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ビジネスのあり方をよりスマートに変えていく「Smart Work」

村松氏の写真
三井化学株式会社 大阪工場
生産革新室業務革新G
村松 浩一郎 グループリーダー

リーンシグマにより業務の属人化を解消し、技術伝承と業務の集約化を実現

三井化学株式会社(以下、三井化学)大阪工場では、間接部門(品質保証、安全・環境などを含む非製造7部門)での高齢化が進んだ結果、2010年をピークに大量退職が見込まれており、その対応施策のひとつとして集約化センターに業務を集約することが考えられていました。

しかし、大阪工場では、長年同一の担当者が業務を担当していることが多く、業務品質が高い一方で業務が属人化され、隣の担当者がどのような業務をしているかすら分からない状況で、業務の引継ぎも容易ではないことが懸念されていました。

2007年2月に「業務変革プロジェクト」と称して、7つの部署を人事・総務・経理などを中心とした業務ブロックと、品質保証や安全・環境中心の生産ブロックの仮想的な2つのブロックに分け、それぞれに総責任者(部長クラス)、担当者、事務局フォロー者、IBCSという体制の下、大量退職への対応が開始されました。


田中氏の写真
三井化学株式会社 大阪工場
生産革新室
田中 成人 室長(生産ブロック長)

3年後にはいまの従業員の3割以上が退職

そんな状況の中、「とにかく、人に属した仕事を解消し、技術伝承、世代交代を実現させたかった」と安全・環境などのブロックの総責任者である田中ブロック長は言います。

よく言えば三井化学大阪工場の間接業務は効率化、高度化されています。たとえば、ある担当者は自身の業務負荷を軽減するために、在庫量を入力すると自動的に発注量が出る仕組みをエクセルマクロで作成しており、別の担当者は官公庁への提出資料を一手に引き受けることで、遅延や差し戻しがなく受理されるよう高品質な処理していました。

しかし、精巧に作られたマクロは複雑すぎて、壊れてしまえばそれまでの3倍の業務量はかかることになります。しかも作成した担当者以外どのようなロジックで発注量がはじき出されてくるのかまったく分かっていませんでした。さらに、官公庁対応ではその担当者が休むと、問い合わせには答えられず業務が止まってしまうという状況でした。

湯浅氏の写真
三井化学株式会社 大阪工場
総務部
湯浅 浩志 部長(業務ブロック長)
人事・総務・経理などの業務ブロックの総責任者だった湯浅ブロック長はこれまでの取り組みについても言及しています。「過去にも同様の業務改善活動を展開してきたが、いずれも短命で終わっていた。そのつど新しい手法を教わっているが長続きしなかった。」

今回の取り組みを指揮していた生産革新室リーダーである村松浩一郎氏(以下、村松氏)も、この取り組みを一過性のものにするのではなく、この機会に真に強い組織を目指して、現場主導の継続的な取り組みにすべきであると考えていました。現在の業務の属人化は長年放置してきた結果であり、また10年後20年後に同様のことが発生しないようにしたいという思いが強くありました。

「これからは間接部門においても不確実な変化への対応が求められることが想定されるため、最終的には現場で自ら柔軟性が創出できるような組織になるべきであると考えていた。しかし、現場では日常の仕事に追われ、そのようなことを考える時間はとれない状況であった。現場が柔軟性を創出できるようにするには、時間的なゆとりと余力が重要であり、その時間を使って新たな変化に対応するスキル醸成が求められた。そのためにも現場主導で自らの業務を改善できる組織にすることがもっとも重要だった」

大量退職という状況を逆に機会と捉え、業務を人から切り離し柔軟性が創出できるような組織作りが開始されました。

オファリング

Lean Sigma

この取り組みを担う仕組みとして三井化学大阪工場ではIBCSが提供しているソリューションであるLean Sigmaを採用しました。Lean Sigmaは“学習”、“実践”、“晴れ舞台”を通して自社で改革者を育成し、主体的に改革を取り組む組織的運動です。

Lean Sigmaでは、集合研修にて、一連の方法論や手法を共有・体感することから始まります。シミュレーション・エクササイズにて改善活動をゲーム感覚で疑似体験しますが、複数チームでの対抗戦になるため、競争意識も芽生え、改善に対する議論が白熱したものになります。研修を通して手法を理解し、改善実行までを疑似体験することで、今まで現場主導ではなかなか出てこなかった施策が出てくるようになりました。

「自分たちが勝手に常識だと思っていたことが世間の非常識であることに気づかされた。ある側面だけ見がちであったが、分析の側面を学ぶことにより、他方面から見た場合には無駄な業務であることが分かり、メンバーの思考を変革することができた。たとえば、自分の部門を効率化したら、他部門で工数が増えていたケースなどである。全体最適で考えることが重要であり、別の側面から見ることでイメージが沸き、改善の発想が出てくることが分かった。」(村松氏)

【Lean Sigma】

Lean Sigmaの変遷

もちろん、視点や方法論を学んだからといって施策実行まですべてスムーズに進むわけではありません。施策を検討する上では他部門への影響や業務品質の低下などを懸念する声も多く出てきます。そこで重要になるのがパイロットの実施です。検討した施策は時間をかけてボトルネックの洗い出しや新プロセス・デザインを行うのではなく、想定ボトルネックは配慮しつつも、パイロットでまずやってみるという発想です。

パイロットでは、何を検証したいかを定義し、それを検証するためのKPI(パイロットが成功と呼べるための管理指標)を設定します。その上でスケジュールと体制を決め、メンバー全員で共有したあと、PDCAサイクルを回していくのです。これまでの改善活動だと、リスクが不明確な改善活動は上長も承認しにくいため、現場からは確実にできると確信がもてる業務改善施策か、個人で解決できる施策をあげてくることが多くなります。しかし、パイロットではリスクを検証するステップがあるため、できるか分からないから施策としてあげてみよう、と従来より改善施策を抽出しやすい雰囲気作りが可能となります。実際、できないと異論が多い施策でも検証してみると意外に実現可能なことも多くなります。

ここで注意したいのがパイロットでは検討した施策をうまくやることだけが目的ではないという点です。最初からうまくいくと分かっているなら、パイロットなどやる必要はありません。パイロットでは、うまくいったとしても見落とされているボトルネックがないか確認すること、もしくは、うまくいかなくてもその原因に直面し対応策を現実問題として検討することが重要なのです。それによって、改善実行による混乱を最小限に抑えることができ、早期効果の刈取りを可能とします。

【パイロットイメージ】

パイロットの目的と目標の設定(Plan)・新しいプロセスの実行(Do)・効果とボトルネックの確認(Check)・ボトルネック対策の検討(Action)のPDCAサイクルのイメージ

三井化学でも、マニュアルを揃えるだけで業務をやったこともない担当者にできるのか、など、集約化施策の実現性を疑問視する声があがっていたため、集約化業務を中心にパイロットを行いました。

「施策をやる以上、やって失敗はしたくないという意識は強くある。いままでの取り組みでは、検討中とはいっても「試行期間=本番」だった。それが、表立って「試行期間である(失敗してもいい)」とすることで思い切った施策の検討ができるとともに、業務プロセスを検証できるので、やればできるという意識が芽生えた。」(村松氏)

これらの取り組みには工場長をはじめとするトップ層の意思と協力が重要になります。三井化学でも、工場長及び工場の全部長を集め「ステアリングコミッティ」という名の定期的な“晴れ舞台”が提供されました。この舞台で対象となる7部門の担当者は検討内容や改善効果などを直接トップ層に報告します。開始当初は「やらされ感」に不満を持っていたチームも直接トップ層から賞賛してもらったり、トップ層の変えなければいけないという強い姿勢を目の当たりにすることで、取り組みの重要性や意義を実感し、他部門との競争意識も働きながら何とか変えてみようという意識になってきます。現場主導の取り組みの第一歩です。

「こういう取り組みになると第一歩が踏み出せないことが多い。必要性を理解した取り組みとはいえ、現場はやらされ感を持っている、上長の強い意志で巻き込まれることによって覚悟を決め、最初の一歩が踏み出せるようになった。覚悟させ人を動かすことがこのプロジェクトの実施で可能となった。」(村松氏)

その中でLean Sigmaの果たした役割も大きいと湯浅ブロック長は言います。「今回のような新たな切り口での分析、現場に失敗を許すパイロットという方法論はアイディアが斬新であった。また、すべてに対してフォーマットが統一されている点は労力的にも精神的にも助かった。独自でやろうとするとフォーマットから考える必要があり、負担が多く、時間的にも間延びし続かなかったのではないかと思う。このような取り組みは熱が冷めないうちに軌道に乗せることが重要であり、短期間で実施できてよかった。IBCSがいなかったらここまではできていない。もちろん、外部支援と方法論だけでなく社内事務局のフォローがあったからこそ達成できた。」(湯浅ブロック長)

導入効果

組織全体としてレベルアップと意思のある集約化センター

「組織全体としてレベルアップしたと感じる。業務のインプットとアウトプット、また業務の出来栄えがどうか(いわゆる業務のQCD)、また、そもそもその業務が本当に必要かどうかも含めて意識するようになった。この取り組みを通して必然的にそういうものを見る癖がついてきたと感じる。特に集約化施策では自分の仕事を任せることになるので、任せる限りは失敗したくないという意識が出る。どうしたらその業務の成果を評価できるのかを気にするようになった。これは一般社員でも管理者の視点がもてるようになったことであり、全体として底上げができたと感じる」(村松氏)

2009年6月1日、関係会社運営のもと集約センターを開所しました。いままで人に属していた業務が人から離れ、改善され、別の人に渡せるようになった結果です。今回の取り組みでは関係会社も間接部門として参加していましたが、受託側として共に方法論を習得することで、双方のコミュニケーションがより活発になり相乗効果をもたらしました。これまでの形だけの集約化センターとは違う、現場や事務局、受託側も含めた全ての意思が入った集約化センターです。

【属人化解消の技術伝承・集約化イメージ】

1、属人化解消(業務の切り離し) 2、目的・背景理解/改善施策検討 3-1、技術伝承 3-2、集約化 4、Lean Sigmaによるさらなる継続改善

「これまでの改善活動は、自部署内あるいは自社内で完結する活動だった。したがって、改善や効率化により生まれたはずの余力やゆとりは、時間の経過とともに何処かに消えてしまっていた。しかし今回の活動(集約センター)においては、関係会社とはいえ自社外へ仕事を切り出すことにより、決して後戻りできない仕組みを作った。この効果は大きい。関係会社へ委託するにあたっては『委託先は我々のことをまったく知らない会社だと思え』と親子間の馴れ合いを排除し、委託(切り出し)できる業務を搾り出した。そのことが、例えば、一人よがりではない誰が見ても理解出るマニュアルづくりにも繋がっている。今回の活動で、委託側も受託側も、業務の目的や背景をより意識するようになったことも大きな収穫である。」(湯浅ブロック長)

「大阪工場では、過去安全や品質に関する業務は直接部門効率化のため間接部門へ集中してきた。このため、本来直接部門が行うべき業務も一部間接部門が行っている。今回の改善活動では自部署の将来像を検討し、それを実現するには自分たちが何をすべきかが明確になった。」(田中ブロック長)

「集約化でも委託側だけコスト・メリットを享受するような一人勝ちの仕組みでは持続できない。受け手がいることなので、ともに成長できる仕組みにしないといけない。これまでは、担当者が業務を持って関係会社に出向しているだけで実はまったく変わってなく、集約化センターを作ること自体が目的となっていた。いまは、担当者の考えるサービスレベルに対して、受託先も自らが気付いた改善を提案するなどWin-Win関係になろうとしている。併せて工場との金銭面でのやり取りも行っており、その緊張感がいい。」(村松氏)

実際、業務削減効果も出てきています。全社的な残業削減の取り組みにおいて、大阪工場では目標以上に削減されています。取り組みを通して優先順位付けができ、やらなくてもよい業務が明確になった結果であるといいます。

幸田氏の写真
三井化学株式会社 大阪工場
生産革新室業務革新G
幸田 剛 氏
また、今回の改善活動を行う場合、現場が作業を放棄することで推進側のメンバーに負荷が集中したり、時には推進メンバーが余計な業務を増やすと非難されることも多くあります。現場にもっとも密着して改善活動を行っていた事務局フォロー者の幸田氏は苦労とともに効果を語ってくれました。

「取り組みを通して、現場では自身の業務のどこに負荷がかかっているか、その業務の中で何を優先すべきなのかはっきりできるようになったと思うが、取り組みの当初は、現業を抱えながらの活動であり、どうしてもやらされ感が発生する現場に対して粘り強くインタビューするあまり、返答も感情的になることもあった。でもある日、飲み会の席で、『あの時は悪かった、ようやくあの時やりたかったことが分かってきた』とコメントされた。実行側の苦労を改めて実感しながらも、取り組みをやってよかったと思えた瞬間でした。」

また、事務局フォロー者の意識そのものも変わっています。「取り組みの初めは、業務調査インタビューなどIBCSの方策について、自分の中でもやらされ感でやっていた部分はあった。そういう意味では、IBCSとしては社内事務局担当者のささやかな抵抗への対応にも苦労されたと思う。しかし、フォローする上で業務の分析ができるようになると、いまでは自分からこうした方がいいのではないかと思うことが出てきた。現場をこう動かしたい、という思いから、そのために必要なスキルがまだ足りないとも感じるようになった。」(幸田氏)

この取り組みではフォロー者である事務局も同時に方法論を習得し成長する仕組みです。改革実行者がまた別の部門にフォロー者として参画し、また別の改革実行者を育てていく、Lean Sigmaは自社で改革者を増殖させる組織的運動なのです。

将来の展望

世代交代と稼働率向上と他工場展開

三井化学大阪工場では、世代交代については引き続き、取り組み中です。「世代交代については“スキル星取表”として、業務ごとに伝承進捗度を設け、何をどこまでできることになったら技術が伝承されたとするのか、という到達レベルを明記するようにした。これで属人化を標準化に持っていくようにしている。これまでの業務移管というと、真っ先にマニュアルを作ってしまい、一方、もとのマニュアルは備忘録の役割となってしまって、他人に使ってもらうものではなかった。業務を移管される側もその業務を見直して発言するということもなかった。該当業務ができるということは何か、アバウトなものでも口語表現のものでもいいので、教える側と受ける側が相互に納得できるものを作っていこうとしている。」(村松氏)

【スキル星取表】

表のイメージ

集約化センターは今後の稼働率向上がメインのKPIとなります。「今後は稼働率を上げなければいけない。現在は軌道に乗せることが重要であるが、今後はコストメリットを追求していく」(湯浅ブロック長)

「他工場でも今回の取り組みをそのまま実施するんだよ。今回の取り組みをシェアして必要なアドバイスや資料を提供している。今回の取り組みで培ったノウハウがこのように社内で広がっていけばいい。コンサルティングの仕事にはならないかもしれないけどね(笑)。」(村松氏)

他工場が今回の取り組みを継承して現場主導での改善活動を開始しました。最終的には今回と同様に集約化センター設立まで行う意向だといい、工場を超えて展開しています。

お客様の声

潤滑油から燃料へ

「事務局としても現場主導の取り組みにすることを合言葉にして取り組んできた。最初はおぼろげだったが、進むにつれ確実になってきたと感じた。実際に取り組むのは担当職場であり、コンサルタントや事務局はカンフル剤であり潤滑油でもある。方法論を提供したり粘り強く進捗をチェックする、現場からの要請に対して臨機応変に対応することによって、現場主導での改革ができるようになってきた。潤滑油が燃料になれたのではないか。IBCSには方法論や客観的データとともに、モチベーションを向上するやり方を学んだ。やらされ感を排除することよりもモチベーションとのバランスを見せられた。方法論もさることながら制約とモチベーションの使い方、バランスをとりながら意図的にやっていることがこういう取り組みに必要だと感じた。」(村松氏)

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