過去10年で交通のIT化が一気に加速しました。自動車にはカー・ナビゲーション・システムやETC(自動料金支払いシステム)端末が搭載され、電車・バスでは電子マネー利用が拡大、空港でもICパスポートの導入やチケットレス化が始まっています。
IT化は、交通のボトルネック緩和にかなり効果を発揮しています。しかし、大都市圏の交通渋滞、深刻化する環境問題、高齢者の安全問題と、取り組むべき課題は少なくありません。
これからの交通輸送イノベーションはどのように進むのでしょうか。IBMでは、GIO (Global Innovation Outlook)の年次会議で、世界各国の専門家を集めて交通問題の革新的な解決策を議論してレポートをまとめました。
ここでは、高度化した自動車、機能的な道路、効率的な輸送システム、高速かつエネルギー効率の良い公共交通システムの4つを紹介します。さらに「日本の専門家に聞く」として、日本IBMの理事 自動車産業エグゼクティブの安井和彦さんと、ソフトウェア事業ラショナル事業部開発部部長の望木(もぎ)純一さんに、自動車を中心とした交通輸送イノベーションの最新動向を聞きました。
<ITS2.0へ — 道路交通イノベーションの明日>

安井 和彦
GBS インダストリアル
サービス事業部理事
自
動車産業エグゼクティブ
いまや世界の自動車市場をリードし進化し続ける日本車。日本IBMは、自動車メーカーが取り組むクルマの高付加価値化をITによってサポートしてきました。
人とクルマと道路の情報をネットワーク化することで、交通事故や渋滞などの道路交通問題を解決しようと構築が始まったITS(高度情報通信システム)の登場で、クルマ社会においてITが果たす役割はますます重要になっています。
今回、インタビューした安井さんは、30年に渡って日本の自動車業界を担当してきた日本IBMが誇る自動車の第一人者です。そして望木さんは長年、標準化活動などを通じてITS推進に貢献し、今年から自動車向けソフト開発ツールなどを扱うソフト部門の責任者。あまり知られていなかった日本IBMとクルマの密接な関係を聞くことができました。
——クルマのIT化が一段と加速してきました。

望木 純一
ソフトウェア事業ラショナ
ル事業部
事業開発部長
望木 ITSも1996年にVICS(道路交通情報通信システム)、2000年にETCが導入され普及してきましたが、インターネットもWeb 2.0時代に入ったように、ITSも自動車の外から情報を得るだけでなく、自動車の情報を外に発信して利用する時代「ITS 2.0」へと大きく転換しようとしています。この基盤整備に向けて日本IBMでは、ITSの国際標準化に取り組んでいる「ISO/TC204 委員会」、道路情報の標準化に取り組んだ「スマートウェイXML委員会」、そして 2002年に発足したインターネットITS協議会に参画して貢献してきました。今後、新しい機能やサービスを搭載した日本車が続々と登場してくるでしょう。
安井 日本には現在7500万台もの自動車があります。インターネットITS協議会では、膨大な自動車ストックがネットワーク化することで何ができるかが議論されています。例えば、7500万台もの自動車のエンジンで発電できればどうでしょう。また自動車のワイパーが動き出したという情報を集めることができれば、どこで雨が降り出したかを正確に知ることもできます。こうした全ての自動車のセンサー情報(プローブ情報)を効率的に収集できれば、大きなビジネスインフラになる可能性を秘めているのです。
——自動車メーカーにとって「安全」と「環境」が大きな課題です。
望木 日本メーカーは「安全」の強化と同時に、「品質」への取り組みに力を入れています。自動車の高機能化、ソフト化が進んだことで、エラーも発見しにくく、安全性のトラブルが発生した場合でも再現できない事例が増えていました。いまや自動車には50~100個のECU(電子制御機器)が搭載されています。コンピューターと同様に動作データを記録することで、トラブルの原因を究明して品質向上に取り組もうという試みが始まっています。
安井 このとき必要になることは、これらの動作データの解析結果から、想定される事態を予測し早めに手を打つために、どれだけ正確な解析アルゴリズムが用意できるかです。IBMの研究部門でも、今後の自動車業界で大変重要なテーマであると認識して、データ解析などの基礎研究を行っている数学者などにより、リアルなデータを用いて実用化に向けての取り組みが進められています。
——自動車向けのソフト開発の効率化も大きな課題ですね。
望木 車載用ソフトの開発規模は、ナビゲーション・システムだけで300万ステップを超え、その他も含めると500万~1,000万ステップに達していると言われています。搭載するECUを統合化するという方向もあり、いかに自動車メーカーのソフト開発を効率的にサポートしていくかが、ITベンダーにとって重要になっています。IBM は、日本の自動車各社も参画している AUTOSAR に対し、プレミアム・メンバーとして参画し、車載ソフトウェアの国際標準化にも貢献しております。日本IBMでも、車載ソフトウェア向けのテスト・ツールやソフト自動生成ツールなど、多くのお客様で採用されてきており、今後も大いに貢献していきたいと考えています。
安井 自動車メーカーはコスト競争力を高めるために、世界規模で部品の共通化やモジュール化を進めてきました。しかし、逆にたった一つの部品によって不具合が発生しただけでも影響範囲は大きくなり、 膨大な費用がかかるだけでなく、ブランドを大きく傷つけるリスクを抱えることになりました。このため市場の品質に関する情報を世界中からフィードバックできる体制を構築し、品質向上のための仕組みづくりを進めようという動きも出ています。
ソフトの品質管理は、ITベンダーにとって得意な分野でありノウハウが蓄積されているので、グローバル・レベルでのソフトの品質管理はIBMが得意としている領域でもあります。
——「環境」への取り組みはいかがですか?
安井 日本では2005年に自動車業界全体で自動車リサイクル法に対応した仕組みを立ち上げました。日本IBMもデータセンターの構築で、世界に誇れるリサイクル・システムの立ち上げに参画することができました。現在自動車関連の企業は、さまざまな角度から環境への取り組みを強化しており、日本IBMでも環境負荷物質のデータを収集・管理するシステムなど環境ソリューションの提供に力を入れていきます。
【エキスパートの視点 編集後記】
クルマのIT化にITベンダーとして、どう取り組むか?その質問に対して「ITを使うことで人間の意思がより的確に伝わるクルマづくりに貢献すること」との答えが返ってきました。それが、数多くの自動車メーカーに採用された音声認識システムなど、先駆的な車載システムを生み出す原動力になったのでしょう。高機能化が進む自動車の開発とグローバル戦略の進展で、日本の自動車メーカーでも優秀な人材をいかに確保するかが大きな課題になっていると聞きます。それだけに、日本IBMが日本車開発の重要なパートナーであり続けることが強く期待されているといえるでしょう。(経済ジャーナリスト・千葉 利宏)
プロフィール=1958年生まれ、札幌市出身。日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)入社、IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産分野を取材。2001年からフリーランスとして活動中。
安井 和彦
GBS インダストリアルサービス事業部
理事 自動車産業エグゼクティブ
IBM入社後、製造業界特に自動車業界担当システムズ・エンジニアとして、多くの大規模プロジェクトの経験を有す。1993年より、IBMコンサルティング・ビジネスの立ち上げに参画し、業務改革および情報戦略策定を中心に活動する。現在、約30年間担当してきた自動車業界のお客様の成功への貢献とIBMの次世代の基盤づくりを最大の役割として務めている。
担当業種:自動車 製造業向け情報ポータル「匠」 業界の部屋 - 自動車業界
望木 純一
ソフトウェア事業ラショナル事業部
事業開発部長
1986年より大手鉄鋼業のお客様を担当。 海外製鉄所建設、本社ビジネス・プロセス改革支援、物流システム・プロジェクト等に従事した後、1999年よりITS/テレマティックスを担当、テレマティックス・アプリケーション構築支援、組込みシステム開発支援などを手がけ、現在は組込みシステムを含むソフトウェア・エンジニアリング改革を推進。
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