデルの見直しが進められるでしょう。
調査回答者は概して、業界は商品別ではなく業務プロセス別に編成されるだろうと予測しています。
動向2
「アルファ」と「ベータ」の分離-インデックス・ファンドへのシフトが進む
今日、世界の資産の約70%は、ロング(買い)一辺倒でアクティブ運用される投資(通常ミューチュアル・ファンド)の形をとっています。
これらの商品では現在、アルファ(市場指数を上回るリターン)とベータ(S&P500*3、日経平均のような主要市場指数と同じリターン)とを一体化する形で取り扱われています。
投資家(個人投資家および機関投資家の両方)は今後、ベータのリターンのためにアルファ並みの高い手数料を支払うのをますます嫌気するようになるため、ファンドの価格設定や運用の方式を変えざるを得なくなるでしょう。
そして、大多数のアクティブ・アセット・マネジャーの低実績という状況が続けば、同程度のリターンをもたらすインデックス・ファンドへと、現在のアクティブ運用ファンドから、今後莫大な資本が流出していくでしょう。
動向3
顧客との関係のイノベーション-ビジネス・モデルの再構築のため、協業がますます重要となる
新たな成長機会をつかむには、明確にイノベーションに焦点を合わせ、顧客とより深い関係を築く改革が必要です。
業界における役割に関わらず今回のインタビューのエグゼクティブ達は、1.顧客と強力な関係を築き、2.差別化する商品・サービスを開発することを、今後10年間で競争優位性を得るために最も重要な2つの要素として認識しています。
成功するにはあらゆる面で、前世代のトレーダー、ポートフォリオ・マネジャー、アドバイザーには理解できなくなるような手法のビジネス・モデルの再構築や協業の推進を余儀なくされるでしょう。
動向4
マーケット・リスクをとるか、避けるか-リスク対応の二極化が進む
グローバル・マーケット・リスクが多様化する中で、ある者はそのリスクを積極的にとり(プリンシパル・トレーディング、オルタナティブ投資、ファイナンシング等)、ある者はリスクに関わらない事業を行う(証券保管管理や投資アドバイス等)という業者間での役割分担、提携が、市場で成功するための極めて重要な要素となります。
動向5
法規制の順守-継続的な課題
予想どおり、買い手側、取扱業者、そして売り手側も、規制順守の重責を対外的課題と社内的課題の両方でほぼトップに挙げていました。金融市場のマネジャーは平均して20~30%の時間を規制要件の対処に費やしています。これは今後も継続すると思われます。
2015年に向けて、今、取り組むべきアクション
図1 質問への回答
金融機関は自らの潜在的な強みを利益の実現につなげなくてはいけません。将来成功するかどうかは長期的な展望を持ち、以下にあげるようなアクションができるかにかかっています。
アクション1
リスクとの長期的な付き合い方を最適化する
自社はリスクを積極的に取り収益を上げるのか、リスクを軽減し手数料で利益を上げるのか。いずれの戦法をとるにせよリスク管理能力を強化していかなくてはいけません。
今回の調査ではテクノロジーに関連する変革として、リスク評価システムが最も重要であるとの回答を得ています[図1]。
アクション2
自社の戦略的差別化能力を最大限に利用できる協業を重点的に行う
図2 リスク評価
今後の急激な変化の中で成功するには、自社のビジネスのコンポーネント化を進めることが必要です。成功する金融機関は他社と“業務能力のスワップ”を実施し、適材適所で協業することで、顧客に対して差別化された専門的な商品・サービスが提供できるのです[図2]。
アクション3
個々の顧客の収益性を最適化する
業務処理中心から顧客中心の投資にシフトする必要があります。顧客の要求に応えるためには、それがアルゴリズム取引であれ財務プラン・アドバイスであれ、それらを提供するための改革が必要です。
アクション4
目的意識を持ち、体系的に革新を進める企業文化を創り上げる
あなたの会社は新しいアイデアを奨励・共有・開発し、それを進捗管理するような正式な評価の仕組みを持っていますか?
インタビューを受けたエグゼクティブは革新的な商品・サービスの重要性は認めつつも、現実にはそこに重点を置けないでいると認めています。
成功への鍵は?
成功をつかむ態勢が整っているのは誰か?
全体を通してインタビューを受けたエグゼクティブは、今後10年間で一番の競争優位性の鍵を握るのはスケール(規模)だと予想しています。総合金融機関は、その商品・サービスの多様性、顧客基盤や販売チャネルの幅広さを理由にその優位性が評価されています。
マージン縮小の重圧と戦う中で、広範で差別化された質の高い商品・サービスを提供するにはスケールを活かし効率化を実現することが、金融機関にとって不可欠な要素でしょう。しかし、スケールを生かしたビジネス・モデルは必ずしも単独の金融機関でカバーされるものではありません。
業界が変貌する中で長期的な戦略目標を持ち、自らの強みを検証し続け、リスクと如何に付き合っていくかを再考することが必要です。そして、卓越した協業を実現することで、顧客との関係を良好に確立した、収益性の高い金融機関として活躍できると考えます。
*1 IBCS:IBM ビジネスコンサルティングサービス
*2 EIUの詳細については http://www.eiu.com/(US) をご参照ください。
*3 S&P500:米国S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)社がニューヨーク証券取引所、アメリカン証券取引所、NASDAQ登録の合計500銘柄について発表する株価指数
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