本文へジャンプ

ストックホルムの道路交通イノベーション

変化するストックホルムの道路交通

日本の専門家に聞く
ストックホルムの成功事例を日本ではどのように見れば良いのでしょうか

過密都市を多く抱える日本では、主に経済的損失の視点から交通渋滞の解消に取り組んできました。渋滞情報を提供するカーナビゲーションシステムや、料金所が渋滞ネックとなっていた高速道路にETCが導入され、既にかなりの効果を発揮しています。
しかし、交通が抱える問題点は経済的側面だけで考えるべきなのでしょうか?ストックホルム市の例では、急激に進んだ交通量の増加に対しての対策が第一義でしたが、環境負荷軽減も目的の1つとして取り組み、それに成功しました。
1997年に地球温暖化防止のため決議した京都議定書の第一約束期間(2008年から2012年)は目前に迫っており、地球温暖化防止について議論されることが多くなってきました。事実、2007年6月にドイツ・ハイリゲンダムで開催された主要国首脳会議(G8サミット)では、環境問題が大きなテーマとなりました。
今や「地球温暖化防止」というのは世界的な関心事であり、交通渋滞は今や経済的損失の視点のみならず、地球温暖化防止と言う新たな視点も重要になっているのです。日本では今後、どのように取り組んでいくべきなのでしょうか?
日本IBMソフトウェア事業の望木さんからは交通渋滞問題への日本と欧州の取り組みの違いについて、IBMビジネスコンサルティングサービスの駒形さんからは環境問題を取り巻く現状について、興味深い話を聞くことができました。

望木 純一さんの写真
望木 純一
ソフトウェア事業ラショナル事業部
事業開発部長
——日本でもドイツ・ハイリゲンダムのサミットに合わせて、国土交通省がETCを使って通行料金を割引することで、都心部に流入する自動車を開通したばかりの圏央道に迂回させる実証実験を今年(2007年)から始めると発表しました。
望木 自動車通行に課金することで交通量をコントロールするロードプライシング(道路料金自動徴収制度)を実現するETCシステムについて、IBMでも専門チームを設置して、主に欧州を中心に積極的な活動を展開しています。ロードプライシングは欧州では都市部の一般道でも始まっており、ストックホルム市のほか、英国ロンドン市、ポルトガル道路公団のETCシステム「ビアベルデ」などが有名です。ただ、世界中を見てもETCシステムで夜間割引など時間単位の通行料金を柔軟に設定できるのは日本だけです。ある意味、日本は世界で最もロードプライシングが進んでいる国だと言えます。

——日本の高速道路はもともと有料ですが、欧州は基本的に無料という違いがあります。
望木 欧州では「環境税」を時間かけて導入してきた歴史があります。環境悪化させるものには課税しても良いという意識が醸成され、道路の有料化が実現してきました。例えば、ストックホルムの場合、これまでに何度も実証実験と、市民へのアンケート調査を行って合意形成に時間をかけ、昨年7月の住民投票でロードプライシングの本格導入が決まったところです。一般道の通行で昼間は900円もの課金を行っています。IBMは、ストックホルム市が導入したシステムの構築をシステムインテグレーターとして担当しました。欧州では、ロードプライシングが大きな潮流となっており、ETCシステムの需要増加が期待されています。

駒形 佳幸さんの写真
駒形 佳幸
IBMビジネスコンサルティン
グ サービス 企業変革コン
サルティングサービス
アソシエイト・パートナー
——交通渋滞でも温暖化防止がキーワードとなってきましたが、来年(2008年)春に開催される北海道洞爺湖サミットでも環境問題が大きなテーマとなる見込みですね。
駒形 ここに来て地球温暖化防止への取り組みが活発化している背景には、やはり京都議定書で決議した第1約束期間(2008年~2012年)が迫っていることがあります。京都議定書で日本は第1約束期間までに温暖化ガスの排出量を、1990年を基準に6%削減することを約束しましたが、2005年の段階では逆に7.8%の増加となっています。現時点では6%ではなく、6%にプラス7.8%の14%近く削減しなければならない状況です。

——政府は「チーム・マイナス6%」のキャンペーンを展開中ですが、6%どころではないんですね。
駒形 分野別にみると、工場など比較的制御しやすい産業部門の排出量は目標に届かないながらもマイナス傾向なのですが、住宅などの生活を中心とした家庭部門と、自動車などの輸送部門やサービスなどの業務部門では大きく増えました。今後は、家庭・業務分野から排出される温暖化ガス削減が不可欠ですが、家庭での自動車利用を抑制したり、トラック輸送から鉄道輸送に切り替えたりするなど温暖化防止の取り組みを推進するのは容易ではありません。政府が先頭に立ってムードづくりを進め、大きな“ムーブメント”にしていくことが必要です。

——日本でも一般道でのロードプライシングも視野に入れているのでしょうか?
望木・駒形 日本に一般道でのロードプライシングを導入しようとすれば、現時点では大きな反発があるでしょうね。東京も、ストックホルム市のように多摩川や荒川などの川で区切られているので技術的には導入可能かもしれませんが、住民合意を得るのは難しい問題ですね。一般道を管理する警察庁や東京都を含めて、今後どのような議論が進んでいくかを注目していく必要があると思います。

【日本の専門家に聞く 編集後記】
日本は欧州に比べて公共交通機関が発達しており、自動車もハイブリッドカーなど燃費の改善が進んでいます。それでも石油の消費量の約40%が輸送関係で占められている状況にあります。ここに来て自動車業界でも「環境ITS」への取り組みに本腰を入れ始めました。30年以上も前に「環境ポリシー」を策定し、世界の様々な環境プロジェクトにも参加して、環境問題に積極的に取り組んできたIBM—。その豊富な知識とノウハウが、日本でも役立つ場面が今後ますます増えることになりそうです。(経済ジャーナリスト 千葉利宏)

プロフィール=1958年生まれ、札幌市出身。日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)入社、IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産分野を取材。2001年からフリーランスとして活動中。

  • 駒形 佳幸さんの写真

    駒形 佳幸

    IBMビジネスコンサルティング サービス
    企業変革コンサルティングサービス
    アソシエイト・パートナー
    (2007年7月現在)


日本IBM入社後、社内情報システム部門においてシステム開発の経験を積む。長野オリンピック組織委員会に出向後、コンサルティング部門へ異動し、製造業のお客様を中心にIT戦略および事業戦略プロジェクトを数多くリード。これらの経験をベースとしてCSR/環境の領域に拡張し、IBM自身の経験を踏まえた企業戦略としてのCSR/環境経営を実践している。

  • 望木 純一さんの写真

    望木 純一

    ソフトウェア事業ラショナル事業部
    事業開発部長
    (2007年7月現在)


1986年より大手鉄鋼業のお客様を担当。 海外製鉄所建設、本社ビジネスプロセス改革支援、物流システムプロジェクト等に従事した後、1999年よりITS/テレマティックスを担当、テレマティックスアプリケーション構築支援、組込みシステム開発支援などを手がけ、現在は組込みシステムを含むソフトウェアエンジニアリング改革を推進。

担当製品:IBM® Rational® Software

IBM, IBM(ロゴ),Global Innovation OutlookおよびRationalは、International Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標。
Adobeは、Adobe Systems Incorporatedの米国およびその他の国における登録商標または商標。
他の会社名、製品名およびサービス名等はそれぞれ各社の商標。

コンテンツ・ナビゲーション