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世界的人材獲得競争の時代が来た

人材戦略のパラダイム・シフト。今求められる3つの力とは

現時点で「適応力に優れている」と回答した日本企業はゼロ。日本企業のこれからはどうすればよいのか?

「あなたの企業は適応力に優れていますか?」—IBMが行った調査で、この質問に「はい」と答えた日本企業はありませんでした。これまで日本企業の多くは、経営環境の変化に強い組織づくりの必要性をあまり認識していなかったのかもしれません。

しかし、ここ2〜3年で「日本企業の人材マネージメント戦略も大きく変化してきました」と、IBMビジネスコンサルティング サービス株式会社の前川浩司さんは言います。経済のサービス化が進み、人が提供するサービスやソフトが製品の価値を決める時代へと変化しつつあることも影響しているのでしょう。 日本企業が組織の適応力を高めていくには、どのようなアプローチが必要となるのでしょうか?経営戦略に貢献する人材変革、リーダーシップ変革のポイントについて前川さんに話を聞きました。


前川さんの写真
IBM ビジネスコンサルティング
サービス株式会社
マネージング・コンサルタント
前川 浩司

——「人材戦略のパラダイム・シフト」を読むと、企業の人材マネージメント戦略に変化が出ているようですね。その変化とはどのようなものですか?

前川 日本では急激な少子高齢化に伴う労働生産人口の減少がしばしば話題になりますが、企業が抱える人材に関する問題はそれだけではありません。企業を取り巻く経営環境は、金融不安による景気低迷、グローバル化による企業競争の激化、IT化によるコラボレーションの拡大、CSR(企業の社会的責任)への対応と、大きく変化しています。企業の人材マネージメントも、そうした変化に迅速に対応できる「適応力」を強化しようという流れが強まっています。

——適応力というと、社員に備わっている資質という意味ですか?

前川確かに社員一人一人の適応力も重要ですが、会社組織として変化に対する適応力があるかどうかという意味です。IBMでは、CEOやCFOのほかに、企業の人事責任者を対象とした調査「グローバル・ヒューマン・キャピタル・スタディー」を実施しています。最新の調査で企業の適応力について聞いたところ「適応力は非常に高い」と答えた企業は全世界でわずか14%だったのですが、日本企業に限ると何とゼロでした。逆に「適応力が乏しい」と答えた日本企業は10数%に達し、海外企業との大きな差異がありました。

——組織の適応力を、企業はどのように評価しているのですか?

前川先の調査で適応力に優れていると答えた企業と他の企業を比較すると、大きく3つの違いが浮かび上がってきました。第1が「スキルの予測」で、将来に必要になるであろう人材のスキルを予測できる組織となっているか。第2が「専門家の特定」で、必要とするスキルを持った専門家を組織の中からすぐに探し出すことができるか。第3が「協働」で、組織を超えてコラボレーションが実現しているか—という点でした。

千葉さんの写真
インタビューアー:
経済ジャーナリスト
千葉利宏

1つめのスキルの予測とは、具体的に何を行うのですか?

前川企業が人材のスキルの予測を行うためには、今後どんなビジネスをどのように展開するのかというビジネス戦略が明確になっていなければなりません。そのビジネス戦略を実現するために“人材変革”に取り組むわけですが、まず最初に人材の職種や役割を定義する必要があります。その定義に基づいて、これから取り組むビジネスでどの役割・レベルの人材がどれぐらい必要なのかを見極めることで、人材の需給ギャップが予測できます。さらに今後のビジネスにどんなスキルがどの程度必要なのかを見ることで、現在のスキルだけで十分なのか、新たなスキル獲得のための研修プログラムや外部人材の活用が必要になるのか等、スキルの需給ギャップを埋めるための人材適正化施策を実行できます。

——2つめの専門家の特定と、3つめの組織の壁では何がポイントになりますか?

前川 まずはできるところから着手して早く成果を出すことです。われわれは“Quick Win”と呼んでいますが、それによって両社がWin-Winの関係になることが確認できればより本格的な取組みに進化させるとともに、他にも広げていこうということにもなります。いかにして“Quick Win”を実現するかが、最大のポイントといえるでしょう。

——IBMの調査では「適応力は非常に高い」と答えた日本企業はゼロだったわけですが、現在の日本企業が直面している人材マネージメント上の課題とはどのようなものですか?

前川 今年に入って正社員と非正規社員の考え方を整理したり、管理職のあり方を見直したりという動きが活発でした。ここ数年の大きな傾向としては、人材育成への注目が一段と高まってきていることがあげられます。人材育成の対象も、管理職など組織のリーダーから、プロフェッショナル社員、さらには海外拠点の外国人社員など、多岐に渡ってきています。

——かつての企業の人事部門というと管理が中心で、ビジネス戦略に直結していないというイメージがありました。

前川 以前はそうでしたが、今は人事部門にもビジネスの視点が求められ、人事部門のトップに人事の専門スキルよりもビジネスに精通したリーダーを起用する企業が増えているようです。10年ほど前にIT部門が企業経営に貢献していないといわれた時期がありましたが、この2〜3年、人事部門が経営戦略にいかに貢献するかが課題になってきています。経済のサービス化が進んで、人が提供するサービスやソフトが企業の価値を決める時代になってきたからでしょう。


前川さんの写真

——確かにモノの品質は出来上がった製品を検査すればよいですが、人が提供するサービスの品質をチェックするのは難しいですからね。

前川 優秀な人材を育成するための第一歩としては、職種や役割ごとに何が求められているのかを明文化する必要があるでしょう。それに基づいて必要なスキルを定義します。最近の若手社員は成長意欲が高いですから、自分がめざす職種や役割に求められるスキルとキャリア・パスを示すことで成長を促すことが重要です。

——日本企業が組織の適応力を高めていくには、どのような対策が必要になるでしょうか?

前川 組織の適応力を高めていくアプローチには、大きく分けて4つの領域が考えられます。ひとつは人材マネージメントの仕組みづくりです。キャリア・パスを整え、人材育成プログラムを構築し、育てた人材を適材適所に配置する統合的な仕組みを構築する必要があります。2つめが人事部門自身の変革です。人事部門の役割もビジネス戦略の実現への貢献が求められる時代になってきました。3つめは人材育成、特にリーダーシップ人材の育成という領域です。変化の激しい時代には、従来のマネージメント中心から、新しい分野へと引っ張っていくリーダーシップが重要となります。また、これからのリーダーにはビジネス・マネージメントと同様にピープル・マネージメント・スキルも求められるでしょう。4つめはコミュニケーションの領域です。企業が新しい施策を検討する際には、社員の声を集めて反映させることが必要になります。また、組織を超えた協働を実現するためにもコミュニケーションは非常に重要な要素です。IT化が進んだことでむしろフェイス・ツー・フェイスの重要性が高まっているといえます。

——4つの領域で対策を講じるときに、どこに配慮すればよいでしょう。

前川 ポイントは3つあります。一つめは、「明確にコンセプトを打ち出すこと」。その改革は何のために行うのか明確なコンセプトを打ち出すことにより、関係者間で共有することが重要です。二つめは、「統合的にアプローチすること」。先に挙げた4つの領域でバラバラに対策を講じるのではなく、バランスを考慮しながら統合的にアプローチすることをお奨めします。三つ目は、「運用に力を入れて定着化を図ること」。新しい人材マネージメントの導入においては、仕組みを作っただけではダメで、運用プロセスや体制づくりや社員への意識変革等、継続的なコミュニケーションがより重要になるでしょう。

——人材マネージメントは、やり方次第で社員のモチベーションにも影響を与えそうですね。

前川 はい。これからは会社の視点だけで人材マネージメントを行うのではなく、個人の視点を加えていくことも重要です。会社の目標と個人の目標が一致できるような人材マネジーメントができれば、社員のモチベーションもあがると思います。日本企業の中にも、ES(従業員満足度)マネージメントを取り入れて、世界規模で運用しているところもでてきています。

——IBMとして、日本企業が人材マネージメントの変革に取り組むことをどのように支援していく考えですか?

前川 企業によって人材マネージメントの変革の進め方はいろいろあるでしょう。営業や技術などプロフェッショナルであれば、部門中心でスキルの見える化に取り組むのもよいでしょうし、リーダー層の育成であれば全社的なアプローチが必要になります。企業再編を機に、新しい人材マネージメントを導入したいという企業からの相談も増えてきています。 IBMは、人材マネージメントの分野でも新しい試みに挑戦してきた企業です。役割の定義、人材の見える化、リーダーシップの育成などに必要なさまざまな運用ノウハウや、それらをサポートする体制やITシステムも持っています。最近では、個人に配慮して従来は役割や職種ごとにサポートしてきた人材支援を社員一人一人に行う仕組みや、グローバルな環境で人材の見える化を図りコラボレーションしやすい環境を整備する取り組みも進めています。こうした実績や新しい取り組みをコンサルティング活動やシステム構築に生かして、人材変革を必要とされる日本企業のお客様をご支援していきたいと考えています。

紹介

前川 浩司

IBM ビジネスコンサルティング サービス株式会社 ヒューマン・キャピタル・マネジメント 人財戦略支援コンサルティング・リーダー、マネージング・コンサルタント (2008年10月現在) (2008年10月現在)

IBMにおいてシステムズ・エンジニア、営業としてソリューション・ビジネス推進に従事後、人事コンサルタントに転向。人事戦略立案、人事制度統合・再構築、人材育成フレームワーク、ESマネージメント、ワークスタイル変革、人事業務プロセス可視化・改革等、人財マネージメント関連のコンサルティングを幅広くリードするとともに、IBMがグローバルで実施している人事調査(GHCS)における実施・展開を日本のリーダーとして担当する等、人財マネージメント・ソリューション強化に貢献。



編集後記

日本企業の人材戦略は、非正規雇用者の増大が示すように、これまでは人件費を抑制することに重点が置かれてきた印象があります。しかし、雇用調整だけで、これからの激動する経営環境を勝ち残っていくことができるでしょうか?変化に強い企業を目指して人材戦略も変革に時期を迎えています。 (経済ジャーナリスト 千葉利宏)


プロフィール=1958年生まれ、札幌市出身。日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)入社、IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産分野を取材。2001年からフリーランスとして活動中。


掲載日:2008年10月27日

IBM,IBMロゴは、International Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標。 Adobeは、Adobe Systems Incorporatedの米国およびその他の国における登録商標または商標。
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