掲載日 2011年5月13日

日本海事協会一般財団法人 日本海事協会(以下、ClassNK)は、船舶の登録・検査を行う第三者機関であり、完全に独立した非営利団体として事業を展開しています。協会としての歴史は古く、1899年に帝国海事協会(1946年より現在の名称に変更)として設立され、すでに110年以上の歴史があります。
主な業務としては、(1)船の格付けである船級業務とこれに必要となる船舶および海洋構造物の検査、(2)船の登録国である「旗国」が国際条約に基づいて実施する検査の代行検査、(3)品質および環境マネジメントシステムの認証・登録、(4) 以上の業務に関連する研究開発や技術サービスが挙げられ、海上における人命と財産の安全確保および海洋環境の汚染防止のため、日々これらの業務に全力で取り組んでいます。
ClassNKは、船舶の安全について国際的なイニシアチブと協力関係を促進することを目的に設立された国際団体である「国際船級協会連合(International Association of Classification Societies:以下、IACS)」の創設メンバーでもあり、2010年7月からはIACS議長協会を務めています。この他、国連の下部機関である「国際海事機関(International Maritime Organization:以下、IMO)」への積極的な貢献など国際的なフレームワークにおける責務を果たしています。
現在、ClassNKでは、世界118カ所に検査事務所を展開しており、船級登録された船舶は、2011年1月末時点で7,372隻、登録総トン数は1億8,043万トンに上ります。現状では、船級シェア20%程度を占め、1999年より世界のトップシェアを守っていますが、今後さらに25%を超えるシェアの獲得を目指しています。
さらにClassNKでは、「顧客重視」という理念に基づいて、船主、造船所、各メーカーなどの、より一層の顧客満足度向上を目的に、研究開発にも注力しています。現在、約70件の共同研究をさまざまな企業と展開。その1つとして、「有害物質情報のWeb化に関する調査研究」にIBMとクラウドを活用した共同研究が進められています。
目次
お客様ニーズ

材料艤装部長
研究開発推進室
シップリサイクル条
約対応プロジェクト
マネージャー
髙野 裕文 氏
煩雑なインベントリ管理をいかに効率化するか
船舶解体の多くは安価な労働力や再生鉄需要を求めて、発展途上国で実施されてきました。一部のリサイクル船の部品や製品に含まれているPCBやアスベストといった有害廃棄物による環境汚染、また安全上の配慮が十分でないことから発生する労働災害などの負の側面がクローズアップされ、環境団体や海外メディアより、廃棄物処理の問題を先進国が発展途上国へ押し付けているのではないかという議論が巻き起こるところとなりました。一方、船舶は所有者、利用者、運航者等の利害関係者が多国に跨っていること。また、どの時点で廃棄物となるか特定できないなど、これまでの国際ルールではカバーできない数々の問題も存在していました。
これらの問題の解決を図るため、IMOにおける検討が重ねられ、2009年5月、「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約(仮称)」(通称、シップリサイクル条約)が採択されました。
シップリサイクル条約の採択に先立つ2008年4月、ClassNKでは「シップリサイクル条約対応PT(プロジェクトチーム)」を編成し、条約が採択された際にいち早く対応できる体制を確立しました。その背景を材料艤装部長 研究開発推進室 シップリサイクル条約対応プロジェクトマネージャーの髙野裕文氏は、次のように語ります。「日本の造船シェアは世界トップクラスであり、また船主国としても大きな位置づけを占めております。このため常に船舶の建造国、船主国の両側面より、国際的貢献が期待されています。また、日本は船主、造船所、メーカーなど海事関係者が一同に揃う世界でもまれにみる国であり、条約に対し業界で一致団結して取り組むことで、グローバルに広がる海事業界への貢献が可能だと考えました。ClassNK内のシップリサイクル条約対応プロジェクトチームは、業界全体の取り組みの先鞭として現存船40隻、新造船20隻のインベントリ作成のトライアルから開始することにしました」。
インベントリとは、船舶に存在する有害物質、廃棄物、貯蔵物などの量や所在を記載したリストのことです。このリストは、リサイクル施設における労働者の安全衛生の確保や環境汚染の防止、有害物質の代替物の開発、資源の有効利用の促進などを目的としており、シップリサイクル条約によって作成が義務付けられます。
具体的な作成作業としては、造船所が各メーカーから納入される製品の有害物質情報が記載された「材料宣誓書(MD)」および保証書にあたる「供給者適合宣言(SDoC)」を収集し、収集した材料宣誓書について、所定のしきい値を超えて有害物質を含有する製品を選別。選別した製品について分類ごとに整理し、本船上の所在をインベントリ様式に記載、船級協会であるClassNKに提出し、承認を受けるという流れになっています。
しかしこの方法では、紙ベースで大量の資料を保管・受け渡ししなければならないほか、材料宣誓書の内容を記載するときの間違い、有害物質含有量の計算作業の負担、記載方法の統一など、解決すべきさまざまな課題がありました。研究開発推進室 シップリサイクル条約対応プロジェクトチーム 主管の平田純一氏は、次のように語ります。「船舶は数千点から1万点ほどの製品から構成され、材料宣誓書による調査対象に限っても千点を優に超えます。造船所ではこれらの製品の有害物質情報をFAXや電子メールでやり取りし、手作業で集計して、紙ベースのレポートを作成しなければなりませんでした。そこで以前から考えていたITの活用を実践することにしました。人が入力した情報を集計することは、ITの最も得意とする分野だからです」。
ClassNKでは、新造船インベントリ作成ソフトウェアであるPrimeShip-INVENTORYを開発し、2009年に国内10カ所の造船所でトライアルを実施。2010年より正式版をリリースしています。PrimeShip-INVENTORYでは、統一されたフォーマットにより各メーカーは、材料宣誓書および供給者適合宣言をMicrosoft Excelなどで作成し、電子メールで造船所に送付します。
造船所は、材料宣誓書および供給者適合宣言を電子メールから取り込み、有害物質を含有する製品の位置を入力することで、インベントリを自動作成できる仕組みになっています。材料宣誓書および供給者適合宣言の作成が容易になり、インベントリの作成も自動化されたので、その面では効率化ができましたが、今度は電子メールによるデータのやり取りが課題となりました。
平田氏は、「IT化でデータ入力までは便利になりましたが、その後のデータのやり取りがメールのため、見落としや返事のし忘れなどの課題がありました。メーカーの中には、1日に数百件のメールが飛び交うケースもあり、完全に対応することは困難でした。また、造船所の担当者がメールから材料宣誓書の情報を見つけ出し、手作業でアップロードするのは負荷の高い作業とのお声を頂いていました」と話します。
そこでClassNKでは、IBMと共同で「有害物質情報のWeb化に関する調査研究」を実施することを決定。PrimeShip-INVENTORYのクラウド対応に、IBMとクラウドを活用した取り組みを採用することを決定しました。
ソリューション

システムの概要
グローバル展開のサポートを期待してIBMを採用
IBMのクラウドを活用して構築された「船舶有害物質・情報管理ソリューション」は、2010年7月から開発が開始され、2010年末にプロトタイプ開発が完了。2011年初めよりトライアル運用が開始されています。平田氏は、「IBMが自動車業界で培った有害物質管理の経験と、我々の船舶におけるインベントリ管理のノウハウを組み合わせた相乗効果により、非常に短期間で高品質なシステムを構築できました」と話します。今回のソリューションの構築基盤としてIBMクラウド・サービスの1つである「IBM マネージド・クラウド・コンピューティング・サービス(以下、MCCS)」をご採用いただきました。将来の規模拡大やグローバル展開をにらんで信頼性が高く柔軟性・拡張性に富むシステム基盤を提供できたこともお客様のシステム構築に大きく貢献しました。
今回、構築された船舶有害物質・情報管理ソリューションは、インベントリ管理に関するあらゆる情報をクラウド環境で一元管理することで、船主や造船所、各メーカーによる情報の登録、データのやり取りの煩雑さを解消することが可能。一元管理された情報を共有することで、円滑なインベントリ管理を実現しています。
IBMを採用した理由を髙野氏は、「現在、世界118カ所でサービスを提供していますが、言語や文化、時差など、さまざまな課題を経験しました。今後、船舶有害物質・情報管理ソリューションをグローバル展開していく計画もあり、世界中に拠点を持つIBMであれば、どこの国でも同レベルのサポートが期待できるからです」と話します。
髙野氏はまた、「せっかくIBMと共同研究を行っているので、単にシステムを開発するだけではなく、ハードウェアやソフトウェア、関連サービスまでも含め、一緒に世界展開をしたいと思っています。またインベントリ管理では、造船から運航、解役、解体、リサイクルまでのライフサイクル情報を30年間きちんと管理しなければなりません。30年間、グローバルに、多言語で情報を管理できるのは、IBMしかないと判断しました」と話しています。
導入効果

研究開発推進室
シップリサイクル条
約対応プロジェクト
チーム 主管
平田 純一 氏
インベントリ管理の作業負荷を70%以上軽減
IBMのクラウドを採用した効果を平田氏は、次のように語ります。「インベントリ管理をクラウド化したことで、システムとデータの利用度や運用効率を向上することができ、役割を明確にできました。まだトライアルの段階ですが、インベントリ管理の作業負荷を70%以上軽減しています。本格導入が進むと、造船所や船主、各メーカーに関しても、同等の効果は期待できると思います」。またインベントリ管理を稼働させるインフラもMCCSを活用してクラウド化することによって、短期間かつ小規模に始められたことも大きなメリットです。
またPrimeShip-INVENTORYでは、利用者はPCにソフトウェアをインストールしなければならず、バージョンアップの場合にも利用者側の作業が必要でした。提供する側もCD-ROMを再送するなどの作業が発生し、そのためのコストもかかってしまいます。クラウド環境であれば、ソフトウェアはクラウド上で集中管理できるので、利用者はいつでも最新のソフトウェアを利用できます。
さらに一元管理されたデータにアクセスできるので、入力ミスさえしなければ、データの整合性も保証されます。業務部 シップリサイクル条約対応プロジェクトチーム 主事の浦田益明氏は、「もし、インベントリ作成を手作業で実施すると、情報の値が正しいかどうかもチェックが必要となります。しかしデータを電子化し、集中管理したことでインベントリ情報の値に関してはチェックが不要になり、本業である検査業務に集中できます。本当の意味で仕事を支援する仕組みになっています。また、利用者側の運用負担を大幅に軽減することで、さらにこのシステムの有用性を高められたと考えています」と話します。
セキュリティーでも利用者ごとの権限設定により、情報漏えいや誤操作の防止が可能。平田氏は、「今回の取り組みは、海外からも高く評価されています。シップリサイクル条約対応プロジェクトのチームリーダーが、ClassNKの副会長である松井が務めていることからも、この取り組みにかける我々の意気込みを感じてもらえるのではないかと思っています」と話します。
将来の展望

業務部
シップリサイクル条
約対応プロジェクト
チーム 主事
浦田 益明 氏
造船から解体、リサイクルまでのライフサイクルを構築
シップリサイクル条約では、船舶の造船から運航、解役、解体、リサイクルまでのライフサイクルで統合的に情報を管理することが求められています。今回、構築されたクラウド環境は、造船から運航までの管理ですが、今後は、解役から解体、リサイクルまでのシステム化を実現しなければなりません。
髙野氏は、「一連のライフサイクルを実現することで、解体時に横行する船舶の不正投棄の問題なども防ぐことが可能になります。シップリサイクル条約は、2011年7月ごろに運用を定めたガイドラインが確定する予定であり、2011年を現状のクラウド環境の展開の年と位置づけ、2012年中には残りのシステムを構築し、広く普及させていきたいと思っています」と話します。
また浦田氏は、「システム構築を短期間で完了できたのは、IBMの合理的な開発メソッド、および豊富な経験・ノウハウに負うところが大でした。また、情報収集のためにロンドンまで飛んでくれるような機動力には驚かされました。長期間使用していくシステムですから、保守の容易性と拡張性が必須となりますが、SOA(サービス指向アーキテクチャー)準拠のフレームワークとIBM Rational Team Concert™やIBM Rational® Team Quality Managerといった開発支援ツールによる統合管理がなされ、パートナーとして安心して任せる事ができました。クラウド環境の展開にあたり、利用者からの要望に迅速に対応してくれることを期待しています。また世界に向けて展開していくときにも、ネットワークを生かした支援を期待しています。今後も1つのチームとして協力していければと思っています」とIBMへの期待を語っています。
お客様情報
お客様名:
一般財団法人 日本海事協会
所在地:
〒102-8567東京都千代田区紀尾井町4番7号
URL:
日本海事協会は、海上における人命と財産の安全確保および海洋環境の汚染防止を使命として、船舶の安全を確保するために独自に技術規則を制定し、建造中および就航後の船舶がこれらの規則に適合していることを証明するための検査を実施の上、船級の登録を行っています。また、船舶の登録国が国際条約に基づいて行う検査の代行、材料、機器等の承認業務、ISOに基づく品質および環境マネジメントシステムの審査登録、各種技術コンサルタント、その他海事業界に貢献するための各種研究開発など幅広い活動を行っています。
製品・技術情報
サービス
参考資料
- お客様導入事例 一般財団法人 日本海事協会(1.18MB)この事例のPDFがダウンロードできます。
本事例中に記載の肩書や数値、固有名詞等は初掲載当時のものであり、閲覧される時点では、変更されている可能性があることをご了承ください。
事例は特定のお客様での事例であり、すべてのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
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