"技術革新の先にある大きなパラダイム・シフト"
「炭素生産性」という言葉をご存じでしょうか? これからの企業に求められるのは、CO2削減を進めるとともに、限られたCO2排出量で最大限の価値を生み出すことができる炭素生産性の向上と言っても過言ではありません。
企業にとって、これまでは商品・サービスの品質、コスト、納期が重要な経営指標でした。新たにCO2が指標に加わり、炭素生産性が評価されるようになると、企業経営にどのような変革をもたらすのでしょうか?
IBMが取り組む環境ビジネスの今後の展開について、IBM ビジネスコンサルティング サービス株式会社の駒形さんと日本IBMの岡村さんに話を聞きました。
——IBM環境シンポジウムが6月9日に富山県富山市で開催されました。その講演で日本IBMの大歳卓麻代表取締役社長兼会長がIBMの低炭素社会に向けた取り組みを紹介しましたが、それはどのようなものですか? その背景は何でしょうか?
駒形 IBMの「低炭素社会に向けて」は、IBMが低炭素社会の実現に向けて取り組む3つの基本的な考え方を示したものです。一つ目が「私達は低炭素企業になります」、二つ目が「私達はお客様の炭素生産性の向上を支援します」、三つ目が「私達は低炭素社会の実現に貢献します」ですが、一つ目でIBM自身が低炭素企業となる決意を示しています。具体的には、2012年までにCO2の排出量を1990年比で68%減らすとの目標に取り組むことを公表しました。二つめに”炭素生産性”という新しい言葉があります。これは、限られたCO2排出量でいかに最大限の価値を引き出せるのかという考え方です。従来の品質やコストなどの視点に加えて、今後はCO2が企業の活動や製品を評価する指標の1つになると考えられます。IBMは、より少ないCO2排出量で企業活動を行えるように炭素生産性を向上していく活動を支援していきます。
IBMは1971年に環境ポリシーを公表してから、約40年間、地道に環境経営を実践してきました。2002年からはビジネスとして環境コンサルティングをスタートしましたが、ここにきて地球温暖化の危機がクローズアップされています。そうした時期に、IBMとしても低炭素社会の実現に向けた強い決意を明確に示したものといえます。
岡村 1995年の京都議定書のあと、今年は北海道洞爺湖サミットが開催される意義深い年ですが、EU−ETS(EU域内排出権取引制度)を立ち上げた欧州では、先陣を切って英国が今年、クライメット・チェンジ・ビル(気候変動法)の名称で環境税や排出権取引を法制化する見通しです。米国でもブッシュ大統領が退任したあと、来年にも排出権取引が導入される方向で動いています。こうした欧米の動きを見ると、これまで法制化に消極的だった日本も洞爺湖サミットを機に大きく舵を切るべき時期を迎えているのではないでしょうか?
IBMでは、2007年1月からEnergy&Climate(エネルギーと気候)をキーワードに、環境に関するIBMの資産を社会に還元する活動を始めています。本年のテーマはEnergy&Environment(エネルギーと環境)で、IBM環境シンポジウムでのメッセージにも表現されています。

IBMビジネスコンサルティング サービ
ス株式会社 企業変革コンサルティン
グサービス アソシエイト・パートナー
駒形 佳幸
——CO2削減では世界的にも2050年が大きな目標年次となっていますね。日本でも福田首相が2050年までにCO2を60〜80%削減する目標検討を打ち出しました。2050年の低炭素社会とはどのような社会になるのでしょうか?
駒形 CO2を60〜80%削減するという目標は、2050年には今の5分の1程度しかCO2を排出できなくなることを意味します。分かりやすく言えば、江戸時代の生活レベルに戻るということです。先進国では1年間に1人当たり10トンのCO2を排出していますが、ビジネスマンが日本から米国へ飛行機で出張すると、片道だけで約2トンのCO2が排出されるので、年間2往復が限界という計算です。相当に厳しい社会が訪れることになるわけで、現在の考え方や技術の延長線では解決するのが難しく、大きなパラダイム・シフトが起こると覚悟する必要があるでしょう。
——2050年はかなり先なので、まずは2020年頃をメドとした中期目標が重要だと言われていますが…。
駒形 2020年というと約10年先なので、企業としても現実的な目標を立てやすいといえます。この期間に、現在の技術や改善のアプローチの延長線でどこまでCO2を削減できるかに真剣に取り組むことが重要です。それによって2050年に向けて、企業として何をしなければならないのかが見えてくるのではないでしょうか? 今後は、中期と長期の2つのアプローチが企業に求められると思います。
——2050年と言っても40年後のことで、80%削減という目標はこれまでの考え方や技術の延長線ではとても達成できそうもないと思うのですが、そうした危機感を日本企業は持っているのでしょうか?
駒形 日本企業はこれまで自主目標によってCO2削減に取り組んできましたが、やはりそれでは達成可能なところで目標を設定することになりがちです。かつてのマスキー法(注1)のような厳しい規制によって技術革新を飛躍的に促進させたり、バックキャスティング(注2)の考え方で2050年から時間をさかのぼってリアリティーのある目標を設定したりすることが必要でしょう。
(注1)マスキー法: 1970年に米国で制定された大気汚染を防止するための法律。自動車の排ガス規制では窒素酸化物や一酸化炭素の排出量を一気に10分の1以下にするという厳しい目標が設定され、クリアするのは不可能といわれた。しかし、本田技研工業がCVCCエンジンで基準をクリアし、ビジネスを大きく飛躍させたのは有名な話。
(注2)バックキャスティング: スウェーデンの環境NGOナチュラル・ステップの創始者であるカール・ヘンリク・ロベール氏が提唱している考え方。遠い将来の目標を実現するためには、時間をさかのぼって具体的に達成すべき目標を設定していく。

日本IBM インダストリアル事業
エグゼクティブコンサルティング
営業部長 岡村 久和
——実際に営業担当として日本企業の意識をどう感じていますか?
岡村 企業の役員クラスの方にお会いしても、今年3月ぐらいまでは「日本は法制化まで踏み切らないだろう」との見方が多く、CO2削減も「目立つところで実施すればよい」という感じでした。ところが、4月頃からは「ビジネスとしてCO2削減に取り組まなければならない」と意識する企業も出始め、「何とかしなければならない」と気付き始めた企業も過半数を超えてきたように思います。
ただ、2020年に向けては現在の技術革新の延長で何とか対応しようという考え方ですが、2050年についてはまだ「どう対応すればよいのか? 」と思いあぐねているという印象ですね。先ほど先進国平均のCO2消費量の話がありましたが、一般的なサラリーマンだと年間のCO2排出量は約4トンだそうです。80%減つまり5分の1に削減するとなると年間800kgになる計算ですが、人間は呼吸しているだけで300kgのCO2を排出しているので、2050年には残りの500kgで生活することになります。空気で車を走らせたり、太陽の力で飛行機を飛ばしたりしなければならないかもしれません。そうした技術は2050年を目前にして実現するのは難しいので、ここ10数年でメドを立てる必要があるでしょうね。そう考えると、かなり切羽詰っているといえます。
——もし技術革新が進まなければ、例えばジャストインタイムで商品を運んで販売するという24時間営業のコンビニエンス・ストアのようなビジネス・モデルが成り立たなくなる可能性もあるということですね。
岡村 2020年までは何とか技術革新で対応できても、2050年はCO2の観点からビジネス・モデルが成り立つかどうかから考える必要が出てくるでしょうね。
駒形 社会の価値観も大きく変化して、社会的に許されないというケースも出てくるかもしれません。
情報ボックス
掲載日:2008年7月14日
IBM,IBMロゴは、International Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標。
Adobeは、Adobe Systems Incorporatedの米国およびその他の国における登録商標または商標。
他の会社名、製品名およびサービス名等はそれぞれ各社の商標。
