都心にありながら自然に恵まれたキャンパスを持つ武蔵大学は、3学部8学科で約4,300人の学生を有する文系総合大学です。
同大学では「知と実践の融合」の理念の下で、社会人としての基礎力を育てる実践的カリキュラムの開発・展開に独自に取り組んでいるほか、情報教育にも力を注いでおり、新しい形態の情報教育を実施することを計画していました。
一方、日本IBMでは、高等教育機関へのスキル展開および企業との人材橋渡しを目的としたプログラムである「IBMアカデミック・イニシアティブ for System i™」を2006年夏に立ち上げ、大学との協業を検討していました。
こうして、武蔵大学と日本IBMの双方の構想が合致したことから、連携が実現しました。2007年9月には全く新しい授業である「デジタル協働学基礎」が開講されました。
武蔵大学では、情報教育の将来構想について検討が進められていました。その結果、ワープロソフトや表計算ソフトなどの使い方を個別に教えるのではなく、与えられた課題の解決のために状況に応じたツールを適切に活用させることによって学生たちに情報スキルを身に付けさせると同時に、学生生活や社会生活に必要な問題解決能力も向上させることが必要であるとの結論に至りました。その経緯を、経済学部の加藤 美治教授(情報教育を担当する情報・メディア教育センター長兼務)と総務部長の小野 成志氏(プロジェクト発足時は情報・メディア教育センター事務長)は次のように話します。
「さまざまな情報技術をビジネスゲームの中に組み込むことを考えました。つまり、学生たちに仮想の会社を設立させて、実際に『もの』をつくらせるのです。そこでは、収益などの数字だけでなく、『もの』をつくることの楽しさや難しさ、そしてチームワークや自主性などのいわゆる“ソフトスキル”と呼ばれるものも学んでもらおうと考えました」
実際にこのプロジェクトが動きだしたのは2006年春でした。
日本IBMでも、実践的なITの授業を産学連携で提供し、学生のIT業界に対する興味を喚起することを目指して「アカデミック・イニシアティブ for System i」を準備していましたが、それが武蔵大学のニーズとまさに合致しました。それにより、2007年4月に武蔵大学と日本IBMとの協業が決定したのです。
「デジタル協働学基礎」と名付けられたこの授業が開講してから2カ月余りが経過しました。加藤教授がつくりだした「デジタル協働学」という言葉に、この授業の目的が端的に表れていると話します。
「デジタル機器やデジタル技術の使い方はそれぞれ個別に学習してはいますが、どのような状況でどのように活用していけばよいかは理解されていないと思います。また、それらのツールを“協働”させることも習ってはいませんでした。そこで、バラバラに存在しているツールをうまく協働させること、そして、私たちの協働作業にデジタル技術を浸透させることを目指して考えた言葉が『デジタル協働学』です。学生たちにとっても授業の内容が科目名からすぐに分かるようにと名付けました」(加藤教授)
「デジタル協働学基礎」の授業で加藤教授が目指していることは三つあるといいます。まず一つ目は、情報技術の利用方法を個別に教えるのではなく、プロジェクトやミッション(任務や使命)を実施する過程で体系的に教えることです。二つ目は、日常生活や社会で仕事をするときに不可欠な、対人能力、洞察力、向上心といった試験の点数では測ることができない“ソフトスキル”を身につけさせることです。そして三つ目は、ビジネスに大切な感性に気づいてもらうことです。
「デジタル協働学基礎」を受講している学生たちにも変化が表れており、「一つの仕事に多くの時間を費やしていて、最初は時間内に課題を提出できませんでした。それまで、すべてを自分一人でこなそうとしていたからですが、チーム内で仕事を分担する大切さが分かってきたところです」という多くの学生の声を聞くことができました。また、「ITのすごさや、どこまでできるんだろうということに興味がわきました」という「アカデミック・イニシアティブ for System i 」が目指しているところのうれしい声も聞くことができました。
IBMのOB・OGも、「進み方が早い学生や遅い学生もいますが、総じて成長してきていますね。『デジタル協働学基礎』を受講している学生は非常に幸運だと思います」と学生たちに対しては高い評価をしています。また、「IBM時代に培ったビジネス・スキルやビジネス・マナーを、次世代を担う学生に還元するのは大変意義深いことです」「まだまだわれわれも若者に教えられます(笑)」などと、次世代を担う若者と社会人OB・OGとのコラボレーションへの期待感ものぞかせていました。
この「デジタル協働学」はすでに2008年度にも開講されることが決定しています。
「2008年度には前期と後期にそれぞれ開講されますが、後期の授業は経済学部以外の学生にも開放される予定です。将来的には、製造業だけではなく学部の要望などに応じた業種にすることも考えています。あるいは、ビジネスゲームに特化したプログラムにしたりマーケティングを重視したプログラムにすることなどにより、2年生や3年生を対象とした授業にも対応できると思います」(加藤教授)
最後に、「アカデミック・イニシアティブ for System i 」の意義を加藤教授が語ってくれました。
「大学で過ごす4年間は人生で最も重要な4年間であると言えます。そこでコンピューターの使い方をきちんと理解した学生がこれから社会に出ていくこと、そしてIBMのハードウェアとソフトウェアを使ってIBMのことを学んだことは、中長期的にみるとIT業界にとって大きなメリットになると思っています」