本文へジャンプ

イノベーションで守る地球環境

日本の専門家に聞く

ごみ廃棄場は宝の山?環境コストを成長に変えるイノベーションとは

日本では企業経営の中に「環境」をどう位置づけるべきか・・・
地球環境問題への国際的な関心が高まる中で、企業の環境問題への取り組みが活発化してきました。地球温暖化ガス削減に向けて目標設定された京都議定書の約束期間が来年に迫っており、企業経営者も企業の社会的責任(CSR)を意識し始めています。一方で、環境問題は企業の経済活動を規制し、負担を強いるとの認識も根強く残っています。これからの企業経営の中に「環境」をどう位置づけていく必要があるのでしょうか?
1971年に環境ポリシーを策定して環境問題に取り組んできたIBMの知識と経験を生かして企業の環境コンサルティングを行っている日本の専門家、IBMビジネスコンサルティング サービス株式会社(IBCS)のアソシエイト・パートナーの駒形佳幸さんと、IBMグリーンコンサルテーション コンサルタントの三村経親さんに話を聞きました。

駒形佳幸さんの写真
駒形 佳幸
IBMビジネスコンサルティング サービス
企業変革コンサルティングサービス アソ
シエイト・パートナー
——地球温暖化防止に向けた国際的な動きが活発化しています。
駒形 9月に開催された国連気候変動ハイレベル会合は、12月に予定されているCOP13(国連気候変動枠組み条約締結国会議)のような拘束力のある会合ではありませんでしたが、国連事務総長の呼びかけに約160カ国、うち70カ国は首脳級が参加しました。地球環境に対する国際的な注目が6月のドイツ・ハイリゲンダム・サミット(主要国首脳会議)以降、相当、高まってきたという印象です。安倍晋三前首相がハイリゲンダム・サミットで行った「2050年に温暖化ガスの排出を半減」との提案も確認されたようですし、ポスト京都議定書の動きがかなり具体化し、合意に向けた流れができてきたのではないでしょうか。
三村 合意が形成されれば、各国に具体的な指標が下りてくることになります。それに応じて企業が社会に対してコミットする流れがどんどん加速していくという状況ですね。

——国レベルの動きに対して日本企業の姿勢はいかがですか?数値目標設定や排出権取引に後ろ向きという話も聞きますが…。
駒形 確かに国や企業の取り組みが、全体を巻き込んだ大きな流れになり切れていない面はあります。ただ、政府も6月に「21世紀環境立国戦略」を閣議決定したところですし、国内排出権取引制度も環境省中心に取り組みが進んでいます。日本の排出権取引制度は、企業に自主目標を設定してもらい、目標を達成するのに必要な設備投資の3分の1を補助するもので、欧州のように強制的に上限を割り当てるキャップ&トレードという仕組みにはなっていません。

——日本には強制はなじまないのでしょうか?
三村 日本企業は温暖化ガス削減に真面目に取り組んできたところが多く、京都議定書の削減目標も産業部門では成果を出してきました。しかし、国としての目標を達成するために、日本でも国と企業が連携を深めていく方向に進むのではないでしょうか。
駒形 来年には京都議定書の第1約束期間を迎えますが、目標の6%削減に対して約8%増加しているわけですし、何らかの国の規制も必要かもしれません。

——最近の企業の取り組みはいかがですか?
駒形 私たちが取り組んでいる環境ビジネスの面では、企業からの引き合いは増えています。先進的なIBMのノウハウを使ってCO2削減を進めようというニーズが高まっています。英国でも「カーボン・マネジメント」への注目が急速に高まっており、英国IBMにとっても大きなビジネスになりつつあります。やはり京都議定書の第1約束期間が目前に迫っているプレッシャーは大きい。社会に対するコミットメントを裏切ることになりますからね。
三村 欧米では、各企業の達成状況を評価してランキングにする機関などがあります。日本でも数値目標が設定されれば、必然的にこうした動きが出てくると思います。

千葉利宏さんの写真
インタビューアー:経済ジャーナリスト
千葉利宏
——日本企業は横並び意識が強いですから、効果がありそうですね。「2050年に半減」の目標達成のためにはどのような方策が必要とお考えですか?
駒形 日本政府が打ち出した「2050年に半減」という提案を達成するには大きな技術革新を織り込む必要があるのですが、かつての自動車排気ガス規制「マスキー法」のように、クリアできそうもない目標を掲げて技術革新を促すことも一つの方策かもしれません。実際、最近ではいくつかの革新的な技術が開発されつつあります。例えば現在の技術では油田採掘も実際の埋蔵量の最大4割程度しか利用できないといわれてきましたが、そこにCO2を注入し微生物の力で分解することでメタンガスとしてエネルギーを回収する方法や、廃棄された電気製品から金属をリサイクルするための新しい技術が出てきています。
三村 先進国を中心に技術革新に取り組むことも必要ですが、発展途上国を技術面でそのように支援していくかも大きな課題です。グローバル展開している日本企業でも、なかなか乗り越えるのが難しいようです。

——なぜ、乗り越えられないのですか?
駒形 いくら現地企業が本社の指示でゴミを分別して出しても、回収された後の処理ができていなければ意味がないというケースもあるかもしれません。しかし、企業独自に行っても効果が期待できる対策もあります。例えばIBMではすべての工場に設置した石油などを貯蔵するタンクを従来の半地下型からすべて地上に上げて二重化する対策を講じましたが、これは土壌汚染を防止するためにタンクの破損を可視化するためです。そこまで費用をかける必要があるのか?との声もありますが、発生してしまってから土壌浄化対策にかかる莫大な費用のリスクを考えれば必要な措置といえます。

——環境リスクを判断するのは難しくはありませんか?
三村 IBMは1971年に「環境ポリシー」を策定して40年近く、環境経営に取り組んできた歴史があって身に付いたといえるかもしれません。環境にどれだけのコストがかかっているのかを管理するシステムを構築して、リアルタイムに状況を把握することもできます。日本企業では、年に一度、環境報告書を作成する時に現状を確認するところも多いですね。環境への取り組みをチェックして、対策を講じて、目標をコミットするというサイクルを回すのは難しいと言わざるを得ません。

——企業が環境問題への取り組みを強化するには何が必要でしょうか?
三村 企業の内部から環境への意識を高めていくことと、外部から法律やガイドラインなどの規制を強化すること、企業の内と外の取り組み両方が重要になると思います。
駒形 最近では環境への取り組みが本業のビジネスにも大きな影響を与えつつあり、経営者に対しても大きな圧力となってきています。

——やはり経営トップ次第ですか?
駒形 経営トップはすでに高い意識を持っている方が増えてきていると思います。現場は環境に良いことには協力的ですし、むしろネックは中間のマネジメント層の意識の方にあるかもしれません。環境経営への転換は、ある意味で従来のやり方を変えることになるので、浸透するまでにはあつれきが生じることもあります。
三村 企業においては環境に対する社内マーケティングを行い、環境リテラシーを高めていくことが重要でしょう。

——日本IBMでも今年4月からグリーン・コンサルテーションの提供を始めました。
駒形 IBMでは、環境をビジネスにすることに、これまでブレーキをかけてきました。しかし、IBMのノウハウを提供することも温暖化防止に貢献するとの考えから、昨年「energy & climate」(エネルギーと気候)の概念を打ち出し、外部に対してオープンにしていく方向へ転換しました。グリーン・コンサルテーションでは、環境とCSR(企業の社会的責任)の2つの観点からサービスを提供しており、最初にクイック・アセスメントによって課題の洗い出しを行い、必要に応じて業務改革を実施したり、環境システムの構築を目指したりします。企業が抱える課題はさまざまですが、三村さんが対応しているグリーン調達ガイドラインの策定で悩んでいる企業は多いですね。
三村 電子・電気機器メーカーのグリーン調達ガイドラインはかなり充実していますが、それ以外の業種では悩まれている企業が多いですね。ガイドラインにはひな型もあるのですが、明確に決まったものがなく、各企業が自らの環境ポリシーに基づいて独自に策定しなければならないのが悩ましいところ。さらに国によっては女性差別、児童虐待に関与していないなどCSRへの対応をどうするのかも決める必要があります。

三村経親さんの写真
三村 経親
IBMビジネスコンサルティング サービス
企業変革コンサルティングサービス IBM
グリーンコンサルテーション コンサルタ
ント
——調達も難しい課題が山積みですね。
駒形 ガイドラインも一度策定すればよいのではなく、法規制などの変化とともに見直しが必要になります。昨年EUでは、電子部品などにカドミウム、鉛など6品目が入ったものはEUでは販売できないと定めたRoHS指令*1と呼ばれる規制が導入されましたが、今度は化学物質を対象にしたREACH*2という規制の導入が進められています。EUの動きを見て韓国や中国でも同様な規制を導入する動きもあります。
三村 現在、日本企業はこうしたさまざまな規制の対応に追われているのが実情です。しかし、もう一歩踏み込んで、地球環境のために自社が何をすべきかを考えていく必要があるのではないでしょうか。何のために企業が環境問題に取り組んでいるのかが社会に伝わっていないのが現状です。

——グリーン・コンサルテーションを始めて企業の反応はいかがですか?
三村 以前は、環境問題にどこから手を付けたらよいのかといった相談が多かったのですが、最近は環境への取り組みではトップクラスの企業からの相談が増えています。
駒形 従来の企業の取り組みは、社会貢献としてボランティア的な意識で行っているところも多かったように思いますが、トップクラスに入るような企業は、何のためにCSRに取り組むのか、企業戦略として環境問題を考え始めています。企業の取り組みも二極化が進んでいるような印象がありますね。

——日本IBMでは、以前から環境シンポジウム*3を開催しています。
駒形 こちらは2000年から社会貢献活動の一環として毎年行っているもので、環境問題に前向きに取り組んでいる地方自治体と共同で開催してきており、好評をいただいてきました。また、社員を対象にして家庭で使用した電気、ガスなどを記録して身近なところで省エネに取り組むECOマラソン*4も2004年から始めていて、2000人以上の社員が参加しています。そうした成果もシンポジウムでは公表することにしています。

*1  RoHS(ローズ):  Restriction of Hazardous Substances(危険物質に関する制限)。
「電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会及び理事会指令」。
*2 REACH(リーチ): Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals. 「化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則」。
*3 2000年10月、持続可能な発展を目指した循環型社会の構築へ向け、産・官・学・民が協働して取り組むことを推進する場として、「第1回IBM環境シンポジウム」を東京で開催。以来、福岡県北九州市、三重県四日市市、岩手県盛岡市、北海道札幌市、香川県高松市、熊本県熊本市で開催。http://www.ibm.com/jp/company/environment/symposium/
*4 日本IBMグループ会社に勤務する従業員、またその家族であれば簡単に参加できる。社員だけでなく社員の家族の参加も得て、職場・家庭・学校・地域などで環境活動に取組もうというプログラム。参加者が、マラソンレースのように粘り強く環境活動を継続的に実践することを目指し、「ECOマラソン」と命名された。http://www.ibm.com/jp/company/environment/marathon/

(経済ジャーナリスト 千葉利宏)
プロフィール=1958年生まれ、札幌市出身。日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)入社、IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産分野を取材。2001年からフリーランスとして活動中。

【日本の専門家に聞く 編集後記】
地球環境と人類とは対立関係にあると考えられてきました。地球と人類の共存も「地球が壊れては元も子もない」から人類がブレーキをかけると考えられていたように思います。地球に良いことは、企業にとっても良いこと—。その発想の転換が求められていることに気付かされたインタビューでした。

  • 駒形佳幸さんの写真

    駒形 佳幸

    IBMビジネスコンサルティング サービス株式会社
    企業変革コンサルティングサービス
    アソシエイト・パートナー
    (2007年10月現在)


日本IBM入社後、社内情報システム部門においてシステム開発の経験を積む。長野オリンピック組織委員会に出向後、コンサルティング部門へ異動し、製造業のお客様を中心にIT戦略および事業戦略プロジェクトを数多くリード。これらの経験をベースとしてCSR/環境の領域に拡張し、IBM自身の経験を踏まえた企業戦略としてのCSR/環境経営を実践している。

  • 三村経親さんの写真

    三村 経親

    IBMビジネスコンサルティング サービス株式会社
    企業変革コンサルティングサービス
    IBMグリーンコンサルテーション コンサルタント
    (2007年10月現在)


IBMビジネスコンサルティングサービス 戦略コンサルティングサービス 企業変革コンサルティングチーム IBMグリーンコンサルテーションに所属し、CSR/環境の領域にてIBM自身の経験を踏まえたコンサルティングを実践している。
【専門とする経営テーマ】
社会的責任経営(CSR経営)、環境経営戦略、環境ガバナンス、環境リテラシー、環境戦略実現のためのIT活用、IT戦略

掲載日:2007年10月15日

IBM, IBM(ロゴ), Global Innovation Outlookは、International Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標。
Adobeは、Adobe Systems Incorporatedの米国およびその他の国における登録商標または商標。
他の会社名、製品名およびサービス名等はそれぞれ各社の商標。

コンテンツ・ナビゲーション