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「守りのCSR」から「攻めのCSR」へ

成長基盤としてのCSR、企業は今何を、どこから始めるべきか

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日本企業のCSRへの取り組みに変化

近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の考え方が古くからある日本に、CSRの考え方が本格的に導入されたのは2003年のことでした。それから5年が経過して、CSRに取り組む日本企業の姿勢にも変化が出てきています。

「守りのCSR」から「攻めのCSR」へ——コンプライアンス(法令順守)を中心に取り組んでいた守りのCSRから、自分たちの本業を通じて積極的に社会に貢献する攻めのCSRへと進化しています。

日本企業は今後、CSRにどのように取り組んでいくべきなのでしょうか?企業におけるCSRの推進に取り組んでいる立場から日本IBM CSR担当エグゼクティブの田口悟さんに、企業のCSRの取り組みを支援する立場からIBMビジネスコンサルティング サービス株式会社の駒形佳幸さんに話を聞きました。


田口さんの写真
日本アイ・ビー・エム株式会社
理事 CSR担当エグゼクティブ
田口 悟

—— 企業の社会的責任をCSRというようになったのはここ数年のことです。CSRには、社会貢献活動、コンプライアンス(法令順守)、環境対策などさまざまな側面があるといいますが、本質的にはどう考えればよいのでしょうか?

田口: CSRは、「何のために企業は存在するのか?」という基本的な議論から出発した考え方といえます。企業とは社会があって存在するものであり、企業と社会は共存していかねばなりません。そのような視点から、企業として、社会に対してどのような役割を果たすべきかを考え、行動していくことがCSRであると考えています。
IBMには創業以来、「企業市民」という伝統的な考え方があります。企業も社会の一員であるという考え方が根付いており、CSRという言葉がなかった時代から企業としてどのように振る舞うべきかを考え、行動してきました。
今やステークホルダー(注1)や環境に配慮しない企業は社会から受け入れられないのは自明のことといえるでしょう。
(注1) 株主、顧客、社員など企業の利害関係者。

駒形さんの写真
IBMビジネスコンサルティング
サービス株式会社
企業変革コンサルティングサービス
アソシエイト・パートナー
駒形 佳幸

—— 確かにそうですが、2000年以降も多くの企業で不祥事が起きているのも事実です。

田口: 企業の不祥事が頻発して、企業の社会的責任を問う声が高まる中、2003年3月に経済同友会が発刊した「企業白書」でCSR経営のあるべき姿が提唱されました。それをきっかけに日本でもCSRが注目されるようになり、2003年は日本における“CSR元年”といわれています。なお、日本IBMでもCSR担当を配置したのはこの年です。

—— それから5年が経過しましたが、いかがですか。

田口: あらためて振り返ると、CSRは常に進化していることを実感しますね。今後とも社会情勢の変化に応じてCSRは進化していくでしょう。それによって企業の持続可能性(サステナビリティー)も高まっていくのだと思います。

千葉さんの写真
インタビューアー:
経済ジャーナリスト
千葉利宏

企業を支援するコンサルタントの立場からは、いかがですか?

駒形: 私も同様にCSRの考え方の進化を感じています。もともとCSRが注目されるようになったのは、GRI(注2)という団体が経済、社会、環境に関する企業のサステナビリティーに関するコンセプトをまとめたのがきっかけでした。当初、多くの企業がそれを参考にしていたので、CSRも社会貢献を中心とした取り組みになっていましたが、地球環境問題への対応が進む過程でCSRに対する姿勢も変わってきたように思います。
(注2)GRI(Global Reporting Initiative)は、グローバルに通用するサステナビリティー報告書のためのガイドラインの作成・普及を目的に、1997年に米国ボストンで設立されたNGO(非政府組織)。現在はオランダのアムステルダムを本拠地とし、2006年10月に「GRIガイドライン(第3版)」を公表している。

——具体的にどのような進化が起きているのでしょうか?

田口: これまで日本のCSRの取り組みでは、コンプライアンスが強調される、という印象があります。確かにコンプライアンスもCSRの基本的な条件ですが、企業としてはやって当たり前の「守りのCSR」です。当社では企業倫理も含めてインテグリティーといっているものです。他方、社会のニーズや課題に対応して、新しい価値を創造して社会に貢献するのが「攻めのCSR」です。。しかもそれを本業で推進していく、というものです。企業の社会貢献活動は、基本的には本業とは別に行われていますが、これからは企業の経営資源を活用して、本業として社会に貢献していくことが求められています。いかに本業で社会に貢献するか—。攻めのCSRで大事なのはイノベーション。守りのCSRはインテグリティーで、どちらも頭文字はInです(笑)。

——守りに攻めが加わったのですね。

駒形: 今年発表されたあるCSRに関するアンケート調査では、企業が環境問題に取り組む理由として最も多かったのはCSRの一環としてという理由で74%でしたが、2番目にはコスト削減などの理由を抑えて競争優位性(52%)が入りました。これは企業が攻めの姿勢でCSRや環境に取り組み始めたことを表しているといえるでしょう。かつてトヨタ自動車が赤字覚悟でハイブリッド車の発売に踏み切った結果、イメージアップに成功したのがいい例ですね。
企業の環境問題への取り組みも当初の環境要求の段階から、環境保全、環境経営、CSRへと進化してきましたが、現在ではさらに企業成長の源泉となるべく積極的な意味でGrowth PlatformとしてのCSRという考え方が出てきています。もちろん環境を売り物にするといった意味で取り組むのではなく、社会にコミットメントしたことに誠実に取り組み、結果を出して社会に認知されると同時に、本業のビジネスにCSRや環境を生かしていくことが企業のサステナビリティーにつながると言えます。

CSR/環境経営のステージの説明図 5つのステージに分け、企業の環境問題への取り組みを表現しています


————企業が攻めのCSRに取り組み始めたのはいつごろからですか?

田口: 他の企業のCSRレポートなどを読んでも、最近は「本業を通じて社会に貢献する」といった記述が目立ってきました。そのような考え方自体は以前からあったのですが、レポートなどで明確に認識されだしたのはここ1〜2年のことだと思います。かつて、例えばメセナ活動が喧伝されていた時期がありましたが、当時は企業も収益を還元するという意識が強かったのではないでしょうか。収益が悪化するとこのような活動も縮小されてしまいましたが、2003年からのCSRではそうはなりません。

駒形: 2008年9月のリーマン・ショックで景気後退が始まった今は、企業にとっての本気度が試される時期と言えるかもしれません。取り組むべき活動を貫き通せるかどうかで、CSRに対する姿勢が本物かどうかが、分かるかもしれませんね。IBMが今年、世界の主要企業を対象にCSRに関して行なった「CSRスタディー」では、顧客の関心を満たすために製品、サービスに関して、必要十分な情報を有していると考えていると答えた企業は63%でしたが、顧客が企業に対してどのようなCSRを求めているかの情報を持っていると答えた企業はそのうちの1/3に過ぎませんでした。そのギャップが何を意味するのかは興味深いところだと思います。

戦略環境企業としてのアプローチの説明図 戦略環境企業が今後どの領域に投資すべきかを4象限に分けた図で説明しています


——IBMが実施したCEOスタディーでも、CSRを重視するCEOが増えているという結果が出ましたが、経営トップの役割はいかがですか?

田口: CSRにおいて経営トップが果たす役割は重要です。日本IBMでは今年から環境への取り組みを強化しました。最初に大歳社長兼会長が「低炭素社会に貢献する」との方針を明確に打ち出し、それを受けて、全社的に環境への新たな取り組みが始まったところです。時にCSRは一部の役員や担当者が行うもの、という誤った認識を社員に持たれることも少なくありませんが、CSRに全社で取り組むことを明確にするためにも、経営トップのリーダーシップは大切です。

——CSRを全社に浸透させていくのは大変そうですね。

田口: どの企業でもCSR担当にとって共通の課題といえるでしょうね。私自身もグループ会社を含めていろいろな場で話をしていますが、まずはいかに情報発信をして周知していくかが重要です。社員参加型の環境プログラムなどで関心を持ってもらうのも効果的です。

駒形: やはりCSRの取り組みを知らしめる教育に加えて、実際に行動に結びつくような業務プロセスとしての仕組みの中にどう作り込むかがポイントですね。例えばグリーン調達は環境に配慮した調達のための仕組みとして多くの企業で取り組み済みですが、ダイバーシティの観点や児童労働禁止などを加えたCSR調達のような仕組みをグローバルで名実ともに徹底することが今後重要になってくると思います。

——今後、日本企業はどのように「攻めのCSR」に取り組んでいけばよいでしょうか?

田口: 社会の課題やニーズがどこにあるのかを、いろいろなチャネルを通じて、いかにつかむか、そして企業としていかにそれに対応するか—。それに尽きると思います。IBMの企業理念「IBMers Value」の柱に“イノベーション”がありますが、「社会の価値を高める」という点で、攻めのCSRとイノベーションは目指すベクトルは同じです。そうした意味で、CSRとイノベーションは切っても切れない関係にあるといえます。もちろんインテグリティーは基本ですが、それだけでは企業を発展させていくことはできません。

駒形: 環境問題も、かつてはエコロジーとエコノミーのベクトルは逆だったのですが、CSRのGrowth Platformとしての活用によって、企業全体のコスト削減につなげることができれば、ベクトルを同じ方向に合わせることができます。そのようにビジネス・モデルを変えていくことはイノベーションそのものです。IBMは幅広い領域で長年CSRに取り組んできており、多くの知見とノウハウを蓄積しています。企業が抱えるCSRの課題はさまざまですが、我々の経験と技術を最適なモデルにカスタマイズして提案していくことでお客様のCSR推進のお役に立っていきたいと考えています。

紹介

田口 悟

日本アイ・ビー・エム株式会社 理事 CSR担当エグゼクティブ (2008年11月現在)

総務省等勤務の後、2005年日本IBMに入社。エグゼクティブ・プログラムおよび地域社会担当を経て、2006年よりCSR担当。日本IBMグループ内へのCSRの浸透、関連情報の社内外への発信などを進めている。



紹介

駒形 佳幸

IBMビジネスコンサルティング サービス株式会社 企業変革コンサルティングサービス アソシエイト・パートナー (2008年11月現在)

日本IBM入社後、社内情報システム部門においてシステム開発の経験を積む。長野オリンピック組織委員会に出向後、コンサルティング部門へ異動し、製造業のお客様を中心にIT戦略および事業戦略プロジェクトを数多くリード。これらの経験をベースとして CSR/環境の領域に拡張し、IBM自身の経験を踏まえた企業戦略としてのCSR/環境経営を数多く実践している。



編集後記

日本は、経済社会の発展に向けて80年代から自由化、規制緩和に取り組んできました。企業不祥事が起こるたびに再び規制強化へと振り子が戻っていく状況を踏まえながら、企業はCSRに取り組む意義を考える必要があるのかもしれません。 (経済ジャーナリスト 千葉利宏)


プロフィール=1958年生まれ、札幌市出身。日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)入社、IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産分野を取材。2001年からフリーランスとして活動中。


掲載日:2008年11月25日

IBM,IBMロゴは、International Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標。 Adobeは、Adobe Systems Incorporatedの米国およびその他の国における登録商標または商標。
他の会社名、製品名およびサービス名等はそれぞれ各社の商標。

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