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ワールド・コミュニティー・グリッド

あなたのパソコンが世界を変える ワールド・コミュニティー・グリッド コンピューターの空き時間を利用してガン撲滅やエイズ治療を支援

ワールド・コミュニティー・グリッド(WCG)
グリッド・コンピューティングの可能性と今後の展望

ネットワークにつながったコンピューターの能力を引き出してスーパーコンピューターに匹敵する処理を可能にするグリッド・コンピューティング——。もし、ネットワークを通じて使いきれていないコンピューター能力を必要な時に必要なだけ利用できるようになったら、コンピューターの利用形態は劇的に変化するかもしれません。
インターネットの普及でネット・サービスの拡大が進むなか、グリッド・コンピューティングはどのような役割を果たし、IBMはそのなかで、どのようなことをしようとしているのか。
社会貢献活動としてのWCGの取り組みについてを日本アイ・ビー・エム株式会社 社会貢献の藤井恵子さんに、グリッド・コンピューティングの可能性と今後の展望について、日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社 テクノロジー・イノベーション担当の濱田正彦さんに聞きました。

濱田さんの写真
テクノロジー・イノベーション
担当 濱田正彦
——グリッド・コンピューティングは、いつ、どのように誕生したのですか?
濱田 グリッド・コンピューティングが世界的に注目されるようになったのは2002年のこと。世界の主要なITベンダーが参加するグリッド・コンピューティングの国際標準化団体、グローバル・グリッド・フォーラム(GGF、現在はオープン・グリッド・フォーラム=OGFに名称変更)に対して、IBMを中心としたITベンダーがグリッド・コンピューティングの商用分野での活用を提案したのがきっかけでした。膨大な科学技術計算を短時間に処理するために、90年代に科学分野の研究者たちによってグリッド・コンピューティングの技術開発は進んでいましたが、IBMなどITベンダーの提案でグリッド・コンピューティングの商用化をめざす機運が一気に盛り上がりました。

——以前からもコンピューターの処理能力を高めるために、複数のコンピューターを接続して稼働するアイデアはありましたが、どこが違うのですか?
濱田 従来のクラスターと呼ばれる方法は、同じ種類のコンピューターをつなげるものですが、グリッド・コンピューティングはコンピューターやOS(基本ソフト)の種類が異なっても接続できるようにする技術です。大学や研究機関では、より高性能なコンピューターを必要としていますが、導入予算も限られます。ある大学で最新鋭のコンピューターを導入すると、通常はそれまで使用していたコンピューターの利用率が落ちたりします。その余った能力を他の大学が効率的に利用できるようにと、グリッド・コンピューティングが発達してきました。

——確かに効率的ですが、他人にコンピューターを使用させるのはトラブルが生じる可能性もありますね。
濱田 いざ自分が使おうというときに、他人がコンピューターを占拠して利用できなかったり、勝手に自分のデータにアクセスされたりすれば困ります。技術的には実現可能になっていたグリッド・コンピューティングのターニング・ポイントは「セキュリティー技術」でした。他人のコンピューター利用を制御できるセキュリティー技術が2002年頃までに確立したことで、ビジネス分野でもグリッド・コンピューティングを応用する動きが活発化したと言えます。日本でも、経済産業省が2003年に「ビジネス・グリッド・コンピューティング・プロジェクト」に着手しました。

千葉利宏さんの写真
インタビューアー:
経済ジャーナリスト 千葉利宏
——2002年といえば、インターネットのブロードバンドが本格普及した年でした。
濱田 ブロードバンドの普及も、グリッド・コンピューティングが注目されるきっかけになりました。電子商取引が拡大して、企業が新商品を発売した時などには、ウェブサイトへのアクセスが殺到する事態が想定されました。この時にサーバーがパンクして注文を受けられなければ企業としては痛手ですが、ピークに合わせると普段はサーバーの能力が大幅に余ってしまいます。企業ではサーバー能力を30%程度しか使用していないといわれていますが、企業などの垣根を越えて必要な時に必要なだけのコンピューターが利用できるようになれば大幅な効率化が期待できます。グリッド・コンピューティングはそんな可能性を秘めています。

——実現すれば画期的ですね。
濱田 これまでのITは、新しい画期的な技術を開発することばかりに目が向けられてきましたが、インターネットの普及で既存の技術を組み合わせて問題解決を図るグリッド・コンピューティングのようなアプローチが増えてきています。すでにプロトコル(通信手順)・レベルでは既存技術の組み合わせが可能になりましたが、アプリケーション・レベルでは十分ではありません。SOA(サービス指向アーキテクチャー)などのアプローチで書き直すことが必要になります。

——2002年以降、グリッド・コンピューティングの普及はいかがですか?
濱田 OGFで標準化を目指したのは主にサーバーをつないで処理する「サーバー・グリッド」の技術で、IBMでも2003年頃からサーバーなどの製品に搭載して提供しています。日本では当初、製造業での導入が活発でしたが、その後医薬・バイオ系に広がり、ここ1年ぐらいは金融系がリスク分散やポートフォリオ計算などでグリッド・コンピューティングを積極的に導入しています。一方、パソコンを接続して分散処理する「PCグリッド」も、山之内製薬株式会社(現・アステラス製薬株式会社)や中部電力株式会社などの導入事例(注1、注2、注3)があります。2004年11月には、IBMの社会貢献活動として世界中のボランティアPCをつないだ「ワールド・コミュニティー・グリッド(WCG)」の活動をスタートしました。

注1:プレスリリース「日本IBMのグリッド・コンピューティングを山之内製薬が導入」
注2:お客様事例 山之内製薬株式会社
注3:プレスリリース「パソコンを活用したグリッド・コンピューティング・システムの構築により解析処理アプリケーションの高速化を実現」

——グリッド・コンピューティングは今後、どう発展していくのでしょうか?
濱田 グリッド・コンピューティングの環境が進化していけば、将来はネットワークに接続するためのデバイスだけで、 CPU(中央演算処理装置)も、アプリケーションも、記憶装置も本人が持つ必要がなく、すべて仮想空間で処理できる時代が来ることになると考えられます。

——グリッド・コンピューティングを、社会貢献活動として取り組むことにしたのはなぜですか?
藤井 IBMでは創業時から「良き企業市民」として社会貢献活動に取り組んできましたが、現在は資金を提供するのではなく、IBMが持つ技術やノウハウ、スキルを活用し、社会に価値のある貢献活動に力を注いでいます。IBMが培ってきたグリッドの技術を活用することによって、「イノベーション」を具現化する社会貢献活動としてワールド・コミュニティー・グリッドを開発しました。

濱田さんの写真
テクノロジー・イノベーション
担当 濱田正彦
——パソコンを提供することに対する人々の意識はどうですか?
藤井 IBMとしてはワールドワイドで積極的にキャンペーンやプロモーション活動を展開していますが、やはりセキュリティーへの不安の声もあります。ただ、ワールド・コミュニティー・グリッドの場合、システムの運用・保守は全てIBMの製品、サービス、データーセンターによって運営されているので、セキュリティーに対する心配はありません。
どちらかというと、手軽に参加できるボランティア活動であること、世界や人類が抱える課題の解決に貢献できることを知っていただきたいと考えています。

——現在、ボランティアPCはどれぐらいありますか?
藤井 現在、参加者数は約34万人、PC台数は81万台です。2004年11月からの累計のランタイムは12万5000年分に達しています。

——日本から研究テーマとして採用されたものはありますか?
藤井 はい。2009年3月、千葉県がんセンター、千葉大学と共同で、小児がんの新しい治療薬の開発を目的とした「ファイト!小児がんプロジェクト」(【プレスリリース】IBMワールド・コミュニティー・グリッドが小児がんの治療薬開発に取り組む)を開始しました。これはアジア太平洋地域初のプロジェクトで、実験シミュレーションにかかる年月を大幅に短縮し、2年で完了する予定です。
WCGでは、公共の利益に供する研究テーマを世界中の研究者から提案をいただき、専門家による諮問委員会で選んでいます。諮問委員会には、日本から独立行政法人産業技術総合研究所グリッド研究センターの関口智嗣センター長に参加していただいています。研究テーマは以下の4分野で、年間5~6テーマを選定し、研究プロジェクトとして解析しています。

  1. ヒトたんぱく質の解析などゲノムと疾病の研究
  2. がん、エイズ、デング熱などの新しい病気、または、既存の病気の研究
  3. 自然災害、飢饉などの研究
  4. 気候モデリングなどの環境に関連する研究

現在、医療分野を中心に諮問委員会に提案するプロジェクトの準備を進めているところです。

——今後のWCGへの取り組みは?
藤井 WCGは1台でも多くの登録をいただくことが活動を加速させる鍵になります。チームとして一体感をもち、手軽に社会貢献活動に参加できることから、学校や企業、非営利の団体にご紹介し、賛同していただく輪を広げていきたいと考えています。最近では、WCGをご紹介すると知っている方も多く手応えを感じています。WCGに参加することの意義をよりわかりやすく、たくさんの方々に知っていただく活動を進めていきたいと思っています。

【日本の専門家に聞く 編集後記】
グリッド・コンピューティングといえば、スーパーコンピューターに匹敵する能力で科学技術計算を行う技術というイメージが強く、そこにフォーカスがあたることが多いですが、必要なノウハウはそれだけではないということがわかりました。インターネットに接続されたコンピューターの使いきれていない能力を、どうしたら有効活用できるのか?財産所有権の考え方に一石を投じる社会学的なテーマとしても、議論していく必要がありそうです。
(経済ジャーナリスト 千葉利宏)

プロフィール=1958年生まれ、札幌市出身。日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)入社、IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産分野を取材。2001年からフリーランスとして活動中。

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    濱田 正彦

    日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
    テクノロジー・イノベーション担当 (2007年11月現在)


1987年日本IBM入社。本社SE技術サポート部門にて13年間ミッドレンジ・サーバー(IBM S/38®、IBM AS/400®、IBM eServer™ iSeries®など)製品のサポートに従事し、2000年よりIBM ITSOロチェスターにてミッドレンジ・サーバーの全世界技術支援を実施。Redbook等技術解説書の開発に従事。帰任後はグリッド/仮想化など先進技術を中心とした新規ビジネス発掘に従事し現在にいたる。

担当サービス:

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    藤井 恵子

    日本アイ・ビー・エム株式会社 社会貢献
    (2007年11月現在)


日本IBM入社後、営業部門、長野オリンピック・プロジェクト、Linux事業推進、IBMユーザー研究会事務局など、主に営業支援に従事。2006年7月より社会貢献にて幼児教育分野、科学技術分野への活動推進とともにワールド・コミュニティー・グリッドを担当。IBMの持つ技術とノウハウを活用し、日本社会をより豊かにするため、非営利団体とのパートナーシップをもとに活動を展開している。

担当サービス:

IBM, IBM(ロゴ), AS/400, eServer, iSeries, S/38は、International Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標。
Linuxは、Linus Torvaldsの米国およびその他の国における商標。
Adobeは、Adobe Systems Incorporatedの米国およびその他の国における登録商標または商標。
他の会社名、製品名およびサービス名等はそれぞれ各社の商標。

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