タブの始まり
- 協業で生まれたイノベーションな事業を含む10の事業に2年間で1億ドルを投資
- 気象予測からカーボン・ナノチューブを使用した水の脱塩まで
- ハドソン河とブラジルの河川での試み
- 水資源管理に対処するIBMのさまざまなテクノロジー
- 「先進的な水資源管理」のほかにどんな分野に取り組んでいるか
急激な人口増加と経済の発展に伴い、水資源の重要性が増大しています。世界の人口の3分の1は既に深刻な問題を抱えており、淡水の水源と供給量の確保は、世界中の政府、産業が環境に関する課題のトップとして挙げています。
水資源は、非常に貴重な生活必需品であり、有効な管理と使用はあらゆる規模の企業、政府にとって重要となります。
IBMのアドバンスト・ウォーター・マネジメントでは、IBMおよびパートナーの豊富なノウハウや実績を活かし、テクノロジー、サービス、ソリューションを結集することで、水資源関連の課題を解決し、リスクを低減する製品・サービスを提供してまいります。
現在のIBMの水資源問題への取り組みについて、アドバンスト・ウォーター・マネジメントのグローバルの責任者であるバイス・プレジデントのシャロン・ヌーンズ(以下、ヌーンズ)に聞きました。
Sharon L. Nunes, PhD シャロン・L・ヌーンズ博士 : 2006年11月、IBMに新設されたビッグ・グリーン・イノベーション事業のバイス・プレジデントに就任。これまで多くの要職を歴任し、Cell BEによるエコシステムの開発やIBMリサーチ、ライフ・サイエンスの新興事業分野の成長を牽引してきた。技術部門のバイス・プレジデントとして1年間は会長ほかトップ・マネージメントと会社のテクノロジー開発方針の策定に当たった。研究開発部門における管理職を多く務め、ハードウェア、ソフトウェアの開発、またネットワーク事業、営業に携わってきた。1983年、コネティカット州立大学において物質工学の博士号を取得。多くの学術機関で諮問委員を務めてきたが、現在はテキサスA&M大学のルック・カレッジ・エンジニアリング評議会およびコネティカット州立大学エンジニアリング・カレッジ評議会の委員、同大学財団役員会のメンバー。2000年には、全米エンジニアリング協会のフロンティア・オブ・エンジニアリング・フェローに選ばれ、同協会の「2020年のエンジニア」委員会のメンバーを務める。
Photo : Robert Nywening
協業で生まれたイノベーションな事業を含む10の事業に2年間で1億ドルを投資
——まず始めに、ヌーンズさんが統括されるビック・グリーン・イノベーションズが設置された経緯や、部門のミッションなどについてお聞かせください。
ヌーンズ : IBMでは2006年、多くの人々が協業することによってイノベーションを図る、かつて例をみない試みとして「Innovation Jam」を実施しました。
これは、まさにインターネットを利用した史上最大規模のブレーン・ストーミングです。104カ国からIBM社員やその家族、大学や67社のお客様、ビジネス・パートナーなど、実に15万人以上の人たちがこれに参加しました。72時間に及ぶセッションが2回実施され、IBMの先端的な研究・開発に基づいて、それを現実の問題への解決や新たな事業に活かす手段を探ったのです。そこから4万6000件に及ぶアイデアや方策が提案されました。
同年11月にパルミサーノ会長は、そこから生まれたビッグ・グリーン・イノベーションズを含む新たな10の事業に、今後2年間を掛けて1億ドルを投資すると発表しました。
いま、私たちは多額の投資を行ない、このビッグ・グリーン・イノベーションズという組織を通じて、世界が直面するエネルギーや環境の緊急課題に対応できる新しいソリューションに取り組んでいます。パートナーとともに、世界で最も重大な環境問題を見極め、画期的なテクノロジーやサービスを開発し、適確なソリューションを提供したいと思っています。
世界中で生じている数限りないエコロジーの課題を解決するにはIT(情報技術)が極めて重要なことは間違いありません。当社は現存の製品およびプロセスを、ビジネス面だけでなく環境面の効率化にも適用し、より環境に優しい製品やサービスを促進できるイノベーションを図っているのです。
世界経済を発展させるとともに、この地球を守るには、エネルギーや環境のための仕組みを「インテリジェント」なものにすることが鍵となります。
気象予測からカーボン・ナノチューブを使用した水の脱塩まで
——20世紀は「石油の世紀」だったが、21世紀は「水の世紀」であると言われます。人類にとって必要不可欠な水資源が切迫している現在、IBMのテクノロジーや知見が、水資源の問題に対してどう貢献できるのでしょうか。
ヌーンズ : 「先端的な水資源管理」の目標は水資源を人、農業、工業に最も効率よく使用し、最大限の効果を上げることです。私どもはこれからお話する一連の強みを活かして、この分野の製品・サービスを発展させます。
まず、当社には気象予測に優れた高性能スーパーコンピューターDeep Thunderがあります。
気象予測に関するこうしたテクノロジーは、効果的な水の管理や使用量の削減に欠かせません。
二つ目の強みは、センサーの大規模ネットワークを開発し統合する力です。広大な地域の水資源を管理し、効率よく利用するにはそのようなネットワークが極めて重要です。センサーは水の汲み出しや水門の作動に使われる一方、各センサーからのデータが中央センターに集約され、分析や計画立案に利用されます。
三つ目は当社のナノテクノロジーを活かして、より効果の高い、つまりエネルギー使用の削減を図れる淡水化膜の合成を計画しています。
——パルミサーノ会長もIBMは水の濾過に関し、カーボン・ナノチューブまたは分子構造を用いた分子レベルでの水のフィルタリング方法を研究すると発表していましたね。この方法は、ガロン当たりの消費エネルギーと費用を少なく、塩と不純物を分ける可能性を秘めているとのことですが…。
ヌーンズ : 幾つかの材料の中でもカーボン・ナノチューブは極薄で、同じ重さでの強度は鉄鋼の100倍にも上り、優れた電気伝導体でもあります。いろいろな操作が可能な性質を持つので、普段着とかスポーツ用具、さらには防弾チョッキ、あるいは未来の(宇宙に向けた)スペース・エレベーターへの利用などが考えられています。また、極めて薄いので、水の分子のような微粒子は通しますが、塩素イオンのようなより大きな粒子は通しません。水の濾過、浄化、淡水化(脱塩)にナノテクノロジーを活用すれば、その分野の産業を促進し、真水の供給増大につながるかもしれません。ですが、これはIBMにとって長期にわたる計画であり、開発はまだ緒に着いたばかりといったところです。
——ところで、IT&コンサルタントのIBMが、なぜ全く異分野のカーボン・ナノチューブや分子構造を用いた水のフィルタリングなどに着目したのでしょうか。
ヌーンズ : IBMはコンピューター産業においてハード、ソフト、サービスのすべてにおいて主要な立場にありますが、研究機関としても世界で最も大きな規模を誇り、極めて高い評価を得ている機関の一つであるということが忘れられがちです。従って、IBMが幅広い経営資源を駆使し、先駆的な技術力を発揮して、複雑な環境問題の解決に当たるのは当然のことです。
ハドソン河とブラジルの河川での試み
——水の問題に関するIBMの取り組みで、先進的かつユニークな具体例を幾つかご紹介ください。
ヌーンズ : IBMが環境問題を重視している一つの例がネイチャー・コンサーバンシーのグレート・リバー・パートナーシップと共に取り組んでいる環境保護や河川流域の住民のための事業です。両者は本年はじめ、世界のどこであっても、河川流域の動きをシミュレーションできるコンピューター・モデル・フレームワークを開発すると発表しました。これは自然環境の保護と、その河川の水資源に依存している流域住民に寄与するとともに、これに関連する政策や管理の決定に役立つのです。
このプロジェクトは最初にブラジルのパラグアイ川、パラナ川水系で実用化されますが、これにより、気候、雨量、土地の状況、植物、生物多様性に関する幅広いデータを収集できます。この協業を通して、シミュレーションや立体的なビジュアル化などが可能になり、世界の大河が持続可能となるよう管理する手段を予測できるようになるのです。
また、もう一つの極めて興味深い例としては、ビーコン・インスティチュートとの協業により、ニューヨークのハドソン河の生態系をモニタリングし、常時その状況を分析・評価できるこれまでにないシステムの開発に当たっていることが挙げられます。その一環としてIBMによるセンサー、ロボティックス、コンピューティング・テクノロジーを統合したネットワークの構築が進み、315マイル(507km)にわたる全域のデータを集められるようになります。
この統合システムはIBMワトソン研究所で開発された「ストリーム・コンピューティング」と呼ばれるシステムで可能になりました。これは今までのものとは根本的に違った新たなコンピューター・アーキテクチャーです。膨大な情報を発生源からデータ分析できるので、世界で今、何が起こっているのか科学者はより適確に把握できるのです。これまでのコンピューティング・モデルでは、既に分かっているデータ、あるいは蓄積されたデータを後追い的に分析するため、間断なく入る膨大なデータを処理できず、極めて重要な決定には対応しきれませんでした。
しかし、IBMのこのシステムであれば、新しいストリーミング・アーキテクチャーを用いて、いかなるソースからのデータも将来有効利用できるように分析します。どのような解決が求められているかによって必要な情報源を判別し、さらに次々に発生する新データも取り込んで、継続的により優れた解決案を導き出してくれるわけです。
この新たなプロジェクトでは、ストリーム・コンピューター・システムにより、非常に多くのセンサーやアプリケーションからデータを集め、水の温度、塩分、そして濁り具合を調査します。さらに、このシステムはハドソン河に棲息する種々の魚類その他の生物の状況も調べます。
IBMとビーコンの協業による調査・研究は、水資源消費にとどまらず、環境保護に向けた種々の教育や制度に影響を与えることになると思います。ビーコンの河川観測ネットワークはIBMのテクノロジーと経験・知識に基づき、米国全域にわたる河川・河口域での物理的、生物学的、化学的、放射線学的作用の監視を行ない、科学的研究を進めるデータ・センターになるでしょう。
ビーコンとIBMはこうしたリサーチを通じて、将来の保健、経済発展、環境保全に関わる複雑な地球の河川をより正確に理解する努力をしています。
- 分散センサー・ネットワーク
川面に繋がれた(コンピューター・チップを備えた)モバイル型ワイヤレス・センサーのネットワークが、河川の物理的・化学的・生物学的変化をデータ収集し、リアルタイムに伝送する。 - センサーからのデータの収集・処理
リアルタイムに間断なく流れる分散センサー・ネットワークで収集されたデータが、IBMの新しいテクノロジー・アーキテクチャーである「ストリーム・コンピューティング」により、把握、分析、順位づけされる。 - 情報の「融合」をバーチャルの河川で表現する
科学者、政策立案者、教育者らは収集した各種データを統合し、バーチャル(仮想)河川に見立てる。堆積物・化学汚染物質を監視・分析することによって人類が水質や魚類の回遊に及ぼす影響を調査し、生態系をより的確に理解する場と考える。
水資源管理に対処するIBMのさまざまなテクノロジー
——水資源管理に対処するIBMのテクノロジーとしては、他にどのようなものがあるのでしょうか。また、水資源管理についてビッグ・グリーン・イノベーションズが重点的に取り組んでいる項目はどういったものがありますか。
ヌーンズ : 「先端的な水資源管理」から提供されるソリューションにより、お客様はより少ない経費で効果的に水供給、配水を管理するとともに、水質と水資源維持の改善を図れるのです。人、農業、工業への水の供給に関わる広範な課題に対処するために、IBMのテクノロジーを基にした次のようなプログラムがあります。
- オープン・システム、サービス指向アーキテクチャー(SOA)と水に関するアーキテクチャーの経験・知識、予測に関するソフトウェアやアルゴリズムの開発、ハイパフォーマンス・コンピューティング
- センサーなどの各種ソースから得られる複雑なデータを把握、分析するコンピューティングや視覚化の技術
- 環境関連の現象のシミュレーションとモデリング
- ビジネス・プロセスやオポテュニティーの最適化による作業統合課題に対処する当初のサービスとしては次の項目が挙げられます。
- 水道局など公共機関や私企業が、オンラインでリアルタイムの先を見越した「スマートな」ソリューションを構築し、限られた水資源をより適正に管理すること
- 水資源モデル、データ、視覚化をビジネス・プロセスとして統合するコンサルティング・サービスや開発
- 想定される種々のケースに対しどのような結果が出るかをコンピューティング・モデルにより提示し、お客様の理解を深めていただくこと
など、現時点では重点項目が三つあります。一つは気象が水資源管理に与える影響、そして広大で複雑な水資源の管理、もう一つは飲み水、廃水、灌漑用水、その他を含む公共および商業の用水システムの管理です。
先ほどお話しましたネイチャー・コンサーバンシーやビーコン・インスティチュートとの協業に加えて、IBMは幾つかの会社、パートナーとこの分野での協議を進めています。
「先進的な水資源管理」のほかにどんな分野に取り組んでいるか
——こうした水資源管理のほかに、ビッグ・グリーン・イノベーションズはどういった分野に取り組んでいますか。
ヌーンズ : 「先進的な水資源管理」のほかには、「代替エネルギー」「二酸化炭素問題」「コンピューター・モデリング」に取り組んでいます。
「代替エネルギー」の重視により、公共機関、企業、行政機関はエネルギーの生成、伝導、配分、利用の効率を最大限に引き出すことができるようになるでしょう。ここで一つの鍵は、現存の半導体製造技術を高めて、より優れたソーラー・モジュールをつくることによって知的財産を創出することです。
既に私たちは太陽電池製造会社へのコンサルティングを行なっています。
さらに半導体製造の分野では、ほとんど電子を扱うような、粒子の操作ができるレベルにまで近づいています。この種の技術を光発電に用いれば、ソーラー・モジュールの構成に極めて貴重であり、現在の効率を大幅に向上できるはずです。
「二酸化炭素の管理」の焦点は、お客様が二酸化炭素の排出を測定し、できる限りの削減を支援することです。この領域に関しては、IBMのコアの強みは世界規模のサプライチェーンと運用に関するコンサルティングにあります。
お客様が事業を展開されるに当たって常に重要視すべき点は、スピード、コスト、再処理、プロセスの一貫性と品質、データ・フロー、在庫などの要素がありますが、IBMのコンサルタントはこれに加えて、今や温室効果ガスの排出に関する情報が不可欠であると考えています。
排出を最低限に抑える社内での過去数十年にわたる経験をお伝えし、お客様が二酸化炭素の問題を理解され、対応できるよう支援しています。
最後に、ビッグ・グリーン・イノベーションズの重点項目である「コンピューター・モデリング」ですが、これはハイパフォーマンス・コンピューティング(自然現象のシミュレートや生物構造の解析など、非常に計算量が多い計算処理のこと)そのもののサービスとそれ以外の分野での利用を通じた経験・知識に基づくものです。
IBMはモデルの構築と最適化、データ検証、モデルの操作、視覚化、分析などの経験や技術を用いて、幅広いアプリケーションを総合的にカバーする知識の集約センターを構築していきます。それは気候、天候に関する作業を通じた水の循環過程の研究や、既に申し上げた二酸化炭素モデル、環境汚染の管理、分子構造モデリング、さらにその先のアプリケーションへと拡がっていくのです。
ニューヨーク州の貯水池の水質を見るヌーンズ博士。気象の変動により、世界各地で水質や水の供給量に変化が起きている。水質を含む水の状態を遠方からモニタリングできるよう、IBMはセンサーを扱う会社や機関と協力している。いずれはサンプルを採集する必要もなくなるかもしれない。
Photo : Robert Nywening
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