掲載日 2004年7月2日
2003年10月1日より分社・持株会社制に移行した旭化成株式会社は、ケミカル系の旧4カンパニー(機能樹脂・コンパウンド、化成品・樹脂、機能化学品、機能製品)を、新たに旭化成ケミカルズ株式会社としてスタートさせました。全社的な統合業務パッケージの導入に参画した日本IBMは、旭化成ケミカルズ株式会社化薬事業部(以下、旭化成ケミカルズ化薬事業部)のコンサルタントとして共同作業を行なっています。今回は、こうした旭化成ケミカルズの新規事業創出のための取り組みについてご紹介します。
お客様ニーズ

旭化成ケミカルズ
株式会社
化薬事業部
化薬企画グループ
部長
矢田 滋貴 氏
新規市場開拓への課題
事業基盤である市場はいずれは成熟化するものです。企業や事業部が再生、発展していくためには、常に新しいマーケットを切り開く必要があります。旭化成ケミカルズ化薬事業部をめぐる事業環境は、決して特殊なものではなく、日本のさまざまな業種の企業も、同じような経営環境に置かれています。事業を維持、拡大していくためには、市場競争力のある製品の提供が必要ですが、技術開発からの製品化、事業化は旭化成グループのみならず、日本の多くの企業が苦労しているところです。しかも、新製品の開発には数年かかり、開発した新製品が市場で売れるとも限らないのです。
同事業部では、事業規模を安定的に継続し、なおかつ新規市場を開拓する製品開発を継続的に行なう方法はないか、模索し始めました。「数年後に確実に厳しくなる市場環境を予測し、継続的な新製品の開発と、これを生み出すビジネスモデルを両輪として、新規事業開発プロセスの策定を行なうことにしました」と旭化成ケミカルズ化薬事業部の矢田滋貴氏は言います。「新規事業開発」、「ナレッジ・マネジメント(KM)」、「R&D(Research&Development)改革」の3つは、事業の維持・拡大のためのワンセットの仕組みになるものと考えられました。
化薬事業部の事業環境をめぐる悩みは、「事業成長デザインが見えない」(矢田氏)ことでした。同事業部のSBU(Strategic Business Unit:戦略的事業単位)は、ダイナマイトなどに代表される産業用火薬類、防衛庁向けの大砲の弾やミサイルのロケットモーターといった防衛用の火薬、火薬の爆発エネルギーによる異種金属接合(鉄とチタンの金属加工事業)の3つの火薬事業から成ります。

図:新規事業
創出プロセス
(クリックで拡大)
このほかに非火薬事業があります。同事業部の事業の中心は火薬ですが、非火薬の環境資財事業やファスニング事業(後述)も行なっています。火薬事業は現在縮減しつつあり、将来、市場が消失するかもしれないという環境にあります。同事業部ではそれに代わる事業として、非火薬事業へシフトする戦略を打ち立てました。しかし、まだ全体の収益を支えるまでには至っていない状況です。
ソリューション
ビジネスモデル改革
旭化成ケミカルズ化薬事業部がIBMと共に改革を進めたのは、産業火薬、金属加工火薬、防衛火薬、環境資材に続く第5の柱として期待されている、ファスニング事業におけるビジネス・モデルの変革です。ファスニングとは、建設市場で使われるボルト固着用の樹脂カプセル・アンカーといわれるものです。元より旭化成株式会社自体がケミカル会社であったため、この事業では最後発でしたが、10年前に市場に参入して以来躍進を続け、現在この分野ではナンバー・ワンになっています。
「ただし、売り上げは20億円程度のものです。ビジネス・ユニットとしては最低50億円、長期的には100億円にしたい。新製品を開発する、あるいは販売量を大きくするためには、ビジネス・モデルを変えるしかないなと考えていた時、日本IBMと出会ったのです」(矢田氏)
新規事業開発
化薬事業部の既存ビジネスは市場が縮小傾向にあるため、5年後、10年後には収益規模が相当小さくなることがすでに見えている、と矢田氏は言います。これに対し、非火薬事業はまだ十分に成長していません。この事業を興す——いわゆる第二創業をするには、組織的に創業を推進する形に持っていかなければいけません。同事業部は、新規事業開発にあたり、過去の成功体験を捨てるという選択をしました。
ナレッジ・マネジメント(KM)
同事業部では、新規事業創出のプロセスとして、KMの体系化を実施し、運用施策を打ち出しました。体系化にあたっては、同事業部が行なっているビジネスの技術資産コンテンツとKnow-Whoを、同じ技術ツリーでひも付けしました。
また、業務に関して属人的要素が非常に強く、人にひも付いたノウハウもたくさん存在し、その人がその仕事、職場から離れると、もうそのナレッジが活用されないという状況だったそうです。それを解決するため、技術ツリーとコンテンツ・リスト、Know-Whoリスト、これらをそれぞれ技術番号、要素番号、要素技術による番号、アクセス担当窓口にひも付けしてレイヤーとし、1つの技術マップを作り上げたのです。
矢田氏は、ナレッジの体系化についてこう説明します。
「体系化の試行をやってみて、技術資産、マーケティング、これらはすべての事業活動にとって必須であることが分かりました。いかにリアル・タイムでデータを活用できるかがポイントです。現在は、技術資産とマーケティングに関するデータベースを作っています。技術担当、技術開発の部分は、文章でまとめてあったもの、文章になっていないものとたくさんありました。これらを単にまとめるだけではなく、『だれが知っているのか』、『だれに聞けばいいのか』、要するに『この技術はだれが一番知っているのか』をKnow-Whoリストでひも付け、社内外で活用しつつあります」
KM運用施策としては、電子会議室の立ち上げが挙げられます。同事業部は工場・事務所が全国にあり、地理的に離れています。本拠地の延岡(宮崎県)で会議をするには、東京などからは1日がかりの出張になるといいます。こうしたロスを防ぐため、電子会議室を幾つも立ち上げ、出張に行くことなくディスカッションができるようにしました。
R&D改革
R&D改革の目的は、次の3点に集約されています。
・R&D業務改革とインフラ整備により、新技術・新商品・新事業を創出する仕組みづくりを行なう
・人材育成、次世代を担う幹部(戦略プロフェッショナル)を養成する
・学習する組織、市場ニーズを収集し、分析し、それを商品開発へ適用する
将来的には、高収益・独立事業への基盤構築を目指しています。
導入効果

図:ファスニングで
作った電子商取引サイト。
改良を重ね、現在は
「chemical-setter.com」
になっている
(クリックで拡大)
ビジネスモデル改革
旭化成ケミカルズ化薬事業部は2005年のファスニング需要を40億円程度と考えています。そして、この規模なら従来モデルで対応が可能とも見込んでいます。一方で、2010年というロングレンジで考えると、全体でも60億円市場にしかならないと予測しています。
「われわれがいくら頑張っても、目標が100億円ですから、40~50億円のギャップがあります。この50億円のギャップを埋めるために、新規ビジネスモデルの策定を行なったのです」(矢田氏)
同事業部では、2002~06年までの中期計画を再作成し、実行計画、売上、利益、コスト、投資、EVA、新規設立予定の販売会社の体制、人員計画、さらにはビジネスを行なう上での実施要件など、必要な事業計画を詳細化しました。そして、それが実現可能か検証しました。課題点を抽出し、解決策を検討したのです。さらに今回、電子商取引システムも同時に立ち上げ、そのシステム構想を策定しました。施工をする企業をグループ化し、これらを電子商取引システムでつなぐ構想です。
「効果は2点挙げられます。第1は、こうして取りまとめたビジネス・モデルを単年度、あるいは中期計画に入れて、実行計画に反映させていることです。第2はこの電子商取引システムを一応完成させて、本格運用を開始していることです。従来は代理店から市場やお客様のニーズを収集していましたが、この電子商取引システムがインフラとしてネットにつながることで、お客様のニーズが直接分かるようになりました。また、従来は営業が持参していたカタログや設計計算書なども、この電子商取引システムでダウンロードできる形になり、営業のパワー不足を補うことができるようになっています」(矢田氏)
KMシステムの運用開始
一方、KMシステムも完成し、運用が開始されています。その結果、コミュニケーション能力が確実に向上した、といいます。
将来の展望
課題は品質の向上、社外の連携
旭化成ケミカルズ化薬事業部が今回行なった新規事業創出とR&Dの改革は、「明日、事業がなくなるかもしれないという恐怖心から始まった」と当時を振り返る矢田氏は、「まだ緒に就いたばかりですから、これをしつこく、とにかくやるしかない」と語ります。
また、活用の段階に入ったKMシステムについては、品質の向上、社外の連携が今後の課題だそうです。まだ事業部内のクローズド・システムであるため、これから社外とどのように連携を取っていくのかが課題になる、としています。
お客様の声
改革の構想力とスケジュール管理の重要性
「日本IBMとの出会いを通して、見方が一変したかなと思います。われわれ以上に逃げずに、テーマについて正面からぶつかっていきます。全体の構想力やスケジュール管理が大変素晴らしいと感動しました」(矢田氏)
お客様情報
事業内容: 有機・無機工業薬品、合成樹脂、合成ゴム、高度化成肥料、塗料原料、ラテックス類、医療・食品用添加剤、火薬類、感光性樹脂・製版システム、分離膜・交換膜等を用いたシステム・装置などの製造、加工及び販売
事業内容: 旭化成グループ全体の戦略立案、経営執行の監督、資源の最適配分、コーポレートR&Dに機能を特化
用語の説明
- SBU
Stratagic Business Unit:戦略的事業単位
本事例中に記載の肩書や数値、固有名詞等は初掲載当時のものであり、閲覧される時点では、変更されている可能性があることをご了承ください。
事例は特定のお客様での事例であり、すべてのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
事例は特定のお客様での事例であり、全てのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
IBM、IBMロゴはInternational Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標です。
他の会社名、製品名およびサービス名等はそれぞれ各社の商標。
