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コンピテンシーの道程

「PROVISION Winter 2007 No.52」 特集 インフォメーション・オンデマンド のご紹介

職人の技 シリーズ(17) 〈ベアリング研削職人〉


NSKマイクロプレシジョン(株)
川名 伸二 さん

[プロフィール]
かわな  しんじ
1967年、神奈川県横浜市出身。工業高校機械科を卒業後NSKマイクロプレシジョンに入社。以来189cmの長身で、ベアリングの性能を決定する微細な溝研削一筋に励む。
世界最小ベアリングを実現した技術が評価され、平成17年「現代の名工」、翌18年には黄綬褒章を受ける。子供とのサッカーが一番の楽しみという、穏和な職人。


世界最小の、もっと先の最小に挑戦したくて、ウズウズします。

  普段ほとんど意識することはないが、身の回りにあふれているもの。ベアリングは、その代表だろう。PCのハードディスク読み取りアームや冷却ファンなど、身近な機械の中にひっそりと潜む重要部品。世界最先端のベアリングを生み出す職人は、驚くべき「人間センサー」だった。

「子供の頃、近所のゴミ置き場から壊れた電気製品を持ってきては分解していたんです。しかし、ベアリングだけは分解できなくてね。これ、どうなっているんだろう? という疑問が、今の人生にまでつながってしまいました」と笑いながら、川名さんはベアリングの構造を説明してくれた。
「現在主流となっているボールベアリングは、外輪と内輪、2つのリングにボールが挟まれ、そこにボールの位置を保つ保持器とグリース(潤滑油)が入っている、という単純な構造です」
  わずか4つの部品からなるベアリングだが、しかし、その精度はナノのレベルに達しつつある。その突破口を開いたのが、川名さんだ。従来、外輪の外径が2.5mmほどあった世界最小ベアリングを、一気に外径2.0mmにまで小型化した。というと「全然ナノじゃない」と思うだろうが、ここに入るボールは直径0.3mm。この極小ボールがわずかな揺れも一切の引っかかりもなく転がるよう、内輪の外側の溝を磨くのが、川名さんの役割だ。許される粗さは、平均0.025ミクロン以下。
「技術的には、0.008くらいまで出せます」
  つまり8ナノだ。限りなく真円に近い形状と、ほとんどゼロに等しい粗さを実現する技術こそ、シンプルな構造のベアリングの生命線である。
  磨くのは特殊な砥石を装着した機械だが、その機械がきちんと機能しているかどうかをチェックするのは人間だ。なんと肉眼で目視し、細い真鍮の針で触れることで、川名さんは微妙なズレや粗さを「感じる」のだと言う。
「研磨機には内輪を磁石でセットして、2本の支持棒でそっと支え、そして回転させます。固定させないから、うまく中心を合わせないと、回転させた途端に内輪が吹き飛んでしまいます。なぜ固定しないか? そうすると、機械の回転軸の精度にすべての精度が左右されてしまいますから。こうして遊びを持たせるセンターレス方式だと、作業者のやり方次第で、かなりの精度が出せるんですよ。中心の微妙なズレは、針で触れながら調節します。そして溝の上に幅0.4mmの砥石をセットするのも目視です。正確に真上に落ちるようにセットしないと、内輪が飛んだり砥石が折れたりするんです」
  川名さんは淡々と説明するが、米粒よりも小さなベアリングの、その内側に彫られた溝など見えるものではない。しかし彼には、確実に感知できている。職人の持つセンサーには、感嘆するしかない。
「私も若い頃はね、先輩に『ほら、この振動、わかるだろ?』と針を持たされても、何が振動なのかさっぱりわかりませんでした。大きなベアリングを削れるようになるまでに、最低で5年。その先は無期限だと思いますよ。私もまだまだだと感じていますもの」
  川名さんの上司によれば「彼の技術をいかに標準化するかが会社の課題」だそうだ。名工のワザが機械に置き換わると、次世代の技術者はそこを出発点に、さらに技術を磨く。
「今私のやっていることは、10年後には普通になっているかもしれません。そしたら私は、もっと小さなベアリングを作りたい。外径1.5mmくらいはできると思うし、幅の薄さにも挑戦したいですね」
  ベアリングの極小化はPC等の小型化につながり、さらには新たな医療器具の開発など、多くの期待が寄せられている。人と機械が呼応しながら、モノづくりは進化をしていく。夢を持つ職人がいる限り、技術の進歩に終点はなさそうだ。