掲載日 2006年2月8日
三菱重工業株式会社 名古屋航空宇宙システム製作所(以下、三菱重工 名航)は、中部地区に大江、飛島、小牧南の3工場を擁し、1920年以降、日本における航空・宇宙産業のリーダーとして、最新鋭の航空機および宇宙機器の設計・開発・生産を続けてきました。2005年秋、同製作所では64ビット対応のプロフェッショナルワークステーション、IBM IntelliStation®の導入を決定しました。このプラットフォーム上に、航空機の設計から部品製作、組立にいたるまでの全工程にわたってシームレスに活用できる新世代の設計環境を構築し、アプリケーション群の整備と運用に向けた取り組みが始まっています。
お客様ニーズ

三菱重工業株式会社
名古屋航空宇宙
システム製作所
情報・技術管理部 次長
高比良 尚氏
航空機製作工程の川上から川下まで、
シームレスに活用できる汎用的な設計環境を実現
三菱重工 名航は、三つの工場を合わせ3,700名あまりの従業員が働く、国内トップクラスの航空機製造拠点であり、日本では最も古くから航空機設計にCADシステムを導入したことで知られています。これまでは、3次元のCAD/CAM/CAEシステムとしてCATIA V4を中心とする、UNIX®ワークステーションベースのシステムが設計環境の主流となっていました。それに対して新たな設計環境では、Microsoft® Windows®環境で動作する進化したCATIA V5が2005年9月に採用されました。航空機の設計環境でCATIA V5が全面的に導入されるのは、世界初の試みです。
「現在の民間航空機製作では、ボーイングやエアバスなどのトップメーカーであっても1社が単独ですべてを作り上げることはありません。世界各国のパートナー企業が主翼、胴体、尾翼などの設計・製造を分担しています。このような大規模なパートナーシップによる開発では、各社が緊密に連携して同時並行的に作業を進めることができるコンカレント・エンジニアリングが重要になっています。言い換えれば、世界中のパートナー企業が同一の開発環境のもと、各工程で発生する膨大なデータをリアルタイムに交換できることが不可欠です。そのようなパラダイム・シフトとも言うべき新たな環境の実現を目的として、CATIA V5の採用が決まりました」と、同社名古屋航空宇宙システム製作所 情報・技術管理部次長の高比良 尚氏は、CATIA V5導入の背景について説明してくれました。Windowsワークステーションで稼働するCATIA V5は、Microsoft Officeなどの一般的アプリケーションとの連携も容易に実現することが可能になっています。
ソリューション

三菱重工業株式会社
名古屋航空宇宙
システム製作所
情報・技術管理部
管理システム課 課長
渡辺 光浩氏
実測値をベースにした説得力ある仕様提案を受け、
ソフト・ハード両面の総合力を基準に機種選定
新たな開発環境のプラットフォームとなるハードウェアを選定する検討作業は2005年の7月から本格的に始まりました。当初は、IBMを含むハードウェアメーカー3社の製品が検討の対象となり、すぐにIBMともう1社のハードウェア専業メーカーの2社で比較検討する段階に進みました。「選定にあたって重視したのは、少なくとも今後5年程度、使用し続けることのできる高いレベルの性能を実現することでした」と語るのは、同社名古屋航空宇宙システム製作所 情報・技術管理部課長の渡辺 光浩氏です。新プラットフォームとなるWindowsワークステーションは、CATIA V5に限らず、デジタル・マニュファクチャリングを実現するDELMIA、同社内で開発されたさまざまな解析システムや製造システムなどの領域でも汎用的に活用していくことが計画されています。「多様な領域で求められる性能の最大公約数を求めるため、安易な妥協をせず、CPU、メモリ、グラフィックス処理のすべての面でバランスの取れたマシンが必要でした」と渡辺氏は言います。

三菱重工業株式会社名古屋航
空宇宙システム製作所
情報・技術管理部管理シス
テム課主席チーム統括
田中 誠一氏
機種選定の過程でIBMから提案されたハードウェア仕様には、過去の航空機設計で実際に使われていたCATIA V4のデータを用いて計測された、各種ベンチマークテストの実測値が示されていました。「提案自体に説得力があって、さすがはIBMと感じましたね」と高比良氏も、提案書を見たときの第一印象を思い出します。その後、ハードウェア仕様確定までのやりとりでも、CPU性能やグラフィックス処理のバランスを意識しながら、最適なパフォーマンスを実現するために、検討とテストが繰り返されました。「航空機は1機あたりの部品点数が10万点を越えるうえに、どの部品も3次元曲面で構成されているため、データ量が膨大です。図面を読み込むだけでも時間がかかるので、実測値に基づくIBMの提案は有益でした」と語るのは、同社名古屋航空宇宙システム製作所 情報・技術管理部主席チーム統括の田中 誠一氏です。性能に加えて、航空機業界におけるソフトウェアやシステム全体の経験および実績についても考慮した結果、2005年9月、IBMのIntelliStation導入が正式に決まりました。
導入効果

三菱重工業株式会社
名古屋航空宇宙
システム製作所
情報・技術管理部
管理システム課
栗田 高男氏
ボーイング社の次世代主力モデル
787ドリームライナーで新開発環境を活用
米国ボーイング社は、2008年の就航を予定している次世代航空機、787「ドリームライナー」プログラムの構造パートナー企業として、日本国内では日本航空機開発協会を窓口として三菱重工業、川崎重工業、富士重工業の3社と契約を締結しました。このプログラムにおいて、三菱重工 名航は、主翼の設計・製造を担当します。IntelliStationをプラットフォームとする新開発環境は、まず、787プログラムに活用されることになりました。情報セキュリティー確保のために、納入されたマシンは名航 情報・技術管理部 管理システム課で1台ずつセットアップされてから、開発・設計の現場に配置されます。各利用者の個人アカウントが、専用のライセンスサーバで集中的に管理され、どのワークステーション端末からも自分のライセンスが認証されれば、必要なアプリケーションソフトやデータなどを利用できるようになっています。これによって、さまざまな専門領域の技術者が、どの開発工程にあっても、同一の環境で作業を進めることが可能になります。マシンのセットアップや利用者へのサポートを担当する同社名古屋航空宇宙システム製作所 情報・技術管理部 管理システム課の栗田 高男氏は、「トラブルが起きたとき、その原因がハードウェアとソフトウェアのどちらにあるか切り分けるのが難しいこともあります。そんなときにIBMのサポート担当に電話すると、迅速に対応してもらえるので助かっています」と語ってくれました。
将来の展望
開発環境のパラダイム・シフトを乗り切る
長期展望の中で新プラットフォームの真価を発揮する
現在は、ボーイング787プログラムに向けたデータ管理システムの整備や新設計環境の教育を始めとするさまざまな準備作業が始まっています。「皆がIntelliStationの性能を実感できるようになるのは、部品製作・組立工程が本格的に動き始める2006年以降になるでしょう。CATIA V5を始めとするアプリケーション環境もさらに機能アップして、64ビットプロセッシングなど最新の技術にも対応していくはずです。その段階でこそ、新しく導入したワークステーションが真価を発揮するだろうと思います。それだけの長期展望のもとで機種選定を行っています」と高比良氏は言います。今後、Windowsベースのワークステーションの比率も増えていくことが予想されています。端末数や扱うデータ量の増大を見込んで、名古屋航空宇宙システム製作所全体のネットワーク環境を増強していくことも、すでに高比良氏の視野に入っています。新たな環境を実現する一方で、過去の環境を維持することも大切です。「現在もYS-11が現役で運行していることからもわかるように、航空機は長い稼働寿命を持つものです。システム構築や機器選定では、どうしても長期的な展望が不可欠になります。今回、IBMのIntelliStationを選んだ理由には、企業としてのIBMに対する信頼感も影響していましたね」と、高比良氏は笑顔で締めくくってくれました。
お客様情報
防衛庁向け航空機/ヘリコプターや、ロケットをはじめとする宇宙機器の開発事業、欧米の航空機会社が開発する旅客機の設計・製造事業を手がける。ボーイング社の最新鋭機「787」では民間機初となるカーボン複合材製主翼の製造を担当するなど、業界屈指の高度な技術力を有している。
用語の説明
- コンカレント・エンジニアリング
concurrent engineering(CE:同時進行技術活動)狭義には、製品開発において概念設計/詳細設計/生産設計/生産準備など、各種設計および生産計画などの工程を同時並行的に行うこと。設計部門内で複数の設計者が共同作業を効率的に進めることを指す場合もある。広義にはこれを拡張して、企画・開発から販売・廃棄にいたる製品ライフスタイルの全フェイズに関連する部門が、製品の企画や開発、設計などの段階に参加・協働することをいう。
本事例中に記載の肩書や数値、固有名詞等は初掲載当時のものであり、閲覧される時点では、変更されている可能性があることをご了承ください。
事例は特定のお客様での事例であり、すべてのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
IBM、IBMロゴ、IntelliStationはInternational Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標です。
Microsoft、WindowsはMicrosoft Corporationの米国およびその他の国における商標。
UNIXはThe Open Groupの米国およびその他の国における登録商標。
他の会社名、製品名およびサービス名等はそれぞれ各社の商標。
