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日本の得意とする高機能ケータイは海外でも注目の的 - 世界をリードする鍵は、オープン化とサービス志向 -
日本の携帯電話の進化は、“ガラパゴス現象”と例えられてきました。ガラパゴス島のように外部と隔絶されて、世界のトレンドとは異なる独自の発展を遂げてきたからです。
なぜ、日本市場でそのような現象が起きたのでしょうか?
「海外では“しゃべる”ための携帯電話が、日本ではメールやインターネット接続のための道具として発達してきたため」と、日本IBMの山下さんは分析します。さらに電子マネーやワンセグ・テレビなど電話以外の機能も次々に取り込んで、携帯電話機の需要を伸ばしてきました。
アップル社のiPhoneの登場で、海外市場でも日本が得意とする高機能携帯電話への注目が高まっています。ガラパゴス現象と世界のトレンドが融合したあと、携帯電話の進化はどこへ向かうのでしょうか?日本IBMのディスティングイシッシュト・エンジニアである山下克司さんに今後のトレンドを予測してもらいました。

日本IBM
ディスティングイシッシュト・エンジニア
山下克司さん
——日本の携帯電話市場は、欧米などの海外市場と比較して、どのような特徴があるのでしょうか?
山下 日本の携帯電話市場は、携帯電話機という“デバイス(装置)”への志向が非常に強いという特性を持っています。いかに高機能で使いやすい電話機をつくって売るか。サービスを売るというより、デバイスというグッズ(商品)を売ることに力が注がれているといえます。それらのデバイスが全てキャリア(通信事業者)=サービスにひも付けされています。
アップル社のiPhoneが欲しければ、キャリアはソフトバンクモバイル社と契約するしかないということになります。購買動機が極めてGoods Dominant(モノ志向)だということですね。
——海外では、それらはひも付けされていないのですか?
山下 米国市場などでは、PDAなどのデバイスがキャリアごとに固定されない、SIMロック・フリーという機能が当たり前になっています。日本の携帯電話機と比べて価格は高いですが、日本ではその分が通信料金に含まれているような料金体系がとられています。また、日本市場は端末のデザインや機能が優先される市場なので、本来なら通信とは関係ないワンセグやお財布ケータイ機能がキラー・コンテンツになっています。ある意味、日本携帯電話機は通信機器というより家電製品に近いといえるかもしれません。
一方、ユーザーが主に利用する機能についても米国での携帯電話の使われ方は「しゃべる」が中心で、基本は電話として使っています。日本では、どちらかというとメールやインターネットが中心だといえます。携帯電話が一種の「携帯メール・デバイス」主体であるのも日本市場の特性といえるでしょう。

インタビューアー:
経済ジャーナリスト
千葉利宏
——日本の携帯電話は世界市場と隔絶した進化を遂げたので“ガラパゴス現象”とも言われていますが…。
山下 日本では、携帯電話サービスがキャリア・サービスよりは家電製品のような“モノ“という位置づけなので、ガラパゴス化してしまったのではないでしょうか。何とか消費者に商品を買ってもらおうとして、ある日突然、GPS(全地球測位システム)機能や電子マネー機能など通信とは関係ない機能が搭載されて“Disruptive Change”(注:不連続な変化によるイノベーション)が起こる。ただし、高機能化するにしても、欧米では広く利用されているイヤホン・マイクのBluetooth接続機能のように、日本では搭載されてもあまり使われずに不発に終わるものもあります。結局、ユーザーの嗜好性が製品の方向性を大きく左右しているのであって、メーカーの責任ではないと思います。
——“ガラパゴス現象”が、世界の携帯電話市場で日本メーカーのシェアが低迷している原因とも言われていますが…。
山下 世界的な携帯電話市場で日本製品のシェアの低迷は、携帯電話機の高機能化によるものではないと思います。日本国内で独自の規格を開発しても、世界の市場をリードできなければシェアを失ってしまうという通信業界に特有な標準争奪競争が原因だろうと思います。 ガラパゴスかどうかは別として、多くのユーザーにとって、日本製品の使い心地は快適だと思います。ナビゲーションや電子マネーの機能は便利ですし、グーパスのような安心・安全のための機能もあり、それを日本人だけが「気持ちいい」と感じているわけではないのです。いずれは世界中の多くの人たちも同じように感じるようになるのではないでしょうか?ガラパゴスではなくとも、欧米市場でもGPS機能を搭載したiPhoneが登場したわけで、高機能なハイブリッド・モデルの出現という方向性は同じだろうと思います。ただし、ある程度の割合で会話できればよいというものと二極分化するだろうと予想しています。
——今後、少子高齢化が進む日本市場がガラパゴズのままでは、日本メーカーはますます厳しい状況に置かれるのではないですか?
山下 確かに携帯電話機のメーカーが日本市場だけで生き残っていくのは難しいかもしれません。今後は日本市場で培った技術や機能をオープン化して、どれだけ世界の多くの人に使ってもらえるか、世界の事実上の標準(デファクト・スタンダード)をリードできるかが重要になるでしょう。これまでの日本のメーカーは「囲い込み」の発想が強い垂直統合の生産モデルを作ってきました。通信事業者も独自の規格にこだわる傾向があります。こうした過去の傾向から脱却して、技術をオープンにして標準化を進めていくことが大切だと思います。GPSモジュールを作っている部品メーカーは世界中で高機能型の携帯電話機に部品を供給することで大きなオープン・マーケットを手に入れることができるでしょう。IBMとしては、オープン化、標準化をこれまでも強く後押しして、こうしたマーケットの形成に大きく貢献できると考えています。

——IBMと携帯電話は直接、結びつかないイメージがありましたが、システム全体で関係してくるわけですね。
山下 これまでもIBMでは、ユビキタス・ネットワークを実現するために、コンピューターと携帯電話などのデバイスをオープン・スタンダードの世界でつないでいく取り組みを支援してきました。ただ、新しいアプリケーション開発するのにも、これまではデバイス側にも、キャリア側にも、さまざまな日本固有の制約があったのも事実です。これが、ガラパゴス化といわれてきたゆえんかもしれません。今後、NGN(次世代ネットワーク)の普及が進んでいくなかで、通信の基地局やネットワークを制御するIPネットワークの分野や、グーパスのような新しいアプリケーションを実現する分野で、IBMはオープン・スタンダードの風を吹き込み、お客様のニーズの実現に貢献していきたいと考えています
——5 in 5の中では、携帯電話を使った簡単エコロジーの話がありました。
山下 エアコンをつけっぱなしにして外出した場合、エアコンのスイッチを切ってもいいかどうか携帯電話に確認メッセージが届くというものですね。2つの方向性が考えられると思います。一つは、ホーム・サーバーを設置するなど家電中心で動く場合。もう一つは、電力会社との協業が必要になってきますが、インテリジェントなユーティリティー・ネットワークを活用したサービス優先の動きです。電気消費量を監視するスマート・メーターが、通常の電力消費量を感知し、いつもより電力消費が多いとなると、携帯電話に警告メッセージを送り、ユーザーは携帯電話で家電を管理できるというものです。
——携帯電話機はあくまでも道具=モノという発想から、実現できるサービスが重要だということですね。
山下 携帯音楽プレーヤーのiPodというデバイスと、iTunesという音楽配信サービスが結びつくことで一気に市場が拡大したように、今後は携帯電話市場がモノ志向からサービス志向へと移行していくことが重要なのではないでしょうか?ユーザーの安全や安心などを実現するサービスが、携帯電話というハードウェアによって実現される。そのためのオープンなプラットフォーム=通信の基盤やアプリケーションの基盤を提供していくことが重要になると考えています。
紹介
山下 克司
日本アイ・ビー・エム株式会社 ディスティングイシッシュト・エンジニア
(2008年8月現在)
1987年、日本IBMの研究開発部門に入社。その後システムズ・エンジニアとして中小型システム分野での経理、販売管理など事務系ビジネス・アプリケーション開発・技術支援に携わる。その後、中堅企業市場におけるオープン・システムへの転換、インターネット・システムの導入などを経て2003年からネットワーク・サービス事業全体の技術戦略を担当。 IBMとCISCO社のアライアンス戦略に基づき、大規模グローバル・ネットワーク、高可用性ネットワーク・システム、マルチキャスト・ネットワーク・システムなど先進的なネットワーク・システムの設計、導入を多く手がける。 また、IP電話を中心としたリアルタイム・コラボレーションのソリューション、オートノミック技術をネットワークに適用したネットワーク仮想化ソリューションを開発。 2007 年からIBM ディスティングイッシュト・エンジニアに就任。日経コミュニケーション「理論派ネットワーキング」など連載多数、著書「NGN時代のネットワークエンジニア入門」。
編集後記
例えば建築分野でも、日本の建物や建築家は世界的に高く評価されていますが、なぜか街並み全体や都市計画では成功していると言い難い状況です。製品単体で評価される自動車や家電製品などの“ものづくり”で強さを発揮してきた日本ですが、全体のシステムやサービスとして評価される“ものづくり”で成功するためにはどうすればよいのでしょうか?携帯電話がその試金石になるかもしれないと感じたインタビューでした。(経済ジャーナリスト 千葉利宏)
プロフィール=1958年生まれ、札幌市出身。日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)入社、IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産分野を取材。2001年からフリーランスとして活動中。
情報ボックス
掲載日:2008年8月25日
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