恋するロボット
白河 一郎
- 次世代ロボットへ
2005年に開催された愛知万博は、ロボット万博とも呼ばれ、73種類(100体)におよぶロボットに出会うことができた。会場内では展示やショーだけではなく「接客、警備、掃除、ごみ搬送、車椅子ロボット」など、実用的で役に立つ9種類のロボットが働いていた。日本では1960年代から数多くの産業用ロボットが開発されてきた。主な用途は組み立て・検査や土木作業、製造ライン制御など、単純な繰り返しの仕事や、危険な作業などのために使われていた。日本は産業用ロボットでは圧倒的な国際競争力を持っている。愛知万博では産業用ロボットに混じり、2020年を目指して実用化が期待できる次世代ロボットのプロトタイプが次々と登場した。生活・医療・福祉などを中心に人間とのかかわりを目的とし、人間を手助けしていく生活用ロボットが多く見られた。
ロボットの歴史を振り返ってみよう。ロシア革命(1917年)からほど近い1920年、カレル・チャペック(Karel Capek 1890~1938 チェコ)は、労働や苦役(ROBOTA)と労働者(ROBOTONIC)から、ROBOTという語を作り、戯曲「ロボット」に登場させた。人間の代わりに労働をさせるために作られたロボットがやがて戦争の道具として使われ、ついには団結して人間に対して反乱を起こすという話だった。これは将来の機械文明に対する否定的な見方が強く表れたものといえる。劇の中で早くも「ロボットと人間の関係」や「知能を持つロボットの苦悩」が描かれていた。
ロシア生まれのSF作家アイザック・アシモフは、1940年に発表した小説「I,Robot」の中で、ロボットの守らなければならない法、すべてのロボットの陽電子頭脳に組み込まれた、判断・動作の大前提になる基本理念として「ロボット工学三原則」を紹介している。
【第一条】ロボットは人間に危害を加えてはならない。また何も手を下さずに人間が危害を受けるのを見逃してはならない。【第二条】ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。【第三条】ロボットは自らの存在を守らなくてはならない。ただしそれは第一条、第二条に違反しない場合に限る。
これらの三原則は、その後のロボット小説に大きな影響を与え、感情を持つロボットが、良心と人間とのかかわりにおいてジレンマを感じ、苦悩するストーリー展開が多くなっている。 - 恋愛するロボット
従来のロボットは人間の肉体的構造を模倣する、主に機械工学の延長として研究・開発されてきた。これに対し人間の心理的な動きをロボットで再現することによる、認知科学の観点からのアプローチもある。感情や心の動きは脳の作用といわれているが、最新の脳科学でもそのメカニズムは解明されていない。人間の究極の心の動きとは「相手を好きになる、恋愛する」ことであろう。これは人間にとって最も重要な能力の一つでもある。自分にとって最もふさわしい相手を探して愛し、やがて自分の遺伝子を後世に伝え人類を繁栄させる。「自分の愛する相手に自分を好きになってもらうには」、人間は思春期から老年期までこのために多くのエネルギーを費やしている。映画やドラマ、小説や音楽、ファッションや化粧品、そしてエステなど数多くの産業は、いかに異性の気持ちを引き付けるか、すなわち恋愛をテーマに成り立っていると言っても過言ではない。ではロボットも恋愛するのだろうか。
横山光輝が1956年から雑誌『少年』に連載した「鉄人28号」は、感情を持たず自分で判断のできない、命令する人間の理性に依存する操縦型ロボットとして描かれた。これに対し手塚治虫が1951年から同誌に発表した「鉄腕アトム」は、知性や感情を持った自律型ロボットである。実際にアトムは物語の中で少女に恋し、人間以上に悩み苦しむ様子を見せている。
ロボットが最も人間らしい感情である恋愛をするようになるには、どうすればいいのだろうか。人間の感情に最も近い論理回路を設計し、人間の感情や思考パターンを学習し続けていった結果、突然変異的に恋愛感情が身につく方法。人工知能の研究を進め、人間の感情の動きを極限まで蓄積した知識ベースをロボットに搭載するなどが考えられる。実用化が進みつつある生活用ロボット(介護、看護、チャイルドケアなど)は、人間の気持ちを癒し楽しませる目的で設計された。主人が何をしてほしいかを察知し、次の行動に移るパターンが多い。もし彼らロボットが学習の結果、さらに知性を高め、自律的に人間の心の中にまで踏み込む領域を拡大させることができれば。彼らが人間の気持ちをかなりの精度で理解するようになれば、ロボットが自分の意思で恋愛する日が訪れるかもしれない。
[参考文献]
丑田俊二 「恋するロボット」『i-Net』14号、数研出版
