本文へジャンプ

「攻め」に転じた日本企業、いま求められる新たな成長戦略とは

LEADERS' INSIGHT リーダーの皆様のための新たな洞察

2人の写真
対談の様子
IBM Global CFO Study 2010で見えた日本企業の課題と指針

企業のグローバル展開が加速する中で、グローバル・レベルでの連結経営が大きな課題になっている。その実現に当たっては、従来、数字の番人として大きな役割を果たしてきた経理財務部門の変革がカギを握る。経理財務部門とCFOは今後、どのような役割を担っていけばよいのか。2010年春に発表された「IBM Global CFO Study 2010」の結果と16年余りに及ぶIBMの経理財務部門の取り組みの経験から、日本IBMのリンドン・ロバートソンと松尾美枝に、日本企業が持つべき目標と変革実現の道筋を聞いた。

業務効率化と洞察力の両立が少ない日本企業

松尾 美枝の写真
松尾 美枝
日本IBM GBS事業
戦略コンサルティン
ググループ パート
ナー

――IBM Global CFO Study 2010で明らかになったことをお聞かせください。

松尾 CFOの役割がどんどん重要になり、業務の効率化と洞察力の両方が求められていることがわかりました。そして、それらの能力が高い組織をバリュー・インテグレーターと呼び、カテゴリー化しました。バリュー・インテグレーターはグローバル企業ではかなり高い比率であるのに対して、日本企業では低い状況にあります(図1)。その要因としては、業務の効率化段階で苦労していること、洞 察力を提供する組織が経営企画部門で、経理財務部門と別の組織となっていることが挙げられます。

多くの日本企業では経理財務部長がCFOの役割を担っているのですが、欧米企業と比べて、管轄する分野が広くありません。インタビューにご協力いただいた方々は皆、管轄分野を広げたいと考えているのですが、事業部門への提言力がなかったり、経営者への提言に苦労しているなどの悩みを抱えています。それは、これまでの日本企業のガバナンス・モデルが連結を意識せず、個社単位でやってきたことによるものです。そして、連結経営が求められるようになる中で、ガバナンスを利かせるのが大変だと気付き、これまでのやり方を変えていかなければいけないと痛感しています。

――バリュー・インテグレーターになるには何が必要なのでしょうか。

松尾 データ、プロセス、テクノロジー、人材という幅広い分野で取り組まなければなりません。ですから、CEOやCIOの協力も得て、全社的に実行するという目標設定が必要です。その合意の上に、それぞれの分野に責任者を置いて取り組んでいきます。そのモデル的なケースが韓国のLGエレクトロニクスで、トップダウンで非常に早いピッチで取り組みを進めています。

IBM自身も業務の効率化を実現して、洞察力強化に取り組んでいるのですが、これも1年で実現したわけではなく、1994年から16年余りにわたる継続的な取り組みです。そこでの成功や失敗の経験を生かすことで、日本企業はより早いスピードで経理財務部門の変革を実現することができるのではないかと考えています。

16年前、いまの日本企業と同じ状況だったIBM

リンドン・ロバートソンの写真
リンドン・ロバートソン
日本IBM 専務執行
役員 管理部門担当

――IBMの経験は役に立つのでしょうか。

松尾 とても役に立つと思います。日本企業の現状が94年当時のIBMの状況だと思います。グローバルに展開している日本企業は海外に子会社がたくさんありますが、連結で見ると、詳細な情報がありません。細かい情報を見る場合には、現地法人に連絡してデータを取り寄せ、それをあらためて集計しています。これを変えたいというのは16年前のIBMの課題でもありました。

ロバートソン 松尾さんと日本企業を訪問して、CEOやCFOの方たちとお話しすると、私たちの指摘があまりにもリアルで的を射ているので驚かれます。バリュー・インテグレーターになる道筋は企業によって異なりますが、データに一貫性を持たせ、処理の仕方を統一し、事実に基づいた情報で経営に貢献していくことの重要性は同じです。

16年前、IBMでは各国ごとに会計プロセスがありました。そこではデータの定義が地域ごとに異なっていて、事業部門のデータの細かさも地域によってバラツキがありました。これは、地域レベルで見ると効果的な仕組みだったのですが、グローバルで見ると2つの問題がありました。1つは地域から本社にデータが上がっていくにつれて視認性が悪くなり、多くの情報が失われることでした。もう1つは地域ではよい結果を出していても、全社レベルで見ると最適化されておらず、効率的なオペレーションができていないことでした。

業務プロセス、データ、ITの3分野で変革に取り組む

――その状態を変えるため、IBMはどこから取り組んだのでしょうか。

ロバートソン コストを50%引き下げて生産性を向上させるとともに、得られる情報の品質を上げるという非常に高い目標を設定しました。そして、3つの領域で具体的な取り組みを進めました。1つ目は専門的なスキルを持った人の能力向上です。経理や財務の専門家に対して、経費を削減しながら高い信頼性を持った情報をアウトプットするために、自分たちの業務プロセスをどう設計したらよいのか、ベンチマークを行い、各業界の業務処理時間を参考にしながら行動計画を立てるように依頼しました。

2つ目はデータの構造です。経理財務の専門家は、データウェアハウスからのデータの収集やグローバルでのプロセスの実装などは得意ではありません。そこでITの専門家に頼み、システムやデータの要件を分析し、データをより一貫したものにするための取り組みを進めました。そして、どの地域、事業部門であっても、データの詳細部分までわかるようにして国ごとの法規制やビジネス要件などの例外を含みつつ、最終的にグローバルで勘定科目を統一しました。これによって、会計や経営計画の通期での立案がどの地域でも同じ形でできるようになりました。

3つ目はデータを置いておくデータセンターの集約です。15年前、世界に60カ所ほどあったデータセンターは現在、大幅に削減されました。これによってIT投資を減らし、アプリケーションを標準化するとともに人材の最適配置も行いました。

【図1: 経理財務部門のタイプ別分布割合】
業務効率とビジネス洞察力を軸に回答者をセグメント分けしたところ、4つのタイプが浮かび上がった

タイプ1:効率的な報告者、タイプ2:バリュー・インテグレーター、タイプ3:スコアキーパー、タイプ4:従来型経営参謀

業務効率化から着手し洞察力の獲得を目指す

――いま、IBMはどのような局面に入っているとお考えですか。

ロバートソン 多くの成果を上げて、バリュー・インテグレーターの段階に入ろうとしています(図2)。私自身の仕事も、94年当時は日々のオペレーションへのかかわりが中心でしたが、現在は経営に対するバランスシートやキャッシュフローの改善、リスク・マネジメントのためのアドバイスに多くの時間を割くようになっています。CFOの役割として、将来のビジネスに対する洞察力と付加価値の提供がとても重要になってきています。そこで、将来にわたって成功していくための変数の幅をCFOが提示できれば、経営は投資先や注力分野などの意思決定がしやすくなります。

【図2: IBM経理財務部門の変革の効果】

ファイナンス部門の変革-進化の効果

  1994 1996 2005 1994年からの変化率
ファイナンス・データセンター 67 15 6 -91%
主要アプリケーション 145 95 44 -70%
決算に要する日数 18 8 7 -62%
ファイナンス経費概算 21億ドル 14億ドル 12億ドル -43%
ファイナンス経費/収益の概算 3.3% 1.8% 1.3% -2.0ポイント

――日本企業はどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。

松尾 まず自分たちが目指す姿を決めることです。目標をCFOだけでなく経営全体で合意すれば、方向性はおのずと出てきます。IBMのようなグローバル一極型を目指すのか、地域ごとの最適化でよいのかが決まります。そこから取り組みを進めていくのですが、CFO単独での改革は不可能なので、CEOの全面的なバックアップが欠かせません。

それから、CFOが改革による効果を提示することが重要です。それがないと、CEOをはじめ、経営を説得することができません。IBMやLGエレクトロニクスの事例も参考になると思います。

――最後に日本企業のCFOや経理財務部門の責任者へのメッセージをお聞かせください。

ロバートソン IBMの経験からいうと、CFOは経理財務の新しいシステムが組織の中で必要かどうかをまず見極めなければなりません。その上で、企業文化を変革する気構えを持つ必要があります。そして、企業の将来を巡る意思決定にかかわるアドバイザー役としての役割を目指していくのです。こうした中で経験を積み、能力を高めていくことが、経営に対する貢献にもなると思います。

松尾 これまで日本企業の経理財務部門は数字の番人でしたが、これから経営に貢献する情報を出し、洞察力が備わると新たな世界が開けてきます。ただ、一気にそこまでは到達できないので、まずは効率化を実現し、そこで生じた余力をもって洞察力を養っていくというやり方をすると、CFOの能力も高まり、会社の中での地位も向上させることができると思います。

CFOの役割は進化している

1,900人の意見から見えた、経理財務部門の新しい姿。