第40回 ビジネス・プロセス・マネジメントの匠
中島 千穂子(なかじま ちほこ)
日本アイ・ビー・エム
システムズ・エンジニアリング株式会社
ビジネス・インフラストラクチャー・ソリューション
ビジネス・インテグレーション
担当、ICP コンサルティングITS
[プロフィール]
1987年、日本IBM入社。研修部門(現・IHCS)で社内向け研修を担当後、製造セクターにて電機系のお客様担当SEとなる。 1995年に日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリングに異動、現在はさまざまなプロジェクトを通してBPMの普及を推進するとともに、RationalとWPIを連携させたビジネス駆動開発によるシステム開発の実践を目指して活動している。
大胆に、そして繊細に
あるときは激しく、あるときは優雅に。「コンパス」と呼ばれる独特のリズムを足で刻みながら、華麗に、セクシーに。それがフラメンコだ。
フラメンコの衣装をまとってステージに立つときの快感は、何にも代え難いと中島は語る。
彼女が、フラメンコを初めて実際に見たのは大学時代。
フランス文学を専攻し、サークル活動やアルバイトにも精を出すという学生生活を送っていたある日、友人にフラメンコ公演の鑑賞に誘われた。特に興味があったわけではないが、「新しい場所」や「新しいこと」に目がない彼女は、持ち前の好奇心を発揮して付き合うことにした。
そして会場では、幕が開くと同時にフラメンコに魅了された。踊りと音楽に目も耳も吸い込まれ、幕が下りるまで心臓は高鳴り続けた。世界的な舞踏家であるアントニオ・ガデスの公演ということもあったのだろうが、その魅力は想像をはるかに超えていた。
「フラメンコを習いたい」
そんな思いにかられたが、当時は今と違い、どこにもフラメンコ教室があるというわけではなかった。残念ながら生活圏内には見つからず、何となく機会を失ったままになっていた。
それから15年近くたった、ある日。
仕事帰りにたまたま出会った友人が、フラメンコのレッスンを体験してきたところだった。話を聞いて、中島の心にあのときのパルマ(手拍子)がよみがえった。さっそく体験レッスンを受け、今でも毎週のようにレッスンを続けている。
現在、中島は、日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社(以下、ISE)で、お客様のBPM(Business Process Management)を支援するチームを率いている。
BPMとは、企業のビジネス・プロセスを可視化した上で、継続的に改善していく取り組みのことである。ビジネスのスピードがますます上がり、思いもよらない出来事が次々と起こる中で、企業は事業を継続していかねばならない。そのため自社のビジネス・プロセスを常にモニタリングし、お客様の声や市場の動向、さらには自社やパートナーの動きを即座に感知して対応する「センス&レスポンド」が求められる。このようにビジネス・プロセスの可視化、実行、モニタリングと改善というビジネス・プロセスの最適化の考え方とその仕組みを提供するのがBPMなのである。
「IBMは、SOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャー)のライフサイクル全般をサポートするWPI(WebSphere® Process Integration)と呼ばれる製品群を提供していますが、わたしはこのWPIとRational® を担当しています。そしてわたしたちのチームでは、お客様のビジネス・プロセスを分析して、お客様にとって最適なBPMをご提案した上で、これらの製品群でシステムを実装し、お客様のBPMをお手伝いしています」
そんな中島が、今、最も注目しているのがBDD(Business Driven Development:ビジネス駆動型開発)の領域だ。
「ビジネスとIT(情報技術)との関係について『ITの制約や限界がビジネス改革を阻害している』という言われ方をすることがあります。ビジネス・ニーズを満足するためのITの提供が、わたしたちの使命ですから、そう言われてしまうのはとても残念です。しかし逆に言えば、ITシステムがビジネスに対してそれだけインパクトを持っているということになります。
BDDは、ビジネス上の要求に対して、ストレートに応えていくためのソフトウェア開発の在り方であり、わたしたちの部門は、お客様のビジネス要求にフォーカスし、それに適したプロセスやツールを組み合わせて、ソリューションとしてご提案するだけのスキルやノウハウを持っています。このリソースを生かし、スタッフ全員で一丸となって、日本を代表するようなBDDプロジェクトに取り組みたいと思っています」
ITの専門家として活躍を続ける中島であるが、実は、就職先に日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)を選んだのは、女性が長く働けそうな会社だったからで、ITにはほとんど関心がなかったという。
そんな彼女が最初に配属されたのは、研修部門(現・日本アイ・ビー・エム人財ソリューション株式会社)であった。新人ながら講師として教壇に立ち、IBMの製品・サービスを社員にレクチャーするという仕事だ。もちろん講師として専門トレーニングも受けるし、自主的に勉強もするが、受講者は先輩社員であり、何かと厳しい目にもさらされる。新人にはなかなかつらい仕事であった。
「研修を3年間担当しましたが、現場に出たいという思いもあり、当時の営業所(お客様担当部門)への異動を希望しました。
今から思うと、同期の社員が既に現場で活躍しているのを見て、少しはあせりがあったのかもしれません。ただ研修部門で3年間にわたって身に付けたスキルやノウハウは、思いのほか現場でも役立ちました。例えば、お客様への提案に欠かせないプレゼンテーションのスキルについては、研修部門で徹底的にたたき込まれましたし、社内のさまざまな部門と協業することが多く、困ったことがあってもその経験を生かして他部門に相談することができました。
そして何よりも、新人ながら講師を務めてきたことで、困難な局面で臨機応変に対応できるようになったと思っています。これは大きかったですね」と、中島は笑う。
さまざまな要素が複雑に絡み合っているという点で、フラメンコとBPMのプロジェクトはよく似ている。彼女にとってはどちらも難しく、だからこそやりがいもあるのだろう。
そしてフラメンコの発表会では、必ずといってもいいほど、練習では考えられなかったようなことが起こる。簡単なところで思わぬミスが出たり、アクシデントが起こったりする。そんな経験を重ねていくことで、発表会では何が起きても動じなくなった。
「そのせいか、最近ではプロジェクトで何が起きても、慌てたり動じるということはありません。特にスタッフにフラメンコを勧めているわけではありませんが(笑)、自信を持ってプロジェクトに臨むにはいい訓練になると思っています。実は、日本IBMの中にも意外に愛好者がいて、ISEには少なくとも4人はいます。社内イベントなどで群舞を披露できれば楽しいですね」
そして秋には、中島にとって5回目となるフラメンコの発表会がある。
とても楽しみにしているし、モチベーションも高い。最高の発表となるように、できれば平日夜の練習会はできるだけ参加したい。トラブルでもない限り仕事を定時で切り上げるつもりで、スタッフで共有しているグループウェアのカレンダーには、密かに練習日に印を付けてある。
その印の意味をスタッフにいつ伝えようか、今ちょっと悩んでいる。「情熱」や「度胸」だけではなく、そんな「繊細さ」も彼女の魅力の一つなのであろう。
