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IBM Next 5 in 5 第2弾 : 医療編

「今後5年間に生活を一変させる5つのイノベーション」第2弾 患者も医師もハッピー 医療分野のIT化、本格普及の鍵とは

電子カルテの普及が始まって10年、、、更なるIT化の鍵はインセンティブが働くビジネス・モデルの確立

病院での診療時に、電子カルテ・システムを使用する医師が随分、増えてきました。日本で本格的に電子カルテの普及が始まって今年でようやく10年目を迎えたところで、医療分野のIT化はこれからが本番です。
深刻な医師不足、医療費抑制、後期高齢者医療制度など病院を巡る経営環境は厳しさを増しています。そうした中で、効果的なIT投資を行い、医療成績を高めていくにはどうすればよいのでしょうか?
「日本の医療分野でも、インセンティブが働くようなビジネス・モデルが必要でしょう」と語るIBMビジネスコンサルティング サービス株式会社 公共事業本部ヘルスケア事業アソシエイト・パートナーの稲岡則子さんに、医療ITの将来を予測してもらいました。


稲岡さんの写真
IBMビジネスコンサルティングサービス
アソシエイト・パートナー稲岡則子

——日本における医療分野のIT化はどのように進歩してきたでしょうか?

稲岡 日本でカルテなどの診療録を電子化する取り組みが本格化したのは、1999年に当時の厚生省が「診療録等の電子媒体による保存について」の通達を出して、紙以外に電子保存できるようになってからです。政府のe-Japan戦略が始まった2001年に、厚生労働省が「保健医療分野における情報化にむけてのグランドデザイン」を策定し、この時に初めてレセプト(診療報酬明細書)の電算化や電子カルテの普及の目標が設定されました。

——電子カルテの普及もなかなか進まないといわれますが…。

稲岡 目標では2006年度までに400床以上の病院の6割以上、診療所の6割以上に電子カルテ・システムの導入を目指していましたが、JAHIS(保健医療福祉情報システム工業会)の調査では、06年度末の普及率は400床以上の病院で32.3%、診療所では8.5%でした。薬や検査などを発注するオーダー・エントリー・システムの普及率は、07年で21.8%ですが、400床以上の病院では68%に達しています。目標に比べると遅いかもしれませんが、IT化は着実に普及しているといえます。

千葉さんの写真
インタビューアー:
経済ジャーナリスト
千葉利宏

——IT化を推進するための基盤はどこまで整ってきたといえるでしょうか?

稲岡 ITの進歩によってネットワークや処理のスピードが速くなり、メモリーやディスク容量も大きくなるなど医療情報を扱うシステム基盤は整ってきました。IT化に欠かせない標準化も着実に進んでいます。MEDIS(財団法人医療情報システム開発センター)で策定している病名・コードの標準マスターも99年に国際標準のICD10(国際疾病分類)に対応した第1版がリリースされた後、レセプトの診療報酬請求マスターとの連携も図られ、現在ではかなりの数の病院が採用するようになっています。

——レセプトの完全電子化も2011年を目指して進められているところですが、韓国に比べると5年以上遅れています。

稲岡 確かにそうですが、2001年にスタートした介護保険制度は、当初から電子化を想定して制度設計されたのでオンライン化が実現しています。医療報酬の方は、紙を前提とした制度ができあがってしまっていたので、電子化に時間がかかっているといえます。やはり電子化には、それに適した仕組みと体制を構築することが重要です。

——電子カルテの普及が目標に比べて遅れたのも、それが理由でしょうか?

稲岡 医療分野はもともと他のインダストリーに比べるとIT化が遅れていました。医療で扱う情報は、テキストや数値、波形、画像、最近ではゲノム情報などもあって実に多種多様、しかも項目の数も多く、情報量も多いという点で特殊といえます。患者さんごとに扱う情報もバラバラで、同じ病気の患者さんのデータを集めても、欠損情報が多くて一律に取り扱うのが難しい。それもIT化が遅れた原因かもしれません。しかし、裏を返せば、情報をITによってマネージメントできるようになれば、大きな成果を得られる可能性は大きいといえます。

稲岡さんの写真

——標準化も進んできて、医療のIT化も本格普及の段階を迎えるのでしょうか?

稲岡 医療分野で利用できる標準類がそろってきて、それらを普及させていくことが重要です。実際に利用してみると、手直しが必要な部分が出てきたり、医療技術の進歩によっても変更が必要になったりするでしょうから、普及と同時に運用のためのルールや体制を整備していかなくてはなりません。ただ、少子高齢化が進むなかで、医師や看護師の不足が大きな社会問題となっているだけに、今後はITが大いに役立っていくものと思われます。

——オーダー・エントリー・システムや電子カルテの普及では、医師にとって情報の入力作業を面倒になるのがネックといわれていました。

稲岡 1981年に大学病院初のオーダー・エントリー・システムを導入しました。 情報を入力するメリットをなかなか理解してもらえない場面もありましたが、手書きの薬の処方箋が電子化されれば読み間違いやミスも減るし、診察室や院内の各部門で患者さんが受けた処置などの情報が即座に会計システムに送られるので患者さんを待たせずに済みます。データが蓄積されていけば研究にも利用できます。また電子カルテになると、カルテを他の誰もが見られるようになるのを嫌がると考える人もいるかもしれませんが、医療従事者にとっては一冊しかない紙カルテと異なり電子カルテは情報共有化が格段に進み、例えば手術前に麻酔科の医師が情報収集するのにも便利です。病院にとって手術は収益に直結しますから、手術に関係するプロセスの効率化はメリットがあり、電子カルテの効果の一つです。

——IBMのThe Next 5 in 5で紹介された技術は、個人の医療情報が1つに集められて、3次元アバター(自分の分身となるキャラクター)の上に表示させるというものですね。

稲岡 いろいろなところに分散しているさまざまな形態の情報を集めてくる技術と、それらをアバターの上に分かりやすく表示するという技術を組み合わせたものといえます。

——日本政府も、個人が自分の医療情報を集められるように、住民基本台帳カードと社会保障カード(仮称)を統合化するなどのプロジェクトを進めています。

稲岡 確かに医療情報だけでなく、メタボリック健診などの健康情報を含めてPHR(パーソナル・ヘルス・レコード=個人診療録)システムを実現することは、バラバラにある情報のどれが特定の個人に関係するか識別できるようにしておいて、それを入手し参照するときに本人確認をする必要がありますので、カードを利用して仕組みを構築することが可能です。ただし、セキュリティーやプライバシーへの配慮は必要です。データを全部は統合しないという自由もあるので、政府でも個人が自分の情報を管理できる「電子私書箱(仮称)」の構築を検討していますし、銀行におカネを預けるように個人データを預けることも考えられます。ICカードをどのように活用するかも議論の真っ最中です。そうして個人の情報を集める仕組みができれば、CPUもネットワークも高速化しているのでアバターを使って、医療情報を患者さんに分かりやすく見せることも可能になるでしょう。さらに自分の情報だけでなく、匿名で同じ治療を受け症例の患者さんの参考情報や意見なども集められるようになるかもしれませんね。

——医療情報を社会的に役立てることも期待されています。

稲岡 レセプト情報が全て電子化されて匿名で集められるようになれば、今、日本ではどのような病気が増えているのかが分かり、効果的な対策を講じることができるようになります。医療費の抑制にもつながりますから、国民の一人として大いに期待したいところですね。健康保険組合も、レセプト情報の活用で医療費の抑制が図れると分かっていても、紙の情報すべてをデジタル入力するのではコストがかかりすぎるので、特定の病気だけを抜き出して電子化するなどの対応に止まっていました。レセプトの完全電子化が実現すると、さまざまな取り組みが始まると思います。

——英国や米国でも、政府が積極的にEHR(エレクトリック・ヘルス・レコード=電子診療録)化を推進する方針を打ち出しています。日本では医療費抑制で病院経営も厳しさを増していますが、医療のIT化は順調に進むでしょうか?

稲岡 病院が積極的なIT投資を行うには、やはりインセンティブが必要です。IT化によって、病院の収益にプラスになるようなビジネス・モデルを確立して普及させていくことが求められるでしょう。米国政府も2004年に10年間でEHR化を実現するという目標を打ち出しましたが、EHR導入のインセンティブとなるビジネス・モデルを確立するのに苦労しているようです。ただ、米国には近年医療機関のペイ・フォー・パフォーマンスを評価する仕組みがあり、医療成績が良ければ、それに応じて高い医療費が支払われるようになってきています。海外では、医療保険を扱っている保険会社などが疾病管理プログラムを導入して、きちんと健康管理をしている人の保険料を安くするなどの取り組みも行われています。日本でも、インセンティブが働くビジネス・モデルを構築する努力が必要だと考えます。

——IBMでは今後、医療のIT化にどのように取り組んでいきますか?

稲岡 大きくは3つあると思っています。まずは、実際のお客様のもとで、利用できる技術を組み合わせて導入しながら医療の現場で役に立つソリューションを提供していくこと。標準化の分野では日本での活動はもちろん、IBMグループとして国際的な標準化に貢献していくこと。研究開発分野でも、新しい技術でお客様をサポートしていくこと。とくに医療分野では、さまざまなベンダーのシステムを相互接続して利用したり、部分的な変更に対応することが必要なので、SOAの考え方をベースにインテグレーションしやすい環境を構築していきたいと考えています。

紹介

稲岡 則子

IBMビジネスコンサルティング サービス株式会社
公共事業本部 アソシエイト・パートナー
(2008年9月現在)

1983年、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。東京基礎研究所にて知識処理、医用画像認識の研究開発に従事。その後、公共セクターにてスーパーコンピューター・プロジェクト、診療情報ネットワーク、電子カルテ等のソリューションを担当する。2003年より現職。医療機関を中心としたヘルスケア分野のソリューション開発、技術戦略コンサルティング・サービス行っている。日本医療情報学会理事。医療情報標準化推進協議会理事。Ph.D.

編集後記

政府が2001年にスタートしたe-Japan戦略では、医療を重点分野に位置づけてIT化に取り組んできました。しかし、現時点ではIT化のメリットが国民の目にはあまり見えていないかもしれません。国民にIT化のメリットを実感できるようなビジネス・モデルの構築が必要であることを気付かされたインタビューでした。(経済ジャーナリスト 千葉利宏)


プロフィール=1958年生まれ、札幌市出身。日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)入社、IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産分野を取材。2001年からフリーランスとして活動中。

掲載日:2008年9月16日

IBM,IBMロゴは、International Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標。 Adobeは、Adobe Systems Incorporatedの米国およびその他の国における登録商標または商標。
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