掲載日 2008年7月10日
ゲーム・メーカーとして、世界中から高い評価を得ている株式会社セガ(以下、セガ)。2004年10月にはセガサミーホールディングス株式会社を持株会社とするセガサミーグループが発足し、その中で同社はゲーム・コンテンツ開発を中心にした事業に取り組んでいます。アミューズメント施設用のゲーム機器の製造販売、家庭用ゲーム・ソフトの開発、さらに『東京ジョイポリス』をはじめとするアミューズメント施設を運営するなど、エンターテインメントやアミューズメントの分野で確固たる地位を築いています。
同社はコンテンツを核にさまざまなエンターテインメント商品やサービスを次々と生み出していく企業です。最近では、『甲虫王者ムシキング』などの子供向けエンターテインメント市場を開拓するヒット作を送り出しています。同社では、こうしたユニークな製品が、過去に世界初の体感ゲーム『ハングオン』や『UFOキャッチャー』が示したように、新しいゲーム・マーケットを創出していくダイナミックな事業展開を目指しています。そのためには一にも二にもアイデアであり、時代やマーケットの流れにフットワークよく乗ることも求められ、事業展開には何よりもスピードが大事になってきます。それを支える情報システムにもスピードが求められることになります。
お客様ニーズ

株式会社セガ
コーポレート本部
情報システム部
部長
松田 雅幸氏
ゲーム業界特有の事業展開スピードの速さに情報システムをどう対応させていくか
セガサミーグループのスタートとともにセガが取り組んだのは、事業の移行や組織の再編に伴う事業の柱の建て直しでした。グループ発足後の2005年から2006年にかけて、次のフェーズを迎え、今度は事業システムの整備に取り掛かります。まずターゲットになったのは決算の早期化、そのための新しい会計システムの導入でした。これはグループ各社が共用で使うもので、2006年10月にリリース。早期化に的を絞ったことから、利便性をある程度犠牲にして標準のままでのパッケージの利用ということになりました。「ところが」、とセガ コーポレート本部 情報システム部 部長 松田雅幸氏は当時を振り返ります。「使い始めて早速、ユーザーから使いにくいという声が上がりました。勘定科目の仕訳や部門コードの割り付けとか、事務スタッフが請求書をもとに入力項目を決めるのにかなり苦労していることが分かりまして、早速対策を考えなければならなくなりました。使い始めて3カ月で特に支払業務で効率上問題が大きいことが見えてきたのです」
もともとセガには、ユーザーの使い勝手を重視する伝統があり、実際それはワークフロー・システムに反映されています。稟議(りんぎ)書などを中心に30フローの実績がすでにあり、Active Server Pages(ASP)という技術を使い、独自に開発したワークフロー・エンジンにより手組みで作られています。ユーザーの満足度は極めて高いとのことです。しかし、手組みのため生産性は期待できず、開発のペースも遅くなり、変更も困難であるという弱点を持っていました。ユーザーにとっての使いやすさは受け継ぎ、かつ事業展開スピードや組織変更に迅速に対応できる柔軟な支払伝票ワークフロー・システムの開発が課題として持ち上がりました。
ソリューション

株式会社セガ
コーポレート本部
情報システム部
IT企画チーム
主任
本多 秀行氏
BPELヒューマン・ワークフロー・システムの構築にSOA技術でチャレンジ
セガが解決策として見いだしたのはBusiness Process Execution Language(以下、BPEL:ビジネス・プロセス実行言語)を使ったヒューマン・ワークフロー・システムの構築です。
BPELはService Oriented Architecture(以下、SOA:サービス指向アーキテクチャー)化されたシステムにおいて、ビジネス・プロセス層に適用される標準言語であり、ビジネス・プロセスで呼び出すサービスの順序や分岐などの定義を行うことができます。
同社は関東IBMユーザー研究会の平成17年度のSOA研究チームに参加していて、SOA視点からのワークフロー・システム構築には好感触を得ていました。
しかし、それだけでBPELの採用に踏み切るのにはリスクが高過ぎると判断し、2007年4月~5月に検証期間を設け、IBMを含めた複数のベンダーに業務要件や想定される業務量、伝票量を提示し、実現の可能性についての検証を行いました。
6月に提案要請を行い、比較検討の結果IBMの提案を採用することになります。
その理由を、松田氏は次のように話しています。
「SOAに関する優秀な技術者がIBMにはたくさんいることが企画、検証フェーズで分かりました。
しかも、そうした人材が面としてあること。
SOAに詳しい人間が一人いるということではなく、何人も何人も優秀なアドバイザーがいて、それを実現できるツールがあって、それらが面としてサポートしてくれる。
また、SOAに関しての経験を持つパートナー(SI事業者)も充実しているように感じました」

株式会社ユーフィット
ソリューションビジ
ネス事業部
コンサルティング
ビジネス部
部長
川口 均氏
こうして、セガ、IBM、IBMのビジネス・パートナーである株式会社ユーフィット(以下、ユーフィット)の3社によるプロジェクトが始まったのは2007年7月。
BPELヒューマン・ワークフロー・システムの実行環境としてはIBM WebSphere®Process Serverを採用し、システム開発はIBM WebSphere Integration Developerで行っています。
基本方針にスモール・スタートを掲げて、基本機能としてのBPELを利用した新ヒューマン・ワークフロー・システム・エンジンと支払伝票ワークフローの構築からスタート。
これをリリース後、ユーザーからの意見を取り込みながら全社展開というスタンスでプロジェクトは進んでいきます。
BPELヒューマン・ワークフロー・システム構築での創意点についてセガ コーポレート本部 情報システム部 IT企画チーム 主任 本多秀行氏は次のように話しています。
「稟議書などの旧ワークフロー・システムが30もあり、棄てるのはもったいないし、作り直すためにはコストがかかります。
そこでSOAの考え方を取り込んで、旧ワークフロー・システム1申請の各プロセスをサービスとしてラッピングして、新しいワークフロー・システムにシームレスに結合することにしました。
ユーザーにとって、見た目の画面はそれまでとまったく変わらず、申請の仕方も以前と同じ使いやすさになっています」既存資産のある単位を必要に応じてラッピングして部品化し、
サービスとして疎結合の形で新システムから呼び出す、まさにSOAなら可能といわれていることを実現したわけです。

株式会社ユーフィット
コンサルティング
ビジネス部
コンサルタント
入山 秀樹氏
ゲーム業界は変化が激しく、社内の組織も変更が多く、ビジネス体系も常に変化しています。
ワークフローも流動的になり、情報システム部には3カ月、1カ月単位でユーザーから変更の依頼が来るといいます。
当然、それに合わせたワークフローの改変が求められ、影響を最少にしてシステム改訂の生産性をあげるためには、疎結合をどこまで実現できるのかが一番のキーポイントになります。
この疎結合の整備に同社は独自のノウハウを開発し、それをヒューマンタスクユニット(HTU)と名付けました。
本多氏はこのHTUを定義できたことが大きな成果と、次のように話しています。
「BPELにより、承認経路を図で表すことができます。
ここに部品(サービス)を並べていけば、それがワークフロー・システムとして動くエンジンになります。
これまでは、個々の部品を一つ一つ定義してコーディングするというやり方でしたが、送信元、審査者、次の審査者といった役割(ロール)に注目して、適切な粒度で人間が実施する行為をユニットとして定義してコンポーネント化し、
これを自由につなぎ合わせることで、どのような情報が流れてこようとも、どのようなアクティビティー(行為)が発生しようとも、一つのユニットを描けば対応できるように定義付けしたのです。
ここが今回のプロジェクトの目玉であり、一番時間をかけて苦労もしたところです。
これにより、完全な疎結合が可能となり、BPELの図を並べるだけで設計開発まで至れますし、運用ベースに乗せてからも、新しい案件が発生しても旧システムからドラッグ&ドロップで部品を呼び出して利用できます。
設計開発から運用まで、極めて生産性の高いシステムになりました。また、BPELを利用した場合、業務フローの追加開発の工数は2分の1以下に、修正作業は3分の1以下に工数削減できると見込んでいます」

システム図の拡大
松田氏は「理論で分かっていた理想形が、実際に実現できた意義は大きい。しかも、プロセスマネジメントの中でも、ヒューマン・ワークフローという、どちらかというとBPELが苦手としている領域で実現できたのは大変大きな成果だった。私の知る限り、BPELを大掛かりなヒューマン・ワークフローに、完全に疎結合を実現した形で対応して使う例は国内では初めてだと思います」と付け加えています。
株式会社ユーフィット コンサルティング ビジネス部コンサルタント 入山秀樹氏も「新しいことへのチャレンジということもあり、3社が案を出し合って一緒に吟味して、一つ一つ進めていきました」と話し、
株式会社ユーフィット ソリューションビジネス事業部 コンサルティングビジネス部 部長 川口 均氏は「こうして一緒に議論させていただきながら作業を進めたことで3社が一体になったチームもつくれた」と今回プロジェクトのチームワークの良さを強調しています。また「ユーフィットは「ITプランニングSOA」や「ADAM」などSOAソリューションを提供していますが、このプロジェクトによってBPELの可能性をさらに切り開いてSOA構築のノウハウを共有することができました」とお話いただけました。
こうして、2007年12月から経理部内起票の全伝票は新ワークフロー・システムで処理されようになり、2008年6月には現行ワークフロー・システムと新ワークフロー・システムとの完全連携も達成され、7月中には全社展開を検討するフェーズに入る見通しです。
導入効果
業務展開スピードに対応できる
生産性向上を実現
セガが効果として最も期待しているのは迅速性と柔軟性の向上、すなわち生産性の劇的な改善です。松田氏は、これについて次のように話しています。「今回の第2フェーズの結果を踏まえて、次は支払業務以外の業務領域も含めた新しいワークフロー・システムの開発(第3フェーズ)に進みますが、ここでの測定によって、期待している生産性向上がどこまで達成できたかの検証ができると思います。SOAの開発では通常初期投資として高価なミドルウェアを導入しなければいけないわけですが、今回の弊社のケースでは、生産性の向上によって1〜2年で初期投資を回収することが出来るという十分な感触を得ています。また、生産性が上がるということはユーザーから依頼があったときに、納期が短縮できるということでもあり、こうした利便性の測定データも年内には把握できるとみています」
WebSphere製品の働きに関しても、同氏は「運用に当たっては、予想していた通りの性能が出ていると実感しています」と高く評価しています。また開発環境に対して本多氏は「他製品もヒューマン・ワークフローのつくりに関しては十分優れていますが、そこまでという感じでした。WebSphereは、そこから先の拡張を考えたときの効果も期待できます」と話しています。
将来の展望
SOAを他システムへどう活かすかが
これからの重要な研究課題
今回、SOAの標準技術、特にEnterprise Service Bus(ESB)を導入することにより、この先の中期展望を計画するためのエントリーポイントが作れたと松田氏は話しています。「ヒューマン・ワークフローは入り口に過ぎません。他システムを含めて全社のシステムの中でSOA化されたシステム比率をあげて、全体として生産性を上げていくにはどうストーリーを作っていくかが今後の研究課題として重要になります。まだ、アイデア段階ですが、大量のトランザクションが動くようなシステム間のゲートウェイ、文書管理システムとの連携やメタマスターを実現できないかとか、研究課題はたくさんあります。ユーザーが驚くような新しい機能も、今後の展開の中で提案できるのではないかと思っています」
さらに松田氏はSOAが今後普及していくための鍵を握るのは人材であると述べ、「われわれの最大の課題は自分たちをいかにレベルアップしていくかの社員教育です。ビジネス・プロセスに対してコンサルティングができるレベルがこれからは求められ、そのためにはビジネス・アーキテクトのセンスを持った人材を育てなければならない。IBMにはそうしたノウハウも提供してもらいたい」とIBMへの期待を話してくれました。「SOAのようなまだ定着しきっていない新しい技術を導入していくためには、情報共有化というのでしょうか、ユーザー企業同士やビジネス・パートナーやIBMが協力できる部分で情報を交換しあって意見交換をしながら取り組むというアプローチが有効だと考えています。それがオープンソースカルチャーに理解の深いIBMのコミュニティーには根付いていて、共鳴するところが大ですし、今後も期待しています」
お客様情報
1960年の設立以来、アミューズメントのメーカーとして発展し、1983年以降は家庭用ゲーム市場に参入。数々の史上初という画期的な製品を生み続け、市場をリードしています。
日経コンピュータ主催の「IT Japan Award 2008」で、SOAを本格的に採用した請求・支払い業務のワークフローシステムが高く評価され、特別賞を受賞しました。
本事例中に記載の肩書や数値、固有名詞等は初掲載当時のものであり、閲覧される時点では、変更されている可能性があることをご了承ください。
事例は特定のお客様での事例であり、すべてのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
IBM,IBMロゴ, およびWebSphereはInternational Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標。
他の会社名、製品名およびサービス名等はそれぞれの各社の商標。
