日本アイ・ビー・エム株式会社
代表取締役会長
北城 恪太郎
- 経営の健全性は企業に不可欠の要素
日本版企業改革法や内部統制について、さまざまな企業の経営者にお話を伺いますと、非常に高い関心を持っていらっしゃることに気付きます。社団法人 経済同友会が行った調査でも、企業不祥事の予防のために社内体制の構築や見直しに取り組んでいる企業が61%に上り、3年前と比べて倍増しています※。いまや健全な企業風土をつくり、内部統制の仕組みを構築するのは経営者自らの責任であるというように、意識が大きく変わってきました。
最初に考えなければならないのは、内部統制を健全に構築することは、企業改革法が作られるから必要だというよりも、企業の経営者として本来取り組むべき仕事ではないかということです。
経営の健全性を確保することは、企業の持続的発展に不可欠の要素です。社会の一員として当然であるし、何か問題が起きた際の影響も、以前とは比較にならないくらい大きくなっています。売り上げが減少するだけではなく、場合によっては企業の存在そのものが否定されかねません。そこで、健全な内部統制や管理の仕組みが構築されているかどうか、もう一度きちんと確認し、経営者自身の責任も明確に規定しようという動きが米国で出てきており、今後日本でも広がっていくことは確実です。
最近よく聞かれるCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)という考え方にも、コンプライアンスや健全な内部統制の確立ということが含まれています。これまでは、具体的に何をどうするのかというところがはっきりしていませんでしたが、企業改革法を契機に、企業内の仕組みづくりが大きく進展すると思われます。 - 内部統制の確立は時代の要求
内部統制の必要性は、大きな時代の流れの中で考えると、さらによく分かります。
従来の日本の企業のやり方は、厳密に仕事のルールを決めることなく、社内の人を信用してある程度自由に任せるといったスタイルがほとんどでした。しかし、こういった属人的なやり方は、企業活動がグローバル化し、文化や社会背景の異なる海外でもやっていくためには大きく変えざるを得ません。また、国内でも雇用の流動性が高まっているため、仕事のやり方をはっきりと規定し、ルールを明文化していく必要があります。
一方で、政府の規制緩和が進み、いろいろな統制が撤廃されるのに伴って、不正が起きないように自らを律する仕組みづくりが求められています。
これら多くの要因が複合化・顕在化したと考えると、企業改革法が導入される時代背景や必然性が理解できるのではないでしょうか。 - 業務の効率化につなげて考える
お客様や株主をはじめとした多様なステークホルダーが、企業に内部統制の確立を求めているのであれば、わたしたちはそれに前向きに応えていかなければなりません。むしろ、文書化や監査などをはじめとした膨大な作業も、企業が継続して発展していくために必要な投資であると前向きに考えることができます。
例えば、社内の業務プロセスを明確に規定する作業を行う過程で、従来の仕事の進め方の問題点がはっきりしてきます。これは業務の標準化や効率化につながるとともに、プロセスと一体となっているシステムの効率化や統一化にもつながっていきます。連結決算の問題でも、海外拠点も含めたグループ全体で、まず連結する決算をベースにしたシステムをつくり、そのデータを基にして各拠点が現地の事情に応じた決算を行う仕組みを確立する契機ととらえることもできます。
また、日本の企業では「プロセスオーナー」という考え方がほとんどありませんでした。購買部門でしたら、本社だけではなく企業グループ全体の購買を統括して内部統制を図る。そういうプロセスオーナーの存在が注目されるようになるでしょう。プロセスオーナーによって、本社の購買部門で問題が発生したら世界中の拠点の購買部門に一斉に指示を出し、同様の問題が起きないよう未然に防ぐことも可能になります。これはガバナンスの確立にも有効です。 - 自社の長年の経験を踏まえたお手伝い
わたしたちIBMでは、健全な経営を目指すとともに、グローバルな経営管理ができる仕組みづくりを目標に、米国で企業改革法が導入される以前から厳格な内部統制の確立を図ってきました。いわゆる企業改革法(以下、SOX法)が施行された際には、従来から行ってきた独自の方法をSOX法に合わせて調整する作業で済んだほどです。
IBMは世界中で実際に事業を展開する中で健全な内部統制を行ってきた歴史があり、しかも毎年のように改良を加えています。たとえ不正がなかったとしても、不正が生じる可能性がある仕組みが存在したというだけで監査ではっきりと指摘され、管理責任が問われるのです。
このように、内部統制について、IBMでは事業会社としての長年の経験に基づいてご紹介することができます。これも、日本の企業社会に対する貢献の一つではないかと考え、いろいろお手伝いさせていただいております。
※出典:社団法人 経済同友会「企業の社会的責任(CSR)に関する経営者意識調査」2006年3月7日
