掲載日 2011年6月24日
一般的にメーカーは「良い商品を作れば売れる」という発想に傾きがちですが、良い商品かどうかは、使ってみなければ分かりません。メーカーが何もしなくても、購入する前から良い商品だと認識されて自然に売れていく、ということはあまり自然な考え方とはいえません。やはり、良い商品であることを情報として付加し、消費者に訴えていくことが必要です。
株式会社カネボウ化粧品(以下、カネボウ化粧品)の「メイクアップ研究所」「スキンケア研究所」の両研究所で主任研究員を務める勝山達志氏は、製品評価と事前に得た情報は別ではない、一体として考えなければならないとして、付加する情報によって、消費者は商品に対してどんな反応をするのか、また、商品にどういうイメージを持つのかといったことを研究しています。
勝山氏は価格が高い人気商品をサンプルにして、ブランドが利用者の使い心地や効果にどういう影響を与えるのかについて、IBMが提供する共分散構造分析ソフトウェアIBM SPSS Amos(以下、SPSS Amos)を活用して分析をしています。調査で集められた情報を分析し、分かりやすい図の形式で結果を示し、ブランドの持つ影響力に関してさまざまな知見を提供しています。
お客様ニーズ
他社の高価格化粧水を対象にホームユーステストを実施
ブランドによって、商品評価がいかに変わるかを調査するために、勝山氏は人気商品である「ブランドX」の高価格化粧水でホームユーステストを行いました。ホームユーステストは商品開発の過程でよく行われ、実際の使用環境に近い状況で、テスト対象品を使用してもらい、評価を集めるものです。
参加者に「ブランドX」の商品名を明示している「オープンサンプル」と「ブランドX」の商品名を隠した「ブラインドサンプル」をそれぞれ6日間使用してもらいました。
ホームユーステストでは、ブランドは情報としてバイアスになるため、ブランドを分からないようにするケースがよくあります。今回の勝山氏のテストは2つのサンプルのうち、片方のサンプルはブランドを分かるようにしているユニークなテストです。勝山氏は次のように話しています。
「通常、こういった商品調査では評価へのバイアスを避けるため、テスト品の情報を統制します。ブランドというのは、情報の最たるもので、明らかにバイアスになります。バイアスがかかったものとかかっていないものを比較するのはどこか科学的な調査にそぐわない、という考えがあります。しかしながら、これは見方を変えれば評価への影響イコールブランドの効果や価値とも言えます。今回はあえてブランドを明らかにしたものと、そうでないものを比較することで、そのブランドの効果
を取り出してみることに挑戦したわけです」
勝山氏の目的はブランドを明らかにした「オープンサンプル」とブランドを隠した「ブラインドサンプル」との比較の中で、ブランドというものの影響がどういう形でかかっているのかを調べることです。ブランドが商品の評価に影響を与えることは自明のことですが、それが、実際にどのようにどのくらい影響を与えるのかといったことの解明は、意外にも取り組みがなされていないものでした。
ホームユーステストでは、まず、「ブランドX」のイメージや、特徴認知について事前アンケートをしました。そして試用開始日にそれぞれの使い心地(香りの評価を含む)、つけた後の肌の感じ、翌朝の肌の感じ、全体の評価を尋ねました。そして試用最終日に同様の質問と、肌の変化を聞きました。
ソリューション

メイクアップ研究所/
スキンケア研究所
主任研究員
勝山 達志氏
テスト結果をSPSS Amosで分析し、パス解析を実施
勝山氏は調査の結果をパス解析という手法を使って詳細に分析していくことにしました。
今回のテストでは、参加者に「オープンサンプル」と「ブラインドサンプル」、それぞれについて(1)使い心地、(2)つけた後の肌の感じ、(3)翌朝の肌の感じ、そして(4)全体評価と、段階を分けて評価を得ています。パス解析によって、各段階の評価が次の段階、あるいは全体評価にどのくらい寄与したのか、逆に全体評価には各段階の評価がどのくらいの影響があったのか、ある段階の評価がその前の段階の評価からどのくらい影響を受けていたのかといった、評価の道筋を明らかにしていきます。例えば、(1)使い心地の段階で、(4)全体評価があらかた決まってしまうのかもしれません。または、(3)翌朝の評価こそが決定的な意味を持つのかもしれません。
「パス解析の良いところは、パス図という直感的に理解しやすい形で結果が示されるので非常に説明しやすいところです。パス図を作成したら後はSPSS Amosが計算してくれますので、解析も難しくありません。数字だけで調査結果を示しても、なかなか理解してもらえないですが、図によって示すと、とても興味を持って理解を示してくれるケースが多いのです」(勝山氏)
パス解析の結果は評価の道筋を示すものですが、「オープンサンプル」と「ブラインドサンプル」とでそれがどのように違うのかということを見ていくことになります。
勝山氏はこの分析に多母集団同時分析を用いました。この手法では、仮説に基づいて、「オープンサンプル」と「ブラインドサンプル」のパス図について、お互いどことどこが同じ(あるいは異なる)といった条件を課し、その条件の下での解析結果が、妥当かどうかを調べて、立てた仮説が正しいかどう
か、検討します。
導入効果
「オープンサン
プル」と「ブライ
ンドサンプル」
の比較のパス図
ブランドが認知されると単に評価のかさ上げが起こるわけではなく、評価構造が変化することが判明
多母集団同時分析で興味深い結果が現れました。まず、「ブランドが分かると、その分評価にかさ上げが起こる」という仮説を立てました。普通に考えると、「当然、評価にかさ上げが起こるはずだ」と思いますが、結果としてそのようなかさ上げ効果を積極的に支持するような結果は得られませんでした。
具体的には、パス図中の変数の平均値および切片が「オープンサンプル」と「ブラインドサンプル」とで等しいという条件をまず課しました。もし、ブランドの認知によってかさ上げが起こるのであれば、平均値および切片は「オープンサンプル」でより大きいはずで、「等しい」という条件は認められないという結果になるはずです。しかしながら、計算の結果はそうではありませんでした。つまり、ブランドが明らかであることによって評価が単純にかさ上げされるということはないという結果が出ました。
同様に、パスの強さ(係数)に対しても、条件を変えながら解析を積み重ねることで、「オープンサンプル」と「ブラインドサンプル」とでの評価の違いというのが明らかになっていきました。
「例えばオープンサンプルのテスト結果では、化粧水をつけている時の評価が全体評価に大きく影響することが分かりました。一方、ブラインドサンプルのテスト結果では、『すぐに肌が変わるものではない』というような冷静な評価によって各項目で加点され、全体評価が形成されるのがイメージできます」(勝山氏)
ブランドが認知されたからといってすべての評価項目に大きな影響が及ぼされるということはないが、少なくとも現実的で冷静な評価態度を変え、すぐに全体評価を高くするような意識が生まれる可能性があることは分かりました。
将来の展望
SPSS Amosによる分析でマーケティング戦略の成功率アップが期待できる
勝山氏は今回のテストによる成果について、次のように話します。
「結果を聞いていると、なんだか当たり前のことが分かっただけではないかと考える人もいるかもしれませんが、例えばブランド・イメージなどを商品開発にどう活かしていけるかという、これまで勘や経験に頼ってきた戦略をより理論的に進めていける可能性が大きく広がってきたのです。ブランド・イメージには、『知的』とか『高品質』といったいくつかの個別の要素があります。こうしたデータもSPSS Amosで解析し、パス図を作成することで、より詳細に知ることができます。そうした研究を続けることで、現実のマーケティング戦略の成功率を大きくアップさせることも期待できます」
また、SPSS Amosによって作られる分かりやすい図が、専門家だけではなく、多くのスタッフによる情報共有にも貢献するはずです。SPSS Amosはパス図の構成や立てられた仮説の「妥当性」について正しい評価をすることで多くのユーザーに信頼されています。イメージや評価といった単純な数値では表せないテーマにもすぐに応用できる点も、勝山氏が高い信頼を置いている理由の一つだといえるでしょう。
お客様情報
2004年5月に、カネボウ株式会社から化粧品事業部門が分離・独立して発足。「美しさの先に、笑顔を。」を会社の使命、「FEEL YOUR BEAUTY」を会社のビジョンとして掲げる。笑顔あふれる社会の実現に貢献し、お客様が本来持っている美しさと個性を引き出していきたいとするメッセージは多くの女性から支持を得ている。ポイントメイク、ベースメイク、スキンケア、ヘアケアなど各分野で独自の商品を開発、製造、販売しており、それぞれ人気の高いブランドを形成している。企業活動を通した、環境保全のための取り組みにも注力している。2006年1月、花王株式会社のグループ会社となった。
製品・技術情報
IBM Business Analytics について
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ソフトウェア
参考資料
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事例は特定のお客様での事例であり、すべてのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
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