タブの始まり
柔軟なビジネスモデルの変革や社内外にわたる迅速なビジネスプロセスの実装を目指すSmart Workを具現化するのに役立つ手法がBPMです。これまでの変革手法と何が異なるのか。IBMではコンサルティングを通じて企業変革を支援しています。ここでは、目標とする未来型の企業像とそれに向けた具体的なアプローチ方法についてご紹介します。
不確実性の時代に問われる“実験力”を磨く
「完成度」ではなく「スピード」、あえて最適を強調しない

IBCS 戦略コンサルティングサービス
マネージングコンサルタント
天坊吉彦「Smart Planetの実現に向けて新しい価値観が台頭し、何事も“お金”だけが指標ではなくなってきました。低炭素社会が謳われ、それを測るモノサシとして“CO2”が重視されていることがその典型でしょう。しかし、今後また新しいモノサシが出現するかもしれません。正解の見えない、あるいは正解が変化していくであろう世界の中で、企業はどうあるべきか? 変化に直面した際のリスクを最小化し柔軟に対応する手法として、ビジネス・プロセス・マネジメントが注目されています」と、IBM ビジネスコンサルティング サービス(IBCS)の戦略コンサルティングサービス マネージングコンサルタントの天坊は指摘します。
これまで企業は顧客のニーズを明確にし、それに高い完成度で応えることで成長を遂げました。いわば“実行力”が問われてきました。しかし、今は顧客自身、何を望んでいるのか分かっていない状況です。「例えば、エコカーが注目されていますが、当初からエコカーへの顧客ニーズがあったわけではないと思います。もちろん低燃費にはニーズがあったのでしょうが、トヨタがプリウスを発表し、そこに込められた環境への想いを聞いて、顧客は初めて“自分の求めていたものはこれだ”、“こういう車に乗るべきだ”と気づいたのではないでしょうか」と天坊は例を挙げて現在の顧客の状況を説明します。
モノサシがはっきりしない状況では、完成度の高さよりもスピードが求められます。「不確実性が高まっているときには、完成度を求めていては手遅れになるばかりか、かえって後戻りができない状況になります。世の中に出して反応を見て、さらに新しいものを出す、というトライ&エラーを繰り返す仕組みである“実験力”が問われているのです」(天坊)。
企業に求められる力が変化するのに伴い、ビジネスプロセスの変革手法も変わってきました。実行力が問われた時代には「カイゼン(Kaizen)」「BPR」が重要視され、実験力が問われる今は「ビジネス・プロセス・マネジメント」が必要とされています。
「カイゼンは完成度を高める手法としてとても優れています。特に日本ではこれを単なる業務分析手法にとどめずに、カイゼン運動というべき経営手法にまで発展させてきました。一方で、部分最適を追求するために大きな変更はできないという限界がありました。作ればそれだけ売れた時代には良かったのですが、やがてモノがあふれるようになると、ほかにはない特徴が求められるようになりました。そこで、BPRに注目が集まったのです」と変遷を説明します。BPRの本質は競争に勝つための一点豪華主義的改革であり、逆に言えば何かを捨てる大勝負になる。結果的に長い時間をかけて準備し、検証する仕組みが必要になります。
しかし、実験力が問われ、変化へのスピーディーな対応が求められる今は、BPRのように時間をかけている余裕はありません。そこでビジネス・プロセス・マネジメントが注目されるようになりました。「重要なのは“脱最適化”です」と天坊はマインドを変える必要性を説きます。80点の出来であってもスピードが優先され、そのためには自社・他社を問わず“アリモノ”の業務プロセスを組み合わせて事業を作るスタイルが基盤となります。
【カイゼン ‐ BPR ‐ ビジネス・プロセス・マネジメント】

BPR(Business Process Reengineering:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)
企業活動に関するある目標(売上高、収益率など)を設定し、それを達成するために業務内容や業務の流れ、組織構造を分析、最適化すること。
社外に目を向ける前に 自社の現状を整理すべき
ビジネス・プロセス・マネジメントの本質である衝撃的なスピードを実現するためには、どこからアプローチすればよいのでしょうか。「社内の他の事業にすでに存在するアリモノを調達することは簡単なはずですが、実際にはできていないケースも多い」と天坊は、社外に目を向ける前に自社の現状を整理すべきだと話します。「たとえば、これまでBtoB(企業間取引)だけに対応していたある事業で新たにBtoC(消費者取引)サービスを始めるとしましょう。BtoCとなると、急激に受注のトランザクションが増えるかもしれない、従来にはない小口配送が必要になるかもしれない。これらに対応する仕組みを用意しようと思うと短期間では不可能でしょう。ところが、実は隣の事業部、あるいは子会社ではBtoCを扱っているかもしれない。そこにある受注機能・物流機能といったアリモノを組み合わせることで、すぐにビジネスプロセスがひと通りそろうわけです」。アリモノの組み合わせで実験していくという、ビジネス・プロセス・マネジメントはエコロジーな発想法でもあります。
自社の現状を評価する際には“どうやっているか”という活動手順ではなく、“何をしているのか”という業務機能単位で評価することがポイントになります。IBMでは、業務機能単位で企業の全体像をとらえるCBM(Component Business Model)を提唱しています。「CBMは各事業が有する業務機能を一目瞭然とする鳥瞰図です。作成過程で自らの業務を棚卸しし、ムダや重複を検討することが重要で、でき上がったときには変革に向けた共通認識が生まれているはず」と天坊。この議論がビジネス・プロセス・マネジメントの前提になります。
さらに、業務単位ごとのパフォーマンスを測るためには、SPI(Strategic Profit Improvement)やABM(Activity-Based Management)が有効です。SPIは、世界の18000社以上もの事例から業務機能単位でのコスト・品質・スピードといったベンチマークデータを用意しており、これを通じて自社の今ある業務単位の有効性を議論できます。ABMは過去600を超える企業変革プロジェクトの産物で、さまざまなビジネスプロセスがモデル化されており、これを各社の設計に取り込むことができます。
アリモノを組み合わせて チャレンジし続ける企業へ
「今後、多くの実験プロジェクトが現場で発生するでしょう。その際にはBPRのようなトップダウンでは間に合わず、自律的な現場力が問われることになります。カイゼン運動で現場力を培ってきた日本人の得意とする領域です。ゆえに日本人にとってビジネス・プロセス・マネジメントは新カイゼン運動とも言えます」(天坊氏)。
個々人がムダに気づき、良し悪しの判断を議論するためには、前述したような業務機能単位の評価方法やベンチマークデータなどが必要になります。現状業務を明らかにする従来の見える化では不十分であり、将来をシミュレートするような可視化技法が必要です。いわば、見える化を超える“見せる化”を実現しなければなりません。
そこではコンサルタントの役割も変わってきます。「これまではコンサルタントがシェフとしてキッチンに入って腕を振るいましたが、これからはシェフを育て、料理する道具を提供するといった、自発的に活動するための仕組みを提供することになります」と新たな役割を示します。
「実験型企業は、Smarter Planetに近づくSmart Workの答えです。ぜひ、実験型企業に変わっていくお手伝いをさせていただきたい」と天坊は語ります。脱最適化を受け入れ、アリモノを組み合わせてチャレンジし続ける。そんな企業に変わることがSmart Workを体現することであり、不確実性の時代に生き残る条件なのです。
