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「攻め」に転じた日本企業、いま求められる新たな成長戦略とは

LEADERS' INSIGHT リーダーの皆様のための新たな洞察

2人の写真 半導体業界での実績とOne Instanceの考え方で支援するIBM

世界100社以上の半導体を、情報・通信、家電、自動車など1,000社以上に納入するトーメンエレクトロニクス。同社はタイムリーな情報に基づいた迅速な経営判断とグローバル連結の基盤とするために基幹業務システムをカスタムからパッケージへと刷新した。同社の磯野央幸社長に「新基幹業務システム構築の狙い」や「導入プロジェクトの成果」について、日本IBMの富永満之が話を伺った。

業界特有の構造を踏まえた経営判断が必要な半導体ビジネス

富永 満之の写真
富永 満之
日本IBM GBS事業
エンタープライズ・ア
プリケーションズ 執
行役員

富永 リーマンショックから2年、アジア太平洋地域を中心とした経済成長の中で、半導体の需要もかなり戻ってきていると聞いています。半導体業界のビジネスにはどのような特徴があるのでしょうか。

磯野 「産業の米」といわれてきた半導体は、エレクトロニクス製品から自動車まで民生品の根幹です。そのため、最終製品の売れ行きが上向きになると各メーカーが一斉に注文を出し、取り合いになります。そこで確保できないと製品の出荷ができなくなるので、メーカーは保険をかけるように二重、三重に発注します。それを実需だと見誤って余分に仕入れると売れ残って赤字になり、逆に仕入れが少ないと販売機会を逸してしまう。半導体商社は、そうした業界特有の構造を踏まえた上で経営のかじ取りをして利益を確保しなければなりません。

経営判断のためのタイムリーな情報の「見える化」が最大の目的

磯野 央幸氏の写真
磯野 央幸氏
株式会社トーメン
エレクトロニクス
代表取締役社長

富永 激しく変化する環境への対応だけでなく、需要の見極めも含めたスピーディーな意思決定が日常的に求められていることがよくわかりました。今回、基幹業務システムを刷新されましたが、導入プロジェクトをスタートさせる際の課題はどこにあったのでしょうか。

磯野 従来の基幹業務システムの最大の問題は、経営者が判断を下すための情報がタイムリーに出てこないことにありました。自社開発したシステムで入力しやすいようにつくられていたのですが、それでは粗利までしか見ることができず、損益(P/L)がきちんと出せなかった。また、内部統制とグローバル展開に向けた基盤の確立も課題でした。海外拠点の取引はまだ売り上げ全体の10%程度ですが、顧客である最終品メーカーは海外生産を加速しており、私たちも海外拠点での取引を増やしていく方針です。そして、最終的には海外連結決算を目指していますので、別々になっている日本と海外のシステムを将来的には一つにしていく必要があると考えました。

富永 IBM は新基幹業務構築のための「CONAN(コナン)プロジェクト」を全力で支援し、2010年5月にサービスインさせることができました。プロジェクトに当たって、IBMを選んでいただいた理由はどこにあったのでしょうか。

磯野 プロジェクトをスタートさせる際に、何社かに提案を求めました。その中でIBMは、提案の内容や質問に対する答えが的を射ていました。また半導体業界での実績もあり、私たちが業界用語を説明する必要がなく、同じ言葉で対話できたことが大変大きかったと思います。

富永 ありがとうございます。IBMは同業他社のプロジェクトに参加したメンバーを中心に、業界についての理解や必要なアドオンを認識した上で提案書をつくりました。それが評価されたと聞いて大変嬉しく思います。プロジェクトでは、どんな点を柱に業務改革に取り組もうと考えたのでしょうか。

磯野 新基幹業務システムは「SAP ERP6.0」とIBMの中堅企業向けテンプレート「IBM Express Solution for 商社」を採用しました。そして、販売予測(フォーキャスト)や業績管理、受注・請求などの販売管理、購買、生産管理、倉庫業務・在庫管理、財務会計、管理会計、BI(ビジネス・インテリジェンス)と、経営基盤を支えるすべての業務プロセスを行えるようにしました(図)。

【図: 新基幹業務システムのシステム概要図】

IBMデータセンターからタイムリーな情報提供を受け迅速な意思決定ができる仕組み

部門別採算と在庫のひも付けで確実に利益を生み出す

富永 その中で、最も重要だと考えたのは何だったのでしょうか。

磯野 1つは部門別採算の明確化です。ある部門で売り上げが1,000億円あっても、20億円の赤字が出ていたのではどうしようもありません。部門ごとにどれだけのコストがかかり、利益が出ているのかを明らかにすることで、コストが高くなっている場合には問題点を指摘するなどの対策をとることができます。

もう1つは在庫のひも付けです。従来、在庫は「共用」でそれぞれが自由に使っていました。そうすると、在庫が余ったときに誰が発注したのかわからず、責任があいまいになってしまう。そこから抜け出すには、誰がどの顧客のために発注したかを記録として残しておくことです。そうすれば誰の責任かがはっきりします。

在庫のひも付けが重要なのは、最初に申しあげたように半導体業界には特有のビジネス構造があるからです。見込みで発注していた場合でも、ひも付けしておけば発注者と顧客がわかります。一方で、ひも付い ていなくても発注理由が明確であればいいのです。たとえば、3年先を見込んで発注しているのであれば、リスクの程度をはっきりさせて発注量を半分にするなどの対策ができます。

富永 在庫のひも付けはSAPの標準テンプレートではできないので、アドオンで開発しました。在庫をある部門から別の部門に融通する際のオペレーションなど、さまざまなビジネス・ケースを洗い出して開発を行いましたが、オペレーションとしてはあいまいな部分が多く、それをなくすことを方針にして取り組みました。

グローバルで一つのシステムが究極の目標

富永 新基幹業務システムは経営のシステムなのか、現場のシステムなのかというと、経営のシステムです。「経営」という観点からはスピードが要求されますし、トップダウンでということになりますから、SAPのような企業全体を一つのデータベースで見ていくシステムが良いということになります。こうした考え方は従来、欧米系の企業に強く、日本企業では現場の改善や使い勝手の向上という考え方が伝統的に強いために、そのバランスの取り方が大変難しい側面があります。ただ最近では、日本企業も御社のように、マーケットを海外に広げたときに対応できるように、同じシステムを導入しようという考え方が強くなっています。そうすると自社開発では難しいので、「グローバル・レベルで一つのデータベース、一つのシステムで使えるSAPのようなパッケージを入れよう」ということになります。

磯野 確かにそのとおりで、私たちもこれまで手組みでシステム構築をしていましたが、本質的な機能や拡張性における限界を感じており、グローバル連結という目標との関係もあってSAPを導入しました。

富永 話は変わりますが、プロジェクトにかかわったIBMの社員に関してはどのような評価をお持ちですか。

磯野 プロジェクトの完遂という同じ目標に向けて一緒にやるわけですから、パートナーとして信頼できる人でないと困ります。ベンダーのメンバーが信頼できないようであれば、プロジェクトそのものを止めた方がいい。今回のプロジェクトに参加したIBMの人たちは非常に能力の高い人たちばかりだと聞いています。その意味では、いい人材を送ってもらうことができたと感謝しています。

実際のプロジェクトでは、言いたいことを言い合う、厳しい議論を行ってきたと思います。それがないと本当の信頼関係はできませんし、プロジェクトも完遂できません。私もサービスイン前の最後の段階で、「もしダメだったら前のシステムに戻す覚悟をしておけ」とプロジェクト・リーダーに厳命して臨みました。

AoDでサーバーはホスティングIT部門は業務改革に専念

富永 新基幹業務システムは2010年5月に稼働を開始することができました。稼働後はどのような成果があったと考えていらっしゃいますか。

磯野 いままでは見ることができなかった損益まで出すことができるようになって、システムとしての基本は出来上がったと考えています。しかし、最終的な目標は基幹業務システムを土台にした業務改革です。その観点から見ると、100点満点の50点です。残り50点はこれからで、課題がたくさん残っています。まずは全社員が新しいシステムの使い方を習熟し、現場の伝票入力から管理職の情報活用までSAPシステムを使いこなしていくことです。

富永 新しいシステムはIBMの「Applications on Demand®(AoD)」にアウトソーシングされ、アリゾナ(米国)にあるIBMのデータセンターにメイン・サーバーを置いてホスティングの形で運用されています。それによるメリットという点ではどうでしょうか。

磯野 いままでは、夜間処理のチェックやシステム障害の復旧などはすべてIT部門がやっていました。こうした業務をすべてやる必要がなくなったので、IT部門は業務改革などの上流部分に専念することができます。将来的には、IT部門がベンダーの力を借りずに、自分たちでシステムを入れ替えるぐらいの能力を持つようになることを目標にすべきだと考えています。

富永 今回の開発はその約7割をSAP構築スキルを持った中国・大連のIBMグループが行うなど、AoDの利用も含め、IBMにとっても大変チャレンジングなものでした。最後に、今後の展開についてお聞かせください。

磯野 海外と日本の売上比率が逆転する日がそう遠くない時期に必ずやってきます。それに向けて、1年後ぐらいにはグローバル・レベルで部門連結を行うためのシステム構築に着手しなければなりません。今回のプロジェクト経験を生かし、新基幹業務システムを基礎にIFRS対応も含めて国内・海外を貫く一つのシステムを構築し、競争力を強化していきたいと考えています。