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新興国市場とグローバル展開で拓く企業の成長戦略

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池田 和明
日本IBM GBS事業 戦略コンサル
ティング グループ パートナー
日本では多くの企業が高い省エネ技術とそれを適用した事業やサービス、製品を提供してきた。今後、一次エネルギーの供給量やCO2排出量の抑制が世界の経済成長の制約条件になっていく。日本企業の持つ省エネ技術や製品、そして高効率ビジネス・モデルをグローバルに展開していくことで、その制約を緩和する中心的な役割が期待されている。その点に着眼し、戦略を立て、実行することによって、日本企業は10年で売上倍増という「高度成長」を実現することも可能であろう。

エネルギー問題への取り組みで日本企業は高度成長が可能

「日本経済」の潜在成長率は1%程度とされており、今後も低成長が続くとみられている。それは主に少子高齢化による労働投入の制約による。しかし、「日本企業」の潜在成長率は、それに制約されない。2008年に68億人であった世界人口は2020年には76億人に、さらにその間、年収6,000.30,000ドルの中産階級が20億人増大するとみられている。これは、日本企業の顧客が増加し市場が広がるとともに、活用できる労働力が増大することも意味する。他方、この人口増大は、地球規模で、エネルギー、資源、食料、水に関する問題を尖鋭化させもするため、世界の人々はこれら問題の解決を企業に期待するようになっている。日本企業はその流れの中に自らを位置づければ、世界の事業機会をとらえて、成長できるであろう。

現在、世界の経済成長における主要な制約条件は、石油・石炭などの一次エネルギーの供給量とその消費に伴うCO2排出の抑制である。

日本のエネルギー効率は米国の2倍、中国の7.5倍である。日本企業の持つ省エネ技術だけでなく、ビジネス・モデルやプロセスなどがその制約要因の緩和に大きく貢献することができる。

昨年12月のCOP15(第15回 気候変動枠組条約締約国会議)では、中印をはじめとする新興国は、自国がCO2排出量の総量目標を設定されることに強く反発した。その結果、京都議定書の次の枠組みの国際合意には至らなかった。しかし、新興国もこの動きが経済成長の制約になりつつあることを認識しており、エネルギー効率の向上とCO2排出量の抑制には実際に取り組んでいる。

「日本企業の持つエネルギー効率化技術・プロセス、それらを適用した事業、製品、サービスを、グローバルに展開し、自らの成長を追求する絶好の時期に来ています。戦後の高度成長期、日本経済は年平均10%成長し、それと連動して企業の売上も成長しました。今度は、新興国を中心とした世界の経済成長を自社の中に取り込んでいきましょう。仮に年率7.2%で成長すれば、10年後には売上高は2倍になります。それも夢ではありません」と、日本IBM 戦略コンサルティング グループ パートナーの池田和明は語る。

大胆な経営資源の配分とリアリティーある事業戦略

成長を実現するためには、経営資源の配分も見直す必要がある。事業への経営資源の配分を検討する際には、事業ポートフォリオの枠組みが使われている。一般的なポートフォリオでは、縦軸に「市場の魅力度」、横軸に「自社の競争優位性」を設定し、その座標に各事業が置かれる。そして、その座標上の位置に応じて各事業の基本戦略を定める。「事業ポートフォリオの縦軸の市場の魅力度を判定する要因の中に、前述した人口増や産業化に伴う諸問題の解決への貢献度合いを入れるべきです(図1)。そして、魅力度が高い事業に経営資源を優先配分しましょう。買収や提携によって外部から事業のシーズを獲得し、自社資源を組み合わせて成長させることもあり得ます。また座標上に置かれる事業単位を地域別に分けてみてもよいでしょう。そして魅力的な地域に十分な資源投入を行います」(池田)。

加えて、個々の事業展開では現実を正しく認識することが大切だ。たとえば、新興国に参入しようとしても、その国にどんな課題があるのか、顧客は何を求めているのか、ビジネス・パートナーは誰にすればよいかなど、リアリティーを持って検討できない状況が少なくない。有望そうな市場だとは思うものの、いま一つ実感がわかず、決断を先延ばしにしているうちに進出時期を逃してしまう。こうした事態を避けるために、自ら現地に飛び込んでみる必要があり、その支援役としてコンサルタントを活用することも一法である。

「日本の産業機器メーカーのケースですが、インド市場への参入戦略の策定にあたり、経営層は現地でのユーザーの要望を深く理解したいと考えていらっしゃいました。我々はインドに、参入戦略の専門部隊を有していますので、日本のコンサルタントが現地に飛び、インドのメンバーとコンサルティング・チームを組みました。そして、現地の市場調査を行った上で、ターゲット・ユーザー企業の意思決定者へのインタビューを、お客様のメンバーにも加わっていただいて実施しました」(池田)

図1: 2010年代の事業ポートフォリオ戦略

地球規模の諸問題の解決に貢献する事業領域

経済、社会、政治、技術の各象限を押さえたグランド・ストラテジーが高度成長実現のカギ

世界の人々の企業への期待が変化していると述べたが、各国政府の企業に対するスタンスも変化している。1980年代初めに、英国サッチャー政権と米国レーガン政権が打ち出した「民営化、自由化」の流れは、社会の各所で市場メカニズムを活用し、自由な企業活動を担保することが経済成長につながるというもので、最近まで世界の主流だった。しかし、地球環境問題が浮上し、さらに金融危機を経て、市場メカニズムは肯定しながらも、企業活動に対する一定の規制が必要だという考え方が広がっている。

過去30年余り、企業戦略は主に「経済」象限において構想され、どのような事業をやるか(事業ポートフォリオ)、誰に何を提供するか(製品市場戦略)、どうやって提供するか(ビジネス・モデル設計)が主要なテーマとなっていた。しかし、多くの国で企業に対する政府の規制や関与が強まっている中、これからは「経済」象限だけでなく、「技術」、「社会」、「政治」の各象限におけるテーマを含み、かつ統合された企業戦略が必要になる。「技術を活用して、世界の諸問題の解決に貢献し、それを社会にアピールする。それによって、企業イメージを向上させながら政治に働きかけていく。このような動きを統合して展開していく必要があります」。池田はこうした戦略を「グランド・ストラテジー」と名づけている(図2)

図2: 2010年代のグランド・ストラテジー

統合メカニズムによる包括的な戦略(Grand Strategy)のイメージ

 

日本企業は世界の制約条件を緩和することを通じて、自らが成長できる。その際の主戦場は新興国となる。この機会をとらえるためには、魅力的な分野に経営資源を十分に 投入することが求められる。そしてグランド・ストラテジー。これらは、過去高度成長を果たした日本企業の得意技だったはずである。日本企業はいま、自らの原点に立ち戻り、大胆な意思決定を持って高度成長を実現する、その入り口に立っている。