
毛利 光博
日本IBM GBS事業 戦略コンサルティ
ング サプライチェーン/ ロジスティク
ス アソシエイト・パートナー複雑化した経済状況の中で、高い業績を上げている企業はオペレーションに巧さを持った、利益追求型のサプライ・チェーンを運営している。その巧さは実行スピードの早さ、グローカルに対応したプロセスの統廃合、顧客接点のつくり変えによる顧客への接近、の3つに特徴付けられる。日本企業はこうしたやり方を学び、会計領域やCRM領域を取り込み、大きなチェーンへとサプライ・チェーンを進化させることで、高い業績を上げることができる。
利益を意識したサプライ・チェーンができているか
リーマン・ショック以降の経済状況は景気循環の一つではなく、世界レベルで大きな変化が起きているととらえる必要がある。いままでより多くの要因が影響して複雑になり、構造が異なる変化が起こっている。また変化の伝わる時間が短くなり、変化対応のために与えられる時間も少なくなっている。
「IBMの調査によれば、こうした環境下で高い業績を上げている企業には2つの特徴があります。1つは利益追求型のサプライ・チェーンを運営していること、もう1つはそれを実現するために、オペレーションに巧さを持っていることです」と戦略コンサルティンググループ アソシエイト・パートナーの毛利光博は語る。
高業績企業はビジネスの実行コストを削減するだけでなく、売り上げの粗利益率(グロス・マージン)そのものを向上させる取り組みをしている。それによって、サプライ・チェーンはオペレーション・コスト削減の手段から、競争優位を築くものへと変化しつつある。
それに対して日本企業は、利益を意識したサプライ・チェーン・マネジメントができていないのが実情だ。過去にIBMが日本企業約300社に対して行ったSCMサーベイでは、97%が「台数」と「納期」を中心とした管理を行っていた(図1)。しかし、そのやり方では製品の価格下落スピードの早さに対応できない。
「たとえばAV機器で見ると、ビデオレコーダーは10年で半額になりましたが、DVDプレイヤーは5年で半額、DVDレコーダーに至っては2年で半額というように、価格の下落スピードが加速度的に速くなっています。その中で日本企業は値崩れに対する適切な対応ができておらず、製品を利益のでる価格で販売することができないのです」(毛利)
【図1:売り上げと連携したSCMコストの最適化比率】

パフォーマンス指標をプロセスに埋め込み、迅速に行動
それに対して韓国などの成功している企業は、「台数」と「納期」に加え、「利益」をサプライ・チェーンの意思決定の基準として設け、日本企業の2~3倍もの利益を得ている。その特徴として、複雑性を単純化し、いつでも方向修正ができるように柔軟な組織とプロセスを作っていることが上げられる。そして、世の中が複雑になればなるほど、そのプロセスを使い競合に対して優位性を発揮している。
「成功している企業が共通に持つ巧さとして、(1)パフォーマンス指標に基づく素早い実行、(2)グローカルに対応したプロセスの統廃合、(3)顧客接点を新たな視点でつくり変えることに力を注いだ顧客への接近、の3つがあります」(毛利)
日本企業はサプライ・チェーンの見える化に取り組み、多くの情報が手に入るようになったが、それに基づいて行動することができていない。ビジネス・パフォーマンスの測定や異常発生時にアラートを発するイベント・マネジメントなどの情報が伝達された後、次のアクションへとつなげるための取り組みがなされていないのだ。
一方、成功企業ではパフォーマンス指標をプロセスに盛り込んで、いま起きていることをつかみ、変化に対応できるように複数のシナリオを用意し、迅速にアクションを起こす仕組みができあがっている。
顧客と収益を軸にしたサプライ・チェーンへの変革を支援
その実現には、グローバル・レベルでのプロセスの標準化と必要な部分のローカルでの対応(グローカル対応)、そしてサプライ・チェーン全体の損益に対して、グローバルな責任と権限を持つ体制が明確化されていることが前提になる。しかし、それは日本企業が最も苦手とする部分で、とりわけプロセスに関する責任があいまいで、プロセス・オーナーの下、プロセス改革を進めることができていない(図2)
【図2:SCMに関する日本企業とグローバル・リーダー企業の比較/データ統合を妨げる要因】

「IBM Global Chief Supply Chain Officer Study 2009」(CSCO Study)より抜粋。CSCO Studyは、全世界のトップ企業のサプライ・チェーン担当エグゼクティブ(Chief Supply Chain Officer:CSCO)に直接インタビューを行った世界初の調査。25カ国約400人の担当エグゼクティブにインタビューを行い、その結果をまとめたもの。
さらに成功企業の多くは、モノの管理だけでなく、CPFR※ (Collaborative PlanningForecasting and Replenishment)に積極的に取り組み、顧客やその先にいる代理店と一体化して情報を入手している(図3)。そして、収益管理を行うだけでなく、それを新たな製品の開発や設計にまで結び付けている。
※ メーカーと小売店が在庫削減や欠品防止のために協力し、それぞれが出した商品の需要予測結果を持ち寄って的確に在庫を補充していく取り組み。
【図3:SCMに関する日本企業とグローバル・リーダー企業の比較/需要と供給の同期化のために採用しているプロセス】
(5段階評価のうち、上位3段階での回答数)

「いままでのSCMは、モノの生産を中心に管理していくものでした。ところがいまや、収益を意識してそのためのパフォーマンスを管理するという意味では、会計領域と一体化し、その一方で顧客に近づくためにCRM領域とも一体化するという、文字どおりの“チェーン”になったということができます」(毛利)
それに対応するためにIBMも、戦略コンサルティングの組織を組み替え、オペレーション&ファイナンスとしてCRM、SCMと経理財務のコンサルタントが一つになった取り組みを開始している。
これによって金融危機以降、危機意識を持っている日本企業の経営者の要望に応えて、SCMを生産・調達の効率化と在庫削減を目的としたものから、収益と顧客を意識してそれをコントロールするものへと進化させていくことを支援する。これは2003年以降、IBMのサプライ・チェーン部門が継続的に進めてきた取り組みでもあり、そこで実験済みのノウハウをうまく活用することで、日本企業はより早いスピードでサプライ・チェーンを改革することができる。