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――日本でも団塊世代の大量定年退職が始まりました。
三巻 昭和22年から24年の3年間に生まれた団塊の世代は680万人、就業者数で490万人に達します。2007年以降、彼らが職場を去っていくことで、特に製造業、ものづくりのノウハウが伝承されていかないという問題がやはり大きいのではないでしょうか?大量定年退職による人材の不足感も、技術、技能の分野は深刻ですが、事務などはそれほどでもなく、職種によってばらつきはありますね。
――政府は改正高齢者雇用安定化法を2006年4月に施行しました。
三巻 法改正で企業は(1)定年制の廃止(2)65歳までの定年引上げ(3)継続雇用制度の導入―の3つのいずれかの措置を実施することが義務付けられました。2006年10月時点で、厚生労働省が従業員51人以上の企業8万1382社を対象に調査したところ、全体の84%、大企業では94%が対応済みという結果になりましたが、(1)の定年廃止は1%、(2)の定年延長は11%、残りの72%が(3)の継続雇用制度で対応しています。
――企業の対応はかなり進んでいるようですね。
三巻 ただし、継続雇用制度でも希望者全員を雇用しているのは4割で、残りは健康状態や過去の評価など何らかの条件を加えています。従業員1000人以上で見ても、4分の3の企業は定年で退職したり、継続雇用する場合でも報酬を2〜3割カットしているのが実情のようですね。
――日本ではシニア労働力をうまく活用できているのでしょうか?
三巻 企業からはバブル崩壊後に採用した人材が育っていないという話を聞きます。右肩上がりの時代は、チャレンジする機会も多くありましたが、バブル崩壊後、採用を大幅に抑制したため、下の世代が入社してこないうえに、チャンスの機会も与えられない。そろそろリーダーとなるべき世代なのですが、全体観を持った人材に育っていないというのです。
――確かにチャレンジする機会は少なくなったかもしれません。
三巻 一方、マネジメントの仕事内容も、部下の評価査定、コンプライアンス(法令順守)への対応など、以前に比べてやるべきことが多くなってきました。そうした仕事の大変さを見て、最近ではリーダーになりたくないという人も増えています。人手はあるけれど、人材のミスマッチによって人材不足が懸念されています。
――その部分は、シニア労働力でカバーできそうですが…。
三巻 高齢者雇用安定化法に対応するため、企業もできるだけ多くの定年退職者を再雇用することに重点を置いているのが実情でしょう。単に人手不足を補うのであれば、労働コストが高いシニア層を再雇用するより若年層を雇用した方が良いですし、シニア層も自分の価値が認められて気持ち良く働きたいという思いもあります。もっとシニア層のスキルやノウハウにフォーカスして、どう活用するかを考える必要があるのではないでしょうか?
――シニア労働力を活用するノウハウが不足しているのかもしれませんね。
三巻 シニア層の場合、仕事に対するマインドにも個人差があります。体力に自信があるなしでも違いますし、報酬に対する考え方も異なります。リクルートのワークス研究所の調査によると、若いときは「能力を生かしたい」とか「高収入を得たい」という気持ちが強いのですが、シニア層は「自分がやってきたものを社会に役立てたい」との思いが強くなる傾向があります。企業もシニア層に担ってもらう“役割”を明確にしたうえで、シニア層のスキルやノウハウを生かせる雇用機会を創出し、人材不足を補う必要があるでしょう。
――どのような“役割”が考えられますか?
三巻 例えば、豊富な人脈を生かしたトップセールス、若手とペアを組ませて技術やノウハウの伝承、コミュニティーへの貢献による企業ブランド価値の向上などが考えられるでしょう。ただ、日本企業では、いまだに年功序列的な人事制度が残っており、日頃から人材のスキルや実績の適切な評価や、それに応じた教育・研修も十分ではありません。ですから、継続雇用するときに慌ててシニア層に対する選別、報酬カット、再雇用研修などが行われるのでしょうね。
――定年間際に慌てて“役割”を考えても、シニア層に満足してもらえる雇用機会の創出は難しいということですね。
三巻 米国IBMを始め欧米企業では、人材を市場価値に基づいて評価する人事制度が定着しています。日頃から人材のスキルや実績が評価され選別されていれば、そもそも定年制度も必要ないはずなのです。米国IBMのレポート「ワークスタイル変革 - IBMの場合」で、スキルを持っているシニア層が社会に貢献するのをIBMが積極的にサポートする事例が紹介されていますが、米国と日本の人事制度の違いを理解したうえで読む必要があります。これを日本で実現しようとするなら、人事制度から見直す必要があるかもしれません。
――日本では、ホワイトカラー・エグゼンプションへの理解も十分ではないですね。
三巻 ホワイトカラー・エグゼンプションが、生産性向上のためではなく、コスト削減の仕組みと考えられているところに問題があります。IBMグループの場合、コンサルタントであればいかに顧客に対して価値を提供できているかを徹底的に評価します。「価値を生み出すのは時間ではない」という裁量労働の考え方が浸透しているので問題は生じません。ところが、ある日本企業で裁量労働制を導入したら、裁量労働対象の社員には時間外労働に対する手当を支払う必要がないことから、彼らの残業が増えたというケースがありました。成果主義に基づいて価値で評価する人事制度が定着していないのに裁量労働制を導入すれば、結果的にそうなります。
――テレワークを導入するのに、ウェブカメラを使って在席確認するといった笑えない事態になりかねませんね。
三巻 在席確認しなければ、部下を管理・評価するのは難しいというのが現状でしょうね。どんな役割を担ってもらうのかをはっきりしないまま、テレワーク制度だけを入れても機能させることは難しいでしょう。
――IBCSでは、日本企業に対してどのようなサービスを提供しているのですか?
三巻 人材活用と言っても、雇用創出のための研修サービスなどを提供しているわけではありません。人口動態や労働市場の変化などが、企業の労働力にどのような影響を及ぼすのかを分析したうえで、シニア層や女性の活用、教育・研修のあり方、ナレッジ・マネジメント戦略や社内のコミュニティーづくりなど、“組織づくり”を支援するのが主な仕事です。最近ではITを活用することで場所や時間にとらわれずに柔軟な働き方ができるようになってきましたが、働きやすさと充足感が得られる職場環境を実現するためのコンサルティング・サービスを提供しています。
――最近はオフィスも、ずいぶん変わってきました。
三巻 IBCSでは“ワークスタイル変革”と呼んでいます。企業に導入する場合は、座席が決まっていないフリーアドレス制などの物理的なオフィス設計手法から、電話会議やテレワークなどのどこでもつながる仕組み、多様な働き方が可能な人事制度と評価のあり方まで全体を設計しますが、重要なのは社員に対する意識改革です。最初は、パイロット・プロジェクトでスタートし、具体的な成果を積み重ねながら、組織全体へと地道に広げていくことが成功の秘訣です。
【日本の専門家に聞く 編集後記】
日本の労働市場では、偽装請負問題に始まって労働派遣やワーキングプアなどさまざまな問題が一気に噴出してきました。その一方で、企業にとって必要な人材不足が深刻化しているにも事実です。中長期的な視点に立って、人材を育てスキルに応じた活用を図っていく「人財戦略」の重要性を、改めて認識することができたインタビューでした。
(経済ジャーナリスト 千葉利宏)
プロフィール=1958年生まれ、札幌市出身。日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)入社、IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産分野を取材。2001年からフリーランスとして活動中。 |